第559話 抑えきれぬ怒り
「――くそがぁっ!!」
マホの弟子であり、現在は冒険者として活動しているガロはギルドから出ていくと彼は路地裏に移動し、怒りを抑えきれずに壁に拳を叩きつける。力強く殴りつけたせいで壁に軽く亀裂が走り、彼自身の拳も血を流す。
幸いと言うべきか彼が殴りつけた建物は廃墟であり、他に人目はない。しかし、こんな姿を警備兵に見られたら問題がある。下手をすれば冒険者ギルドに連絡されるかもしれないが、それでもガロは怒りを抑えきれない。
「どいつもこいつもナイ、ナイ、ナイ!!いい加減にしやがれ!!」
イチノの遠征部隊にナイが参加していた事はガロも承知しており、既に彼が王都へ戻ってきている事も知っている。先日の表彰式にもナイが参加し、勲章を授かったという噂も彼は既に耳にしていた。
ガロが冒険者を志した理由はナイの噂を聞きつけ、自分も彼に負けないぐらいに有名な存在になるため、冒険者になった。魔物退治が得意なガロは冒険者になれば仕事を次々とこなして一気に階級を上げ、他の人間に自分がどれほど凄い存在なのか知らしめる事が出来ると思っていた。
しかし、そんな彼の浅はかな考えに対して現実は厳しく、未だに彼は鉄級冒険者のまま過ごしていた。冒険者の仕事はなにも魔物を退治する事が全てではなく、時には何でも屋のような仕事までしなければならない。
「何で俺はこんな事を……!!」
鉄級冒険者は最も数が多く、仕事に関しても荷物の運搬や城下町の掃除などの雑用な仕事ばかりが多く、討伐系や護衛系の仕事の場合は殆ど与えられない。
理由としては階級的には実力が劣っている鉄級冒険者をわざわざ雇う人間は少なく、仮に仕事があるときも基本的には
「何がコツコツと経験を積めだ!!」
この二か月の間にガロだって我慢して仕事を引き受け、実績を上げてきた。最初の内は面倒で嫌だった雑用の仕事も慣れてきたが、その手の仕事を引き受けたのは生活のためでもある。
マホの元を離れたガロは現在は彼女から支援を受けておらず、自分の食い扶持は自分で稼がなければならない。そのためにどんなに嫌な仕事でもガロは引き受けて仕事を行い、金を稼ぐしかなかった。
(何時になったら俺は昇格できるんだ……あのギルドマスターめ、俺の力を見くびっているのか!?)
ガロは冒険者ギルドに毎日訪れ、彼は様々な冒険者と出会った。確かに冒険者は職業的に魔物と戦う事が多く、階級が高い冒険者ほど高レベルの人間ばかりだった。その中には優秀な武芸者もいた。
しかし、その冒険者の中でも最高階級の黄金級冒険者がナイの話で話題になっていた事にガロは我慢を抑えきれず、反射的に出て行ってしまった。自分が目標とする黄金級の階級の冒険者すらもナイに注目しているという事実に彼は耐え切れない。
「何が巨鬼殺しだ……!!」
巷ではイチノに出現したゴブリンキングもナイが仕留めたという噂が広まり、彼のことを「ミノタウロス殺し」だけではなくて「巨鬼殺し」と呼ぶ人間も増えてきた。この巨鬼とはゴブリンキングだけを差しているわけでもなく、グマグ火山のゴーレムキングを倒したのも理由の一つだと考えられる。
「畜生、畜生、畜生ぉおおおっ!!」
ガロはナイと自分がどうしてこんなに差が出来たのかと嘆き、その場で膝を着く。そして彼は冒険者バッジに手を伸ばし、その場で投げ捨てようとした。
「こんな物……」
「おい、何してんだお前」
「うおっ!?」
バッジを投げ捨てようとしたガロに対して何者かが彼の腕を掴み、驚いたガロは振り返ると、そこにはガオウが立っていた。どうして黄金級冒険者の彼がここにいるのかとガロは戸惑うが、ガオウは彼が手にしている冒険者バッジを目にして睨みつける。
「お前、まさかこれを捨てようとしたのか?」
「な、何だお前……離せ、関係ないだろ!!」
「……そうか、捨てようとしたんだな?」
ガオウはガロの態度を確認して表情を一変させ、無理やりにガロを立ち上がらせる。ガオウの握力は凄まじく、ガロでさえも振りほどけない。
腕を掴まれたガロは必死に離れようとするが、凄まじい握力でガオウはガロの腕を握りしめると、そのまま彼の顔面に向けて反対の腕で殴りつける。
「この、馬鹿がっ!!」
「ぐはぁっ!?」
顔面を殴りつけられたガロは派手に吹き飛び、地面に倒れ込む。その様子をガオウは興奮が抑えきれない様子で彼を見下ろし、怒鳴りつけた。
「いいか……冒険者にとって、このバッジは只の冒険者の証なんかじゃねえっ!!このバッジは誇りだ、自分の実力を示す勲章なんだよ!!」
「げほっ……な、何を言って……」
「そんな事も知らずにお前は冒険者をやっていたのか?自分の誇りをこんな場所に捨てようとしている事に気付いていないのか!?ああっ!?」
ガオウはバッジを捨てようとしたガロの襟を掴み、無理やりに立ち上がらせて壁際へと追い込む。この際にガロは抵抗しようとしたが、全く力が及ばなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます