第511話 救出作戦開始
――ナイ達が事前に打ち合わせた作戦の内容はガルソンに変装したシノビが女装したナイとクノを連れ出し、宿屋へ侵入する。その後、夜が更けるのを待ってシノビとクノは上階へと移動し、各部屋に仕掛けを施す。
仕掛けとは彼等が作り出した「煙玉」なる道具を使用し、部屋の中に煙を炊く。この煙玉は彼等が作り出した専用の道具であり、使い方も作り方も彼等しか知らない。
誰もいない部屋、あるいは既に眠っている盗賊の部屋にシノビとクノは忍び込み、煙玉を投げ込む。すると煙玉の煙が部屋中に蔓延し、やがて窓から煙が噴き出す。すると、当然だが他の人間は火事が起きたのかと錯覚して騒ぎ出す。
『お、おい!!上の階で煙があがっているぞ!?』
『何だと、まさか火事か!?』
『分からねえよ!!くそ、どうなってるんだ!!』
『早く火を消せ!!警備兵が来る前に煙を消さないとまずい事になるぞ!?』
ナイが待機しているガルソンの部屋の外から盗賊達の騒ぐ音が聞こえ、どうやら作戦通りに盗賊達は上階で異変が起きた事を察知し、行動に移った様子だった。階段を駆け上がる音が聞こえ、やがて声は小さくなっていく。
(……よし、今なら動けそうだ)
この時にナイは「気配感知」「隠密」「無音歩行」の技能を同時に発動させ、行動を開始した。気配感知の技能で常に周囲を警戒し、更に隠密の技能で存在感を、無音歩行の技能で足音を完璧に消し去る。
最もナイの隠密の技能はシノビやクノには及ばず、二人の様に完全に存在感を消して姿が全く見えなくなるほどでもない。それでも相手の視界に入ってもナイの姿はまるで半透明のように見えるため、意識しにくい。暗闇などの見えにくい場所ならば姿が気づかれる事は無いだろう。
(観察眼と暗視、それに索敵も発動させれば……あった、ここが地下の倉庫に繋がる階段だな)
ナイは一階を歩きながら通路の様子を確認し、事前に盗賊から聞きだした宿屋の情報を頼りに遂に倉庫へ繋がる階段を発見した。この階段を降りれば人質が捕まっているはずの倉庫へ辿り着けるはずだった。
階段を降りる際、ナイはここで下の方に気配を感じとる。どうやら倉庫には見張りが立っているらしく、それは先ほどナイの尻を鷲摑みにした男だと判明した。
「ひっくっ……うるせえな、何が起きてるんだ?」
「…………」
どうやら男は見張りをしながらも酒で酔っ払っていたらしく、そんな男に対してナイは冷めた視線を向けると、敢えて隠密を解除して姿を現す。
「んんっ……あれ?あれれ?お前さん、さっきの可愛い子ちゃんじゃねえか?どうしてここにいるんだ?」
「ふうっ……」
「ん?どうしたんだ?分かった、俺に会いに来たのか?おいおい、困るな……ガルソンさんに飽きて俺の所に来るなんて嬢ちゃんも結構な男好き……」
「せいりゃあっ!!」
「ぶふぅうううっ!?」
勝手な勘違いをする男に対してナイは容赦なく腹部に強烈な一撃を食らわせ、男は口元から酒を噴き出しながら膝を着き、倒れ込む。その様子をナイは冷たい瞳で見下ろすと、倉庫を前にした。
倉庫には南京錠が施されており、外側から出られない様にされていた。だが、ナイは鍵が扉に内蔵されていない事に安堵すると、南京錠を握りしめる。
(よし、ただの鋼鉄製の鍵だ。これぐらいだったら……)
ナイは南京錠を両手で握り締めると、意識を集中させるように瞼を閉じた。そして剛力の技能を発動させ、南京錠を握力で握り潰す。
「ふんっ!!」
『っ……!?』
力技でナイは南京錠を握り潰すと、倉庫の中から人の声が聞こえ、鋼鉄製の南京錠を取り外したナイは倉庫を開く。
「大丈夫ですか!?助けに来ましたよ!!」
「えっ……」
「助けに……」
「何じゃと……?」
部屋の中に入った途端、ナイは部屋の中から悪臭を感じ取り、そして倒れている3人の男女を発見した。誰もが身体をまともに洗っていないのか臭いが酷く、髪の毛もぼさぼさで痩せ細っていた。
部屋の中で倒れていたのは若い娘とその母親だと思われる女性、そして全身に包帯を巻かれた状態の老人が横たわっており、すぐにナイは彼こそがエルだと気付く。
「貴方が……エルさんですね?」
「誰じゃ、お前は……?」
「詳しい話は後で……すぐにここから逃げましょう」
「に、逃げれる?本当に?」
「ああ……やっと、助けが来てくれたのね」
ナイの言葉を聞いて母娘は歓喜の表情を浮かべるが、エルの方は重傷でまともに身体を動かす事も出来ず、苦しそうな表情を浮かべてナイに告げた。
「お主、何者かは知らんが……その二人を連れて早く逃げろ。儂はもう助からん……お主等だけでも逃げるのじゃ」
「……嫌です、貴方も一緒に連れて行きます。ニエルさんが心配していますよ」
「ニエルじゃと……うおっ!?」
エルはナイがニエルの名前を口にした事に驚くが、すぐにナイは彼を持ち上げ、この宿屋の店主の妻と娘と思われる二人にも付いてくるよう指示する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます