第585話 死霊術

『ウオオオオオッ……!!』

「な、何なんだこいつは!?何でまだ生きてるんだい!?」

「くそ、最悪だ……ナイ、これ以上にそいつに闇属性の魔法攻撃を与えたら駄目だ!!きっとそいつは死霊系の魔物と同じなんだよ!!」

「死霊系の魔物!?」



壁に激突し、全身を黒炎に襲われながらも起き上がったイゾウにネズミは驚愕するが、テンだけは彼の正体を見抜き、ナイに警告する。死霊系の魔物という言葉にナイは戸惑い、テンが説明を行う。



「あんたは死霊系の魔物を見た事はないだろうけど、生前に未練を残した強い魂は闇属性の魔力を得る事で死霊ゴーストと呼ばれる存在に化す事があるんだ!!恐らく、そいつはもう死んでいる!!けど、魔道具か何かで死霊として蘇ったんだよ!!」

「蘇った!?」

「ああ、だけど人としての意識はもう殆ど残っていないはずだ!!今のそいつは生物の持つ聖属性の魔力に反応して襲い掛かるだけのただの殺戮者だ!!」

『アアアアッ!!』



テンの説明を聞いている間にもイゾウは風魔をむちゃくちゃに振り回し、確かにその姿は生前の彼からは想像も出来ない姿だった。武術の心得を微塵も感じさせない武器の使い方を見てナイは哀れに思う。


今のイゾウは人の形をした猛獣のような存在であり、生物に反応して襲い掛かる化物と化していた。しかも先ほどの攻撃で受けた黒炎は徐々にイゾウの身体の中に吸い込まれるように消えていき、やがて全身を覆い込む魔力が膨れ上がる。



『フウッ……フウッ……!!』

「さ、更に禍々しくなったでござるよ!?」

「まずい……くそ、あんたらあたしの身体から針を抜いてくれ!!あたしがこいつを倒す!!ナイ、それまで時間を稼いでくれ!!」

「何を言ってるんだい、あんた!?」



テンの言葉にネズミは驚き、この状況下で身体が麻痺して碌に動けもしないテンがイゾウを倒せるとは思えない。しかし、テンは退魔刀に視線を向け、怒鳴りつける。



「いいから早く針を抜いてくれ!!あたしがその大剣を使えばこいつを倒せるんだよ!!」

「本当でござるか!?」

「ああ、だけどそれまでの間はナイ!!あんたがそいつを抑えるんだ!!」

「抑えろって……うわぁっ!?」

『ガアアッ!!』



イゾウはテンに言われるまでもなくナイを標的に定め、彼に向けて風魔を繰り出す。意識を半ば失いながらも風魔を手放さずにナイを狙う辺り、彼が余程ナイに恨みを抱いていた事が伺えた。


ナイはイゾウの攻撃を躱しながら旋斧に視線を向け、この武器では相性が悪い事を悟る。先ほどまでは旋斧の能力で風魔を打ち破ったが、今は逆に立場が反転してしまう。



(岩砕剣で行くしかない!!)



剛力を発動させてナイは旋斧を放り投げ、代わりに岩砕剣を引き抜く。この魔剣ならば魔力を吸収される事はなく、更に地属性の魔力を加える事で重量を増加させて攻撃する事が出来た。



「だああっ!!」

『グウッ!?』



風魔に岩砕剣を叩き込むと、イゾウは押し返される。案の定というべきか、岩砕剣は風魔に触れても特に変化はない。それを確認したナイはイゾウに反撃を繰り出す。



「はあああっ!!」

『ウウッ!?グゥッ!?』

「よ、よし!!押してるよ、その調子で行け!!」

「ウォンッ!!」



闇属性の魔力を纏うイゾウに対してナイは岩砕剣で押していき、その様子を他の者は応援する。加勢したい所だが、下手に今のイゾウに近付くのは危険過ぎた。


ビャクの場合はイゾウに触れるだけで危うく、ネズミの場合は戦闘手段は彼女が従えている灰鼠だけであり、しかもイゾウの痺れ薬によって鼠達は動けない。但し、クノだけは戦えるが彼女は廃墟の外に飛び出す。



「ナイ殿、他の者達を探してくるでござる!!すぐに戻ってくるから持ちこたえてほしいでござる!!」

「分かった、でも早くして!!」

『グゥウッ……!!』

「ネズミ、あんたは早くあたしの針を抜きな!!」

「育て親を呼び捨てにするんじゃないよ、馬鹿娘!!」



ナイが抑えている間にクノは救援を呼びに行き、一方でネズミは身体を必死に動かしてテンに突き刺さった針を抜き始める。針を引き抜く度にテンは歯を食いしばり、痛みを我慢する。



「よ、よし……このまま抜くよ!!」

「ふぎぎぎっ……!!」

「だ、大丈夫なのかい!?」

「いいから早くしなっ!!」



抜こうとする度に凄い表情を浮かべるテンをネズミは案じるが、彼女は早く抜くように催促し、それに応えてネズミは次々と身体に刺さった針を抜く。その様子を定期的に確認しながらナイはイゾウに剣を振り抜く。


意識を半ば失っているので現在のイゾウは自分の剣技を忘れているが、肉体の方は自由に動かせるらしく、鍛えられた反射神経を生かして攻撃を躱す事が多くなった。ナイは岩砕剣で一気に仕留めようとするが、何故か身体が思うように動かない。

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