第580話 窮鼠
「くそっ、身体がっ……!?」
「し、痺れて……」
「ううっ……」
煙を吸った3人は身体が痺れ、立っている事も出来ずに倒れ込む。その様子を見てイゾウは新しい針を取り出し、まずは完全に動きを封じるためにテンの両足に向けて針を放つ。
「はっ!!」
「ぐああっ!?」
「テ、テン……!?」
「テン殿……!?」
身体が動けない状態でテンは両足に針を撃ち込まれ、彼女は悲鳴を漏らす。太腿に針が突き刺さった事で彼女は少し動くだけで激痛に襲われ、更にイゾウは容赦なく次の針を撃ち込む。
「ふんっ!!」
「がああっ!?」
「く、くそっ……止めろっ!!うちのガキに手を出すんじゃないよ!!」
「おのれ……!!」
今度はテンの両腕が針に貫かれ、仮に痺れが抜けたとしても両腕と両足はまともに動かせない状態へと追い込まれたテンを見てネズミとクノは怒りを抱く。しかし、それに対してイゾウは意にも解せず、風魔を構えた。
針はもう使い切ったので仕留めるには近付いて止めを刺す必要があり、この時に彼はテンの元へ駆け出す。しかし、彼が近付いた瞬間にクノはクナイを投げ込む。
「投っ!!」
「ぬうっ!?」
身体が痺れているはずのクノだが、何故か彼女はイゾウが近付いた瞬間に起き上がると、クナイを投げ込む。それに対してイゾウは風魔で弾き返すが、彼女は手元を手繰り寄せると弾かれたクナイが彼女の元に戻る。
クノが使用するクナイには鋼線が巻き付いており、彼女が指に装着している指輪と繋がっている。そのため、鋼線を手繰り寄せると指輪を通じてクナイが元へ戻る仕組みになっていた。クナイを取り戻したクノは立ち上がると、イゾウは舌打ちを行う。
「そうか……毒耐性の技能を覚えていたな」
「一流の忍者ならば当然でござる!!」
忍者として育てられたクノはもしも敵が毒を使用する場合に備え、毒耐性の技能も身に着けていた。そのお陰で痺れ薬を吸い込んでも多少は身体を動かせるが、それでもイゾウは動じない。
「なるほど、確かにお前の事を甘く見ていた。しかし、そんな状態でこの二人を守り切れると思うのか?」
「くっ……」
「畜生……このくそ野郎がっ……」
「…………」
地面に倒れているテンとネズミを見てクノは表情を歪め、認めたくはないがクノはイゾウと比べて自分が実力的に劣っている事は理解しており、しかも倒れている二人を守りながら戦う事など出来るはずがない。
犬笛が無事ならば今すぐに他の仲間に危険を知らせる事が出来るのだが、それを見越してイゾウは先手を打って犬笛を破壊した。他の仲間との連絡手段を失ったクノは考え込み、この状況を脱する方法を必死に模索する。
(何かないでござるか……!?)
周囲の状況を確認し、他の仲間に異変を伝える方法はないのかと考えると、そんな彼女の考えを読み取ったようにイゾウは警告した。
「仲間に期待するのは止めて置け……仮にここで煙を焚いた所で俺の風魔ならば煙を掻き消す事が出来る。その意味が分かるな?」
「……大声でも上げれば外の人間が気づくでござるよ」
「一般人に俺を止められると思うのか?犠牲が増えるだけだ……仕事以外の殺しは俺も避けたい」
「このっ……!!」
イゾウの言葉にテンは歯を食いしばり、無理やりに身体を動かそうとするが麻痺した状態でしかも両手と両足に針が突き刺さった状態では身動きすら出来ない。
これ以上に時間を長引かせるわけにはいかず、イゾウは風魔をクノに構えた。まずは邪魔者の彼女を殺し、そしてテンを殺す。そうすれば彼の仕事は果たされるが、この時にネズミが声を上げた。
「イゾウ……あんた、あたしをこんな目に遭わせるなんて何を考えてるんだい!?」
「ネズミか……貴様の方こそ裏切ったな。何故、ここでお前は王国騎士の連中と密会している?」
「はっ……あたしは客を選ばない事は知っているだろう。金さえ貰えれば相手が闇ギルドだろうが、王国騎士だろうが関係ないさ。そもそもあたしに手を出したら、今後は誰から情報を買うんだい?シャドウはこの事を知っているのかい!?」
「……口うるさい奴だ」
シャドウの名前を出されるとイゾウは眉をしかめ、そもそも彼はネズミを殺すつもりはなかった。ネズミはこの王都で一番の情報屋であるのは事実のため、シャドウからも不用意にネズミを殺さない様に忠告されていた。
しかし、ネズミの元にテンが訪れたとなればイゾウとしてもみすみす標的を逃すつもりはなく、彼はこれ以上の話は無駄だと判断して風魔を振りかざす。確実に仕留めるために彼はクノを排除するため、風魔の力を発揮させる。
「貴様の命もここまでだ、クノ。すぐにお前の兄もあの世に送ってやる」
「くぅっ……!?」
風魔から風属性の魔力が溢れ、それを確認したクノは冷や汗を流すが、この時にネズミだけは勝ち誇った笑みを浮かべて怒鳴りつけた。
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