第556話 冒険者最強の剣士「ゴウカ」

――甲冑で全身を覆い隠した巨人族の剣士の名前は「ゴウカ」彼こそが王国で活動する冒険者の中でも「最強の剣士」と呼ばれている。それどころか巷では冒険者に限らず、王国内に存在する剣士の中でも一番強いのではないかと噂されていた。


ゴウカは元々は巨人国で活動していた傭兵だったが、10年ほど前に王都に訪れて冒険者となった。彼の場合、実力的には当時から既に冒険者内でも指折りの実力者だったのだが、色々と問題行動を起こして黄金級冒険者に昇格したのは実はわりと最近の話である。


彼は主に魔物や盗賊等の討伐系の依頼しか引き受けず、しかも毎回と言っていいほどに何らかの問題を起こす。例えばボアの討伐を依頼された時は、依頼人がボア1頭につき金貨を支払うという条件を出した結果、彼は20頭近くのボアを運び込む。


ちゃんと数を指定しなかった依頼人も悪かったが、この事で報酬に関しても揉めてしまい、結局は依頼人が買い取れないボアは冒険者ギルド側が買い取る事になった。その後、ボアを狩りつくしたせいで一部の地域ではボアが見かけなくなってしまい、狩人からも苦情が殺到する。


このようにゴウカは引き受けた依頼は必ず達成するが、常に必要以上の成果を出してしまう。その事で依頼人と揉める事が多く、冒険者ギルド側も彼に問題を起こされては困るため、仕方なく彼の引き受ける依頼に関してはギルド側が依頼人と相談した上で事前に注意を行う。


最もゴウカ本人は全く悪びれず、ちゃんと依頼した仕事を果たしているのだから自分んは悪くないと引かない。とはいえ、事前に注意された事はちゃんと守るため、人の言う事を聞かない頑固な人間(巨人)ではない。


正直に言えばこんな問題児の彼を冒険者ギルドが見捨てずに世話をしているのは彼の実力が本物だからであり、冒険者内で彼に勝てる剣士は存在しない。彼はかつて様々な魔物を討伐し、その中には生態系を破壊しかねない凶悪な危険種の対応も行っている。



『ギルドマスター!!こいつの依頼を引き受けたいから許可をくれ!!』

『……何だと?』

『こ、こら!!勝手に入り込むな!!』

『すいません、ギルドマスター!!すぐに追い返しますから……』



ゴウカがまだ金級冒険者だった時、彼はギルドマスターであるギガンの元に直々に訪れ、ある依頼を受注したい事を告げる。その依頼内容は黄金級冒険者宛てに送り届けられた依頼書であり、ギガンは内容を確認する。



『キマイラの討伐……だと?』

『そうだ!!どうか俺にその依頼を引き受けさせてくれ!!』

『この依頼人が黄金級冒険者を指定している事を知っていっているのか?お前では引き受ける資格はないぞ』

『なら、報酬はいらない!!もしも失敗すれば冒険者の資格を取り消しても構わない!!』

『何を言ってるんだお前は!?』

『そんな勝手なことが許されると思っているのか!?』



ゴウカが持ち込んだ依頼はギガンは当時から既に黄金級冒険者だったハマーンとガオウに頼もうと考えていた仕事だったが、ゴウカはどうしてもこの依頼を引き受けたいらしく、ギルドマスターのギガンの元に訪れて直談判を行う。


当時からゴウカは冒険者の中でも有名であり、しかも彼の熱意を受けてギガンは悩んだ末、条件を付けくわえる。



『いいだろう、ならばギルドマスターの権限として特例でお前を一時的に黄金級冒険者として取り扱う。もしもこの依頼を達成した場合、お前を正式に黄金級冒険者として認めてやろう』

『おおっ、本当か!?』

『ギ、ギルドマスター!?正気ですか!?』

『但し、条件として依頼を失敗した場合はお前は二度と冒険者になれない様に資格を剥奪し、永久追放処分を言い渡す。それでいいな?』

『うむ、構わん!!』



永久追放処分を受けた冒険者は何処へ行こうと冒険者になる事は許されず、もしも依頼を失敗すれば資格を剥奪どころか一からやり直す事も出来ない。それを承知した上でゴウカは依頼を引き受ける事を告げた。


ギガンはゴウカの事を買っており、今回の依頼が失敗すれば彼も責任を取ってギルドマスターの位を降りる覚悟はあった。しかし、それでもギガンはゴウカの実力を見極めるために依頼を彼に受けさせる。





――結果から言えばゴウカは見事に依頼を果たし、生態系を狂わせる存在として危険種指定されている魔物「キマイラ」を打ち倒した。この一件で彼は黄金級冒険者に昇格を果たし、最強の剣士の称号を得た。





人々は彼の事を「鋼の剣聖」と呼び、名前の由来は全身に鋼のような甲冑を常に身に着けている剣士だから何時の間にかそう呼ばれるようになっていた。本人はこの異名は気に入っているが、文句があるとすれば彼の身に着けている甲冑は只の鋼ではなく、鋼鉄と魔法金属の合金であるとゴウカ本人は告げていた。

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