第589話 とある噂
「お主の話によると旋斧と岩砕剣はあのフクツが作り出したという話だったな……流石は伝説の鍛冶師……いったいどうやってこんな代物を作り出したのじゃ」
「ハマーンさんはそのフクツという人の事を知っているですか?」
「当たり前じゃ!!この王国で鍛冶師を志す者ならば必ずフクツの存在を知らん者はおらん!!」
「そんなに凄い人なんですね……でも、どうしてそんなに凄い人が作った武器なのに旋斧と岩砕剣は全然有名じゃないんでしょうか」
「ふむ、その点は儂も気になっておった」
アルの弟であるエルによれば旋斧と岩砕剣は伝説の鍛冶師とまで称されたフクツが作り上げた魔剣だが、この二つの魔剣の存在は世間には全くと言っていいほどに知られていない。そもそもフクツは魔剣を作り出したという話自体もハマーンは初耳だった。
だが、岩砕剣はともかく、旋斧に関しては普通の魔剣とは明らかに異なる能力を持ち合わせており、敵を倒す度に生命力を奪い、成長して形状を変化させる魔剣など聞いた事もなく、ハマーンでさえも製作できない。
「これほどの魔剣ならばもっと有名になっていてもおかしくはないが……そういえば気になるのは旋斧を渡したという剣士は何者じゃ?」
「それが良く分からないんですよね、爺ちゃんの先祖だとは思うんですけど、それが誰かなのかはエルさんも知らないらしくて……」
「そうか……それは残念じゃ」
ハマーンはナイに旋斧を返却すると、ついでに彼の他の装備品の点検も行い、この時に彼は魔法腕輪の魔石を確認してある事に気付く。
「ん?水属性の魔石だけ嵌めていないではないか。それに他の魔石も大分魔力が減って色合いが薄れているな……おや、聖属性の煌魔石の方は魔力が有り余っておるな」
「あ、定期的にモモが魔力を注入してくれるので……」
「なるほど、あの娘か……」
モモが渡した煌魔石は魔力を切れかける度に彼女が魔力を送ってくれるため、今の所は魔力が切れる様子はない。しかし、他の魔石に関しては飛行船でイチノへ向かった時から交換もしておらず、殆ど魔力が尽きかけていた。
「ふむ、魔石の交換が必要のようじゃな……金さえ払うならここで交換してもいいが、どうする?」
「いいんですか?」
「うむ、お主もあれだけ活躍したのだから報酬はたんまりと貰っておるんだろう?」
「え?いや、特にそういうのは……」
「なぬ!?」
ハマーンはイチノでナイが活躍したのを見ていたため、彼には相応の報酬が王国側から支払われていると思っていた。しかし、実際の所はナイは表彰式の際に勲章を授かったぐらいで他に報酬は受け取っていない。
理由としてはナイが本来与えられる「特別報酬」の権利をシノビに譲ったのが原因であり、しかも現在の王国は飛行船を動かすのに大量の魔石を消費した事で財政難に陥っている。だからこそナイは金銭の類の報酬は受け取っておらず、手持ちの金はいくらかあるが魔法腕輪の魔石を交換する程の金はなかった。
「待て待て、それでも少しぐらいは金を持っておるんじゃろう?第一にお主はアルト王子のお気に入りではないか!!」
「いや、アルトから借りるのは申し訳ないし、アルトも最近は余裕がないそうで……」
この国の第三王子であるアルトの元に世話になっているナイではあるが、別にナイはアルトの配下でもなく、白狼騎士団に所属しているわけではないので給金も受け取っていない。今までは成り行きで王国のために貢献していたが、別にナイは王国のために頑張ったつもりはない。
飛行船でイチノに向かった際もナイは王命を受けた形になるが、別に国王の命令がなくともドルトン達が暮らすイチノを放置できず、どちらにしろナイはイチノに向かっていた。先日のルナにしろ、イゾウに狙われた件にしろ、そちらの方は世話になっているテンが困っていたので力を貸しただけに過ぎなかった。
「お主、あれだけ苦労しておるのに魔石を買う金すらもないのか……」
「いや、でも魔石も結構高いんですよね」
「まあ、最近は確かに魔石の消費量が増えて値段も高騰化しているがな」
飛行船を動かす際に大量の風属性と火属性の魔石を消費し、現在の王都ではこの二つの魔石の価値が高まっている。この二種類以外の魔石も価格が上昇しているらしく、この時期に聖属性以外の魔石を取り換える場合はそれなりの値段が掛かる。
「う〜む、これだけの数の魔石を交換するとなると金貨が15枚、いや20枚か?それだけの金はあるのか?」
「いや、流石にそんなには……」
「仕方あるまい、それならばまた儂の仕事を代行してくれるか?」
「仕事?」
「うむ、実は戻って早々に面倒な依頼を受けてな……これなんじゃが」
ハマーンは一枚の羊皮紙を取り出し、それをナイに手渡す。その内容は王都周辺の草原に現れた得体の知れないゴブリンの討伐と記されていた――
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