第591話 スライムが現れた!!
ビャクが舐め上げた石の正体はどうやら魔物だったらしく、しかもナイは見るのは初めてだが存在はよく知っていた。青色の体色に弾力性に優れた身体、触れるとひんやりとしていて心地よく、何よりも見た目が可愛らしい。
「こいつ……スライムか」
「ぷるんっ……」
「ウォンッ!!」
川岸にてビャクが発見したのはスライムと呼ばれる魔物だと判明し、スライムはナイとビャクに勘付かれた事に気付き、慌てて逃げ出そうと身体を弾ませて距離を取る。その様子を見てナイは脅かしてしまったと思い、声を掛けた。
「大丈夫、傷つけたりなんてしないよ?」
「ぷるぷるっ?」
スライムは大きな岩の陰に身を隠すと、まるで「本当?」という風に少しだけ顔を覗かせる。そんなスライムに対してナイは何か渡す物はないのかを探すと、以前にイリアから貰った魔力回復薬を思い出す。
こちらの魔力回復薬はイリアに渡された代物であり、今の今までずっと持っていた事を思い出す。スライムの好物は回復薬や魔力回復薬のような液体だと前に魔物に関する図鑑で読んだ事があり、ナイは魔力回復薬を差し出す。
「ほら、これ上げるから……」
「ぷるぷるっ♪」
「ウォンッ……」
魔力回復薬をナイが差し出すと、あっさりとスライムは彼の元に移動し、嬉しそうに身体を弾ませる。餌を見せた途端に警戒心を一瞬で解いたスライムにビャクは呆れるが、ナイは小瓶を傾けるとスライムは口の部分を開く。
ちなみにこちらの世界のスライムは瞳と口は存在し、頭には角のような触手を二つ生やしている。魔物ではあるが人間に対して危害を加える存在ではなく、むしろ人間の言葉を理解する知能まで持ち合わせている。
「ほら、ゆっくりと飲むんだよ」
「ぷるるっ……」
ナイが魔力回復薬を口の中に注ぐとスライムは嬉しそうに飲み込み、やがて身体が大きくなる。どうやら魔力を含んだ液体を飲むと身体が膨らむらしく、最初は片手でも収まる程の大きさだったが、一気に両手で抱えても余る程の大きさへと変化した。
「うわ、デカくなった!?」
「ぷるるんっ♪」
「ペロペロッ……」
大きくなったスライムを見てナイは驚くが、ビャクはそんなスライムを舐めるとスライムはくすぐったい表情を浮かべ、彼の頭の上に飛び乗る。
「ぷるぷるっ!!」
「ウォンッ!?」
「あははっ、新しい友達が出来たね。でも、最初は全然気づかなったな……気配感知も全く反応しなかったし、凄い擬態能力だ」
ゴブリンの捜索中はナイは気配感知を常に発動していたのだが、石に擬態していたスライムには全く気づく事が出来なかった。スライムの擬態能力は気配すらも完璧に隠し通すらしく、見た目は可愛らしいが実はすごい魔物かもしれない。
その後はナイはスライムを触ったり、揉んだり、ボールのように利用して遊んだりしてみたが、スライムは特に機嫌を損ねる事もなくむしろ嬉しそうにしていた。初めて見る人間と白狼種を相手にしても警戒すらせず、それどころかすっかり懐いてしまう。
「ぷるぷる〜」
「よしよし、人懐っこい奴だな……でも、そろそろ仕事に戻らないとな。行こうか、ビャク。また遊びにくるからね、スライム君」
「ウォンッ」
「ぷるんっ……」
ナイとビャクが川辺から離れるとスライムは寂しそうな表情を浮かべ、岩の上から見送る。その様子を見てナイは少し可哀想に思ったが、仕事に集中しなければならない。
「よし、ゴブリンを探そう。ビャク、臭いは感じない?」
「スンスンッ……クゥ〜ンッ」
「駄目か……もう、この辺にはいないのかな?」
王都の周辺をぐるりと回っては見たが、未だにゴブリンの臭いは感じられず、ナイは困り果てる。ビャクの鼻を当てにしていただけに彼がゴブリンを見つけられなければ仕事は果たせない。
どうするべきかと悩んでいると、ここでナイは後ろから何かが音が聞こえ、振り返るとそこにはスライムが焦った様子で身体を弾ませながらナイに元へ向かう。
「ぷるるるんっ!!」
「えっ……どうしたの?もう遊ぶ事は……」
「ウォンッ!?」
スライムに振り返ったナイはもう構っている時間は無い事を伝えようとしたが、ビャクは遅れて何かに気付いた様に地面に視線を向け、跳躍を行う。ビャクの行動に驚いたナイは背中から振り落とされない様にすると、急に地面が盛り上がり、見覚えのある魔物が出現した。
「ジュルルルッ……!!」
「あれは……サンドワーム!?」
「グルルルッ……!!」
「ぷるるんっ!!」
以前にも草原で遭遇したサンドワームが出現し、それを見たビャクは地上に着地すると唸り声をあげ、スライムの方もナイ達の元へ移動する。それを見てナイはすぐにスライムが自分達に危険を知らせようとしていた事を悟る。
(まさか、ビャクよりも早くサンドワームの存在に気付いて注意してくれたのか!?)
サンドワームが出現する寸前にスライムはナイ達に警告するように身体を弾ませて後を追いかけ、その直後にサンドワームが襲った。どうやらスライムは魔物を感知する能力もずば抜けており、もしもスライムが警告していなかったら今頃は危なかったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます