第602話 救出方法
「テン、どうする?馬車は警備兵が乗ってきたのが一台ここにあるが、金貨100枚なんて簡単には集まらないぞ。それにアルト王子に連絡を取るにしても、王城に移動するだけでも時間が……」
「くそっ……」
「ドリス様に連絡し、金貨を代わりに用意してもらうにしてもここから富豪区までは距離があります。間に合うかどうか……」
犯人の要求に対してテンは悔し気な表情を浮かべ、馬車に関しては警備兵が利用する物が一台存在し、あとは金貨100枚に関してだった。
ここにいる全員の手持ちを合わせてもそれだけの金額を用意する事は出来ない。しかし、頼りになるアルトやドリスは現在は王城にいるため、連絡を取りに行くとしても時間が借り過ぎるし、第一にそれだけの金を簡単に用意できるはずがない。
しかし、ナイは昼間にアッシュ公爵から受け取った大量の金貨の事を思い出し、中身を確認すると金貨は100枚近く存在した。それを取り出したナイはテンに差し出す。
「テンさん、これを使って下さい!!」
「えっ……ちょ、どうしたんだいこんな大金!?何であんたがこんな物……」
「理由は後で説明しますから、いいから使ってください!!」
「あ、ああ……助かるよ!!」
「よし、私達も手持ちの金を全部出せ!!」
ナイのお陰で大量の金貨が集まり、他の者達もお金を出し合う事で金貨100枚相当の金を用意する事は出来た。これで犯人の要求する金貨100枚と馬車は用意できたが、本当に犯人が要求通りに3人を引き渡すとは限らない。
「テン、どうする!?あいつに金と馬車を渡すのか!?」
「それは最終手段だよ……あいつ、20分以内に用意しろと言っていたね。ならまだ15分ぐらいは余裕があるはずだ。ナイ、奴等を呼べるかい?」
「もう連絡は取っています。近くにいるのなら来てくれると思いますけど……」
「奴等?」
テンの言葉にリンダは疑問を抱き、どういう意味なのかとナイに視線を向けると、この時にナイが「犬笛」を手にしている事を知る。いったい何をしているのかとリンダが問う前に街道の方からクロに乗り込んだクノが訪れた。
「お待たせしたでござる!!ナイ殿、何かあったのでござるか!?」
「ウォンッ!!」
「貴女は……?」
「こいつはクノ、まあ……腕利きの暗殺者みたいなもんさ」
「拙者は忍者でござる!!」
リンダはクノと顔を合わせるのは初めてのため、黒狼種に乗り込んだ少女が現れて驚くが、ナイはこの状況でクノを呼び出せたことに心強く思う。
「クノ、実はあの建物の中にヒナとモモとそれともう一人捕まっているんだ。だから、助ける方法はないかな?」
「なるほど、そういう事でござるか……それならば拙者にお任せくだされ、中に忍び込んで人質を救出してくるでござる」
「頼んだよ、あんたが頼りだ!!」
「お待ちください、そういう事ならば私も同行します」
「え、リンダさんも?」
クノの言葉を聞いてリンダは同行を申し出ると、ナイは驚いた声を上げる。しかし、ここでリンダは何を思ったのかメイド服のスカートを引き裂く。
彼女の行動に周囲の男性陣は驚くが、リンダはあくまでも動きやすいようにスカートの一部を切り、そして袖を捲る。動きやすい格好になったリンダはクノに告げた。
「足手まといにはなりません、どうか一緒に行かせてください」
「なるほど……只者ではない様でござるな。承知した、ならば付いて来てほしいでござる」
「そういう事なら僕も行くよ」
「ナイ殿も?」
ナイは侵入の際に邪魔になる旋斧と岩砕剣を置くと、隠密と無音歩行の技能を発動させる。最近は使用する機会がなかったので上手く発動できるのか不安はあったが、何事もなく発動に成功する。
他の人間からすればいきなりナイの姿が半透明になったように見えたが、存在感が薄れただけでナイの姿は把握できた。その様子を見てリンダとクノは驚き、二人は頷く。
「隠密の技能をそこまで極めていられましたか……これなら見つかる事はないでしょう」
「それならば二人とも、拙者に付いて来てほしいでござる。あ、一応は見失わない様に拙者は気配をある程度まで抑えて行動するでござる」
「分かった……残り時間は10分か」
話し込んでいる間にも時間は経過し、ナイとリンダはクノの後に続いて行動を開始する。侵入する際は相手に勘付かれない様に上階の窓から侵入を試みた。
3人は白猫亭の近くの建物に移動し、ここで窓が完全に締め切られているのを確認する。犯人は建物の中に入った男一人のため、部屋の中から外の様子を伺っていたとしても、窓が完全に締め切られている場所には男はいないはずだった。
「まずは建物を移動する必要があるでござるが……飛び移ると気付かれるかもしれないでござるな」
「大丈夫、こいつを使うから」
「それは?」
ナイは左腕の腕鉄鋼に内蔵されたフックショットを利用し、まずは一番上の階の窓の下の部分に向けてフックショットを放つ。見事に狙いは的中し、ミスリルの刃が壁にめり込んだ。
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