第583話 憐れみ
「うがぁああああっ!?」
「あっ……まずい、動かないで!!」
炎に包まれて苦しむイゾウを見てナイは慌てて旋斧を構え、炎を消そうとした。だが、ここで彼は現在の旋斧では水属性の魔法剣を使えない事を思い出す。
火属性の魔法(剣)で作り出された炎を消すのは水属性の魔力を与えるのが一番なのだが、生憎とナイは水属性の魔法は使えない。仕方がないのでナイは魔法腕輪から水属性の魔石を取り出し、それをもがき苦しむイゾウに近付き、剛力を発動させて魔石に力を込めて握り潰す。
「くっ……このぉっ!!」
「っ……!?」
「ナイ殿!?いったい何を……」
「馬鹿、あんたが氷漬けになるよ!?」
「何て無茶を……」
ナイは魔石を握りしめて万力の如く握力で破壊すると、水属性の魔力が周囲に拡散し、床が凍り付く。この際にイゾウが纏っていた炎も消え去り、その一方でナイの右手は凍り付いてしまう。
自分がした事とはいえ、燃え盛るイゾウを見てナイは死なせたくはないと思い、水属性の魔石と自分の腕を犠牲にしてまで彼を救う。その後、ナイは旋斧を構えると凍り付いた腕に刃を近づけ、この状態で魔力を吸収させる。
「旋斧、頼む……」
祈るようにナイは旋斧に手を伸ばすと、まるで主人を救うために旋斧はナイの右腕に纏った水属性の魔力を吸い上げる。すると凍り付いていた腕が元に戻り、すかさずにナイは再生術を発動させて凍傷を治す。
「ふうっ……助かった」
「あ、がっ……!?」
「ナイ殿……どうしてイゾウを助けたのでござるか?」
自分の身を危険に晒してまでイゾウを助けたナイにクノは問い質すと、ナイは倒れているイゾウに視線を向け、憐れみの言葉を掛ける。
「……このまま死ぬのは可哀想と思った。だから、放っておけなかった」
「っ……!?」
イゾウはナイの言葉を聞いて口を開くが、言葉を発する事は出来なかった。そんな彼を見てクノは様子を伺い、全身に酷い火傷を負っていた。この状態では回復薬の類を利用しても完全に治るのは難しい。
ナイの言う通りに現在のイゾウの姿は哀れであり、殺されかけたクノでさえも同情を抱く。しかし、イゾウはナイに憐れみを掛けられた事に誇りが傷つき、彼は身体を震わせながらも腕を伸ばす。
(こんな小僧に……!!)
自分を追い詰め、しかも憐れみで自分を救ったナイに対してイゾウは激しく怒り、こんな甘い男に自分は敗れたのかと考えるだけで我慢ならない。しかし、いくら足掻こうと今の彼にはナイをどうする事も出来ず、屈辱を味わう。
(ふざけるな、こんな終わり方は嫌だ……!!)
もう自分は助からない事はイゾウも理解しており、ここで死ぬ事を嫌でも理解する。イゾウは必死に身体を動かそうとした時、ここである事に気付く。
(――シャドウ?)
彼の視界には廃墟の中に存在する柱の陰にシャドウの姿を発見した。シャドウは日に照らされた柱の影の中に佇み、自分の胸元に向けて親指を向けていた。
その意図を察したイゾウはシャドウを見つめ、やがて覚悟を決めた様に目つきを閉じる。先ほど、イゾウはクノが投げたクナイが落ちている事に気付き、彼は最後の力を振り絞ってクナイを取り上げる。
「がぁあああっ!!」
「えっ!?」
「ナイ殿、危ないっ!?」
クナイを手にしたイゾウは大声を上げると、咄嗟にクノはナイが狙われると思って彼に抱きつき、イゾウから離れた。しかし、イゾウの狙いはナイではなく、彼は自分の胸元に目掛けてクナイを振り下ろす。
「あがぁっ……!?」
「なっ!?」
「ウォンッ!?」
「馬鹿なっ……!?」
自分自身で心臓に目掛けてクナイを突き刺したイゾウを見て全員が驚愕の表情を浮かべるが、この時に柱に隠れていたシャドウはイゾウに向けて手を伸ばす。その次の瞬間、彼の身体から闇属性の魔力が噴き出す――
――数年前、里から抜け出したイゾウは王都にてシャドウと出会い、彼と契約を交わした。その内容はイゾウはシャドウと手を組むために、彼から特殊な魔石を渡され、それを体内に埋め込む。
『イゾウ、俺は用心深い男でな……俺の相棒になるというのであればこいつを体内に埋め込む。これを埋め込まれればお前は俺を裏切る事は出来ない。だが、一度限りなら死の淵から呼び戻す事が出来る』
『何だと……?』
『人間、死ねばそこで終わりだ。だが、こいつを使えばたった一度限りだが蘇る事が出来る。お前が俺の相棒になりたいのなら……これを受け入れろ』
『……面白い、やってくれ』
イゾウはシャドウの相棒になるがために彼の条件を受け入れ、闇医者に身体を切り開かせて体内に特殊な魔石を埋め込む。そして遂にその魔石の真の効果が発揮される――
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