第593話 ナイVSゴブリン亜種
(しまった……目がっ!?)
額を出血した事で両目に血が流れ込み、視界を封じられたナイは膝を着く。その様子を見てゴブリンは笑みを浮かべ、勝利を確信した様に近付く。
しかし、ゴブリンはナイに両手の爪を放とうとした瞬間、自分の首が飛ばされる光景を想像する。野生の本能がゴブリンの行動を止め、咄嗟にゴブリンは後ろに跳ぶと先ほどまで自分の頭が存在した場所に旋斧が通り過ぎた。
「このぉっ!!」
「グギャッ……!?」
ナイは心眼でゴブリンの位置を読み取り、旋斧を振り抜き、あと少しで首を切り落とせたが避けられてしまう。慌ててゴブリンは距離を取ると、ナイは額に触れて血を抑える。
(くそ、避けられた……まだ、上手く扱えないか)
本能的にナイは心眼を発揮してゴブリンの位置を読み取り、攻撃する事に成功した。しかし、まだ心眼の方は完璧に身に付けたとはいえず、あまりに距離が離れ過ぎるとゴブリンの位置が掴めない。
ゴブリンは両目が封じられているのに自分の位置を読み取ったように攻撃を仕掛けてきたナイに警戒し、ここで彼が本当は自分の事を見えているのかと疑問を抱く。そこでゴブリンは落ちている小石を拾い上げ、ナイに投擲する。
「グギャッ!!」
「くっ!?」
ナイは咄嗟に旋斧で放たれた小石を弾くと、それを見たゴブリンは自分の行動が読まれている事に気付き、不用意に近づく事を辞めた。ゴブリンはゆっくりと移動し、足音を立てない様にする。
(静かになった……音で自分の位置を探られない様にしているのか?)
ゴブリンの声と足音が聞こえなくなった事にナイは冷や汗を流し、この状況下ではもう心眼に頼るしかない。次にゴブリンが近付いて来た時、ナイは確実に仕留めるために旋斧を握りしめた。
数秒後、遂にしびれを切らしたゴブリンが駆けつける。ナイは足音を耳にして振り返ると、ゴブリンは跳躍を行い、頭上からナイの頭に目掛けて爪を放つ。
「グギィッ!!」
「そこだぁっ!!」
ナイは上空から下りてきたゴブリンに対して旋斧を振りかざし、刃と爪が激突した。その結果、ゴブリンは爪を破壊されてしまうが、この時に破壊された爪はゴブリンの「両足」の爪だった。
両足の爪は切り裂かれたが、残りの両手の爪は健在であり、旋斧を振り抜いたナイに対してゴブリンは両腕の爪を振り下ろそうとする。
「グギィイイッ!!」
「ぷるるんっ!!」
「っ……!?」
しかし、ここで予想外の出来事が発生した。それは弾力を生かしてスライムが間に飛び込み、ゴブリンの顔に目掛けて突っ込む。空中でスライムの体当たりを受けたゴブリンは狙いを外し、ナイの頭上に両手の爪が通過した。
「グギャッ!?」
「そこかぁああっ!!」
ナイは旋斧を手放して声のした方向に腕を伸ばし、右手でゴブリンの足を掴むと、剛力を発動させて地面に叩き込む。まるで巨人族の如き怪力で叩きつけられたゴブリンは血反吐を吐き散らす。
しかし、ナイの攻撃はそこでは終わらず、何度もナイはゴブリンを持ち上げては地面に叩きつけ、ゴブリンの悲鳴が草原に響く。やがて再生術を利用してナイは額の傷を治し、両目の血を拭うと、そこには身体が異様な方向に折れ曲がったゴブリンが倒れていた。
「グゥッ……ギャッ……!?」
「まだ生きているのか……けど、これで終わりだ」
ナイは倒れたまま動けないゴブリンに対して旋斧を持ち上げ、確実に止めを刺すために武器を構えた。しかし、それに対してゴブリンは目を見開き、最後の力を振り絞って身体を動かし、ナイの首筋に噛みつこうとした。
「グギャアッ……!?」
「ガアアアッ!!」
だが、ゴブリンがナイの首に噛みつく事は出来ず、負傷して倒れていたはずのビャクが駆けつけ、ゴブリンの首筋に喰らいつく。そのままビャクはゴブリンの身体を振り回し、凄まじい咬筋力で首の骨を噛み砕く。
「ッ――――!?」
「グゥウッ……ペッ!!」
「ビャク……助かったよ」
首がへし折られたゴブリンは事切れたらしく、動かなくなった。ビャクはゴブリンを吐き出すと、身体から血を流しながらもナイの元へ近づき、擦り寄る。
「クゥ〜ンッ……」
「よかった、怪我は痛くない?」
「ぷるぷるっ」
「君もありがとう、助かったよ……」
ナイの足元にスライムも擦り寄り、とりあえずは自分を救ってくれた2匹に感謝するとナイはビャクに回復魔法を施す。派手に出血したように見えが怪我自体はそれほどではなく、すぐに治療できた。
改めてナイは倒したゴブリンに視線を向け、間違いなく要塞で捕獲したゴブリン亜種だと確かめる。どうしてこんな場所に居るのかと思いながらもナイはゴブリンの死骸を回収し、街へ戻る事にした――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます