第555話 国王の決断
――結果から言えば、国王はシノビの願いに対して彼は「保留」を選択した。和国の領地を返還するとなると彼だけでは決める事は出来ず、重臣と相談した上で話し合わねばならない。
和国の領地は現在は完全に放置されており、そもそも今回現れたゴブリンキングのせいで和国の旧領地には人間が暮らしていない。ちなみにナイが暮らしていた村も和国の旧領地だと判明している。
連日に国王は重臣を集めて話し合いを行い、数十本の魔剣を手に入れる事が出来れば王国の戦力は強化され、マジク魔導士が抜けた穴を埋めるどころか、補って余りある戦力が手に入る。しかし、シノビの言葉だけを信じて本当にあるかどうかも分からない数十本の魔剣のために和国の領地を返還するかどうかで議論は揉めてしまう。
結局はシノビの要求を引き受けるか否かは今後の彼の働き次第であり、シノビがリノ王女の側近として功績を上げれば信頼を得られる。そして何時の日か彼が信頼に値する人間だと判断されれば国王も和国の返還を認めてくれるかもしれない可能性があった――
「――ナイ殿、此度の件は誠に感謝いたします」
「ナイ殿のお陰で拙者達の夢に一歩近付けたでござる」
「いや、そんな……頭を上げてください」
ナイの元にシノビとクノは訪れると、彼に対して膝を着いてお礼を告げる。シノビが国王と邂逅する事が出来たのはナイのお陰であり、いくらリノの側近とはいえ、彼の立場からすれば国王に話を聞いてもらうなど簡単な事ではない。
シノビは今後もリノの側近として活動し、彼女のために尽くす事を国王に誓う。彼女の元でシノビは功績を上げ、周囲の信頼を築く事が出来れば和国の再興に近付ける。そしてクノの方は今回の一件でナイに恩義を感じ、もしも困った時があれば自分の力を貸す事を誓う。
「ナイ殿、これをお受け取りくだされ」
「え?これは?」
「犬笛でござる。1キロ以内であればその笛を吹けばクロとコクを呼び出せるでござるよ」
「犬笛?」
「シノビ一族に伝わる特殊な犬笛でござる。必ず役に立つと思うから肌身離さず持っていてほしいでござる」
「へえっ……ありがとうございます」
犬笛を受け取ったナイは懐にしまうと、シノビとクノは仕事に戻るという事で部屋から立ち去る。
「それではナイ殿、拙者達に用事がある時はその犬笛を使ってくだされ」
「今後は我々もクロとコクと常に行動する事になるだろう。気兼ねなく、使ってくれ」
「あ、はい……って、もう行っちゃった!?」
ナイは一瞬だけ目を離した隙に二人は姿を消し去り、こうしてナイはシノビたちを呼び出せる犬笛を手に入れた――
――同時刻、冒険者ギルドは賑わっていた。何しろ王都の黄金級冒険者であるリーナ達が勲章を手に入れた事でギルドの信頼はより一層に増し、他の地方も仕事も増えた。そのお陰で冒険者達はリーナ達を称える。
「いや、本当に黄金級冒険者様様だぜ」
「あいつらのお陰でまた仕事が増えたし、俺達ももっと稼げるようになったしな」
「そういえば黄金級冒険者といえば……あいつらは最近、顔を見てないな」
国内には10人もいないと言われている黄金級冒険者だが、王都で活動する黄金級冒険者はハマーン、ガオウ、リーナの3人以外に実は二人ほど黄金級冒険者が存在する。
この二人は王都内の冒険者の中でも一、二を争う実力者として知られ、現在は遠征して仕事を引き受けているという話が、この数か月は姿を見せていない。
「あの二人が居たらこの間の討伐隊にも参加させられただろうな」
「そうだな、もしかしたらあの二人が居たらマジク魔導士も死ぬ事はなかったかもな……」
「それを言うなよ……でも、そうだな」
黄金級冒険者の中でも格の違いは存在し、リーナもガオウもハマーンも優秀な冒険者には違いないが、3人と比べても他の2人の冒険者は正に格が違う強さを誇る。
実際にこの二人の凄い所は本来ならば
「あいつら、戻ってきたらとんでもない騒ぎになるだろうな……」
「違いねえな……まあ、その内に戻ってくるだろ」
「俺としては戻ってきてほしくないな……あいつらが居ると騒がしいからな」
冒険者達は戻ってこない二人の黄金級冒険者について話題が盛り上がっていると、ここでギルドの出入口の扉が開け開かれる。そして中に入ってきた人物を見た瞬間、冒険者達は呆気に取られて黙り込む。
『――ふはははっ!!我、帰還!!』
「…………」
ギルドに戻って来たのは全身に甲冑を纏った大きさは4メートル近くの巨人族の剣士と、その隣には仮面で顔を隠した金髪の女性が立っていた。
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