貧弱でも英雄になれますか？

第548話 ルナVSテン (再戦)

――早朝、アルトの屋敷には現在集まった聖女騎士団の団員が集まり、その中にはナイ達も含まれていた。彼等は屋敷の中庭にて向かい合うテンとルナに視線を向け、二人の試合を見守る。

「ほらほら、どうしたんだい？この間の威勢はどうした！？」

「うっ……な、何でだ！？前は全然私に敵わなかったのに！！」

「はっ、あの時はあんたに悪い事をしたと思って手加減してやったんだよ！！」

「嘘だ！！」

試合の内容は驚くべき事にテンが優勢であり、前回に彼女はルナから一方的に叩きのめされていたが、今回は二人の立場が逆転した。

「そんなはずはない、私はもうテンを越えたんだ！！」

「そうかい、だったらかってきたらどうだい？」

「うあああっ！！」

ルナは戦斧を振りかざし、テンに対して全力の一撃を放つ。その攻撃に対してテンは右に１歩だけ身体をずらすと、あっさりとルナの戦斧を躱す。

柔らかい地面に叩きつけられた戦斧は刃がめり込んでしまい、この時にテンは片足で戦斧を踏みつけ、退魔刀をルナの首に構える。彼女は首筋に退魔刀を構えられ、顔色を青くした。

「まだやるかい？」

「う、あっ……」

「それまで！！テンの勝利！！」

「これでテンの３連勝だね」

「むうっ……まさか、１本も勝てないとはな」

現在行われている試合は３回目であり、結果から言えばテンの圧勝だった。その様子を見ていた聖女騎士団の団員達はこうなる事が分かっていた様に振る舞い、その一方でナイ達はあっさりとルナに勝利したテンに驚く。

「凄い……ルナさん、ナイさんと剛力という技能を覚えている人なのに」

「テンが強すぎる……というより、何だか動きが読まれているみたい」

「うん、まるで攻撃が事前に来ることを分かっていた様に動いていた」

「う〜……くっそぉっ！！」

「あっはっはっ！！あたしに勝とうなんて１０年早いんだよ！！」

ルナは悔しそうに地面に足を踏みつけ、その様子を見てテンは高笑いを浮かべるが、他の者達はそんな彼女を見て呆れた様子を浮かべる。

「何を余裕ぶっているんだか……やっと昔の勘を取り戻しただけだろう」

「勘を取り戻すまで誰が組手を付き合ったと思ってるんだが」

「だが、これでテンの完全復活だ……見事な見切りだった」

「見切り？」

ランファンの言葉にナイは不思議そうに振り返ると、彼女は頷いてテンがどうしてルナに勝利できたのかを説明する。

「戦闘に置いて相手の動きを読み取り、行動する事は大切な事は分かるな？テンの場合、あいつは生まれた時から相手の動きを見切る事に関しては天才的だった。だからこそ同じ相手と戦えば戦う程に動きを読み切って対処できるんだ」

「最も最近は碌に身体を動かしていなかったせいで、勘も鈍っていたようだけどね」

「それで私達がテンの勘を取り戻すためにずっと組手に付き合ってあげてたわけ」

「なるほど……そう言う事だったんですね」

テンは見切りと呼ばれる技術でルナの攻撃を先読みし、それに対応した動作を行う事で彼女を圧倒した。実戦においては相手の動きを読む事は重要なのはナイ達も理解しているが、テンの場合は生まれた時からその手の能力に秀でていたという。

しかし、ずっと実戦から離れていたので彼女は勘が鈍り、ルナとの戦闘では碌に戦う事も出来なかった。勿論、彼女も王国騎士の指導官として鍛錬を行い、戦う事もあったが聖女騎士団に在籍したときと比べれば実戦に出る機会は激減した。

ナイも迎撃などの技能を一定期間使用せずにいると技能が扱えなくなった事を思い出し、それと同じようにテンも長年実戦から離れていたせいで戦闘の勘が鈍ってしまった。だが、仲間達の協力のお陰でやっと勘を取り戻し、全盛期とまではいかないが団長の座に相応しい実力は取り戻す。

「さてと、久々にあんた達とも試合してやろうかね。ヒイロ、ミイナ！！かかってきな！！」

「わ、私達もですか！？」

「面倒くさい……ナイ、交代して」

「えっ！？」

「へえ、そいつはいいね。あんたとはまた本気で戦ってみたいと思ってたんだよ。全力でかかってきな！！」

ミイナの言葉にナイは驚くが、テンとしてもナイがどれほど実力を上げているのか気になっていたらしく、彼女は手招きを行う。そのテンの態度にナイは慌てふためくが、既に他の者は応援を行う。

「ナイ、絶対に負けるな！！私の仇を討て！！」

「ナイ君、頑張って〜！！」

「負けたら駄目よ〜！！」

「ルナさんにモモにヒナさんまで……」

「頑張ってくださいっす！！」

「誰！？」

何時の間にか観客にはモモとヒナも混じっており、ちゃっかりとエリナも混じっていた。ちなみにエリナはルナの事を怒っていたが、彼女がイレーネを怪我させた事をちゃんと謝罪した事で許してくれた。今では仲が良くなり、共に行動する事が多い。

他の聖女騎士団の団員もナイの応援を行い、この状態で試合を断ると色々と言われそうなため、ナイはため息を吐きながら旋斧と岩砕剣を構える。この時にナイがいつの間にか二刀流になっている事にテンは戸惑う。