第586話 闇に対抗するには……
「はあっ、はっ……何だ、身体が……!?」
「くっ……しまった!?ナイ、そいつに近付き過ぎたら駄目だ!!死霊の放つ闇属性の魔力の影響で体力が削られるんだよ!!」
「えっ!?それ、もっと早く……言ってください!!」
『ウガァッ!!』
テンは死霊に関しての特徴を言い忘れていた事を思い出し、イゾウが放つ闇属性の魔力の影響でナイは体力が低下し、思うように力が出ない。その一方でイゾウの動きはどんどんと早くなり、徐々にナイは追い詰められていく。
旋斧よりも重量が大きい岩砕剣を使う事でより体力を消耗し、このままでは駄目かと思われた時、ナイはある武器に気付く。どうせこのままでは殺されると思ったナイは岩砕剣を手放し、賭けに出た。
「これなら、どうだ!!」
『グフゥウウウッ!?』
「うわっ!?」
刺剣を手にしたナイは柄の部分に嵌め込まれている風属性の魔石を操作して放つと、風属性の魔力によって高速回転しながら放たれた刺剣がイゾウの腹部に的中し、肉体を貫通して壁際まで吹き飛ばす。
この刺剣はトロールの分厚い脂肪さえも貫く威力を誇り、壁に突き刺さったイゾウは必死に抜け出そうとするが、更にナイは続けて刺剣を放つ。
「もう1発!!」
『ガアアッ!?』
「やった!!」
続きけて放った刺剣は風魔を握りしめていた右腕に的中し、壁に突き刺さる。この際にイゾウは風魔を手放し、その様子を見たナイは勝利を確信しかけるが、ここでイゾウはまさかの行動に移す。
『ガアアアッ!!』
「なっ……嘘だろ!?」
「ひいっ!?こいつ、まだ動けるのかい!?」
「いいからあんたは早く抜きな!!」
イゾウは自分の肉体に刺剣が突き刺さった状態で無理やりに動かし、肉が抉れるのも気にせずに刺剣から抜け出す。右腕は半分ほど引きちぎれ、腹部に穴が生まれる。それでもイゾウは止まらず、ナイの元へ向かう。
『ウガアアアッ!!』
「くっ……」
「ナイ、頭を下げて!!」
「えっ!?」
後ろから聞こえてきた声にナイは驚いて振り返ると、そこにはミイナの姿が存在した。彼女の手元には以前に飛行船を襲った空賊が所持していた手斧型の魔剣が存在し、彼女は勢いよく投擲を行う。
ミイナが投げた武器は魔斧の一種で「輪斧」と呼ばれ、空中で高速回転しながら使用者の指示に従って軌道を変更させて相手を攻撃する魔斧だった。ナイは慌てて頭を下げると、彼の頭上を通り過ぎてイゾウの元へ向かう。
『グハァッ!?』
「よしっ、今回は当たった!!」
「なら今度は私だ!!あの時はよくもやったな!!」
輪斧はイゾウの身体に的中し、右腕を切り飛ばすと壁にめり込む。それを確認したミイナは嬉しそうな声を上げるが、続けてルナが彼女の身体を跳び越えて戦斧を振りかざす。
「くたばれ!!」
『ブフゥッ!?』
ルナは戦斧をイゾウに叩きつけると、彼は地面に倒れ込み、そのままルナは何度も戦斧を放つ。彼女は以前にイゾウとシャドウに嵌められて犯罪者になりかけた事を思い出し、怒りのあまりに叩きつける。
「このこのこのっ!!」
『ガアッ!?ハグッ……グウウッ!?』
「す、凄い……」
「ナイさん、無事ですか!?」
「怪我をしていないかい!?ほら、回復薬ならあるよ!!」
イゾウをルナが痛めつけている間にナイの元にヒイロとアルトが駆けつけ、どうやら他の仲間達も遂に辿り着いたらしく、シノビと聖女騎士団の面々も到着していた。
「これは……イゾウ、なのか!?」
「兄者、あれは間違いなくイゾウでござる!!」
「うっ……この嫌な感じ、まさか死霊か?」
「ルナ、その辺にしろ!!それ以上にそいつを刺激するな!!」
「ちぇっ……まだ殴り足りないぞ!!」
『ググゥッ……!!』
他の団員がルナを注意すると、彼女は戦斧でイゾウを地面にめり込ませながら文句を告げる。その一方でテンは他の団員に肩を貸して貰い、どうにか立ち上がる。
遂に仲間達が到着し、完全にイゾウは包囲された。ここまでの戦闘でイゾウは右腕が完全に引きちぎれ、腹部にも大きな穴が出来ていた。普通に考えればもう戦える状態ではないが、彼はナイを睨みつけておぞましい声を上げる。
『ゴロスゥッ……ゴロシテヤルゥッ……!!』
「うっ……!?」
「まだ意識が残っていたのかい……余程、あんたに恨みがあるようだね」
「往生際が悪い……潔く死ね!!」
ナイを睨みつけるイゾウに対してシノビは短刀を構えるが、そんな彼の肩をテンは掴み、首を振る。普通の武器では今のイゾウを完全に殺す事は出来ない事を告げた。
「そいつを倒すにはあんたの武器じゃ無理だよ……こいつの魂は闇に囚われている。それを解放するにはその闇を振り払わないといけないんだよ」
「闇……どういう意味だ?」
「分かりやすく言えば今のこいつは闇属性の魔力で無理やりに魂を肉体に留めているのさ。なら、その魔力を断ち切れば……こいつの魂は解放される」
「そんな事が出来るんですか?」
「なるほど……退魔刀の力を使うんだね」
テンの言葉にヒイロは驚くが、ここでアルトは何かを察したのか彼はテンが所持している退魔刀に視線を向けた。魔道具職人を目指すアルトは退魔刀の能力も把握しており、正に名前の通りに「魔を退く力」を持っている事を知っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます