第505話 捜索の依頼
「大丈夫です、貴方のお父さんは僕が救います」
「救うって……子供のお前に何が出来るんだ」
「ただの子供と侮るな、その男は例の赤毛熊を倒した男だぞ」
「えっ!?それってまさかあの……!?」
かなり前の話だが、ナイはイチノ周辺を荒しまわっていた赤毛熊を倒した。赤毛熊に関しては当時はイチノだけではなく、他の街でも話題になっていたのでニエルも知っていた。
ナイが倒した赤毛熊は非常に獰猛で知恵も周り、何度か討伐に出向いた冒険者を返り討ちにした事がある。そのせいでニーノの街にもイチノには冒険者でも手に負えない赤毛熊が存在するという噂は届いていたが、最近は全くその手の噂は耳にしていない。
「……どうして俺が赤毛熊を倒した事を知っているですか?」
「お前が倒した赤毛熊は我々も狙っていた。そして赤毛熊の死体を発見したのも我々だ」
「あの時は驚いたでござるな。白狼種の毛皮が残っていたので白狼種の仕業かと思ったら刀傷も残っていたから人の仕業だと判明し、そして白狼種を飼っている少年が山の近くに暮らしているという噂を聞きつけて調べたでござる」
「そ、そうだったんですか……」
赤毛熊を倒した事をシノビとクノが知っていた事にナイは動揺を隠せず、赤毛熊を倒した事はドルトンやイーシャンぐらいにしか話していない。しかし、この二人は僅かな手掛かりだけでナイが赤毛熊を倒した事を暴く。
この二人の洞察力は普通の人間とは比べ物にならず、それと同時に非常に謎が多い。だが、この状況下ではこれ以上ないほどに心強い存在であり、ナイは二人に頼む。
「あの……二人は冒険者ですよね、なら頼みたいことがあるんですけど」
「我々を雇って捉えられたお前の叔父を探し出して欲しいのか?」
「そうです……出来ますか?」
「人探しは拙者達の得意中の得意な事でござる!!」
ナイの考えを先読みしたようにシノビが告げると、クノの方は自信があるのか胸を張る。そんな二人を見てナイは考えた末に依頼を申し込む。
「お願いします。叔父さん……いや、ニエルさんのお父さんのエルさんを見つけて出来れば助け出してください」
「お、俺からも頼む!!」
「……我々は安くはないぞ」
シノビは仕事の話になると目つきを鋭くさせ、その鋭い眼光にニエルは震え上がるが、ナイは正面から見返す。シノビの気迫に全く動じず、ナイは具体的な報酬金額を尋ねた。
「いくら出せば引き受けてくれますか?」
「……そうだな、冒険者として雇うのであれば本来は冒険者ギルドの仲介を挟む必要があるが、そんな時間はない。だから我々は冒険者としてではなく、忍者として仕事を引き受けよう」
「にんじゃ?」
「おや、知らないでござるか?影に紛れ、影に忍び、影の世界で生きる者……それが忍者でござる」
「は、はあっ……」
忍者の存在はナイはあまり詳しくはなく、暗殺者とはまた違う存在だとは分かるが、ともかくナイは冒険者としてではなく、忍者として二人に依頼する事を告げる。
「じゃあ、御二人には忍者として仕事を頼みます」
「承知した……では、これより貴殿の事は依頼者として取り扱おう。先ほどまでの無礼な態度を許してくれ」
「短い間でござるが、どうぞよろしくお願い致す」
「な、何だよ……急に礼儀正しくなったな」
依頼を引き受けたシノビとクノは態度を急に改め、ナイの前に跪く。その二人の態度の変化にナイとニエルは驚くが、とりあえずはシノビとクノは依頼者であるナイに従う事を約束する。
報酬の件は後で話して決める事にして、まずはナイはエルを襲った盗賊が逃げ帰った宿を調べる事が先決だと思った。もしかしたら宿屋の中にエルも捕まっているのかもしれず、まずは宿屋の場所を尋ねた。
「クノさん、宿屋の場所は分かるんだよね?」
「クノでいいでござる。拙者は今はナイ殿に仕える忍者でござる」
「じゃ、じゃあ……クノ。ニエルさんを襲った盗賊が逃げた宿屋は何処にあるの?」
「待て……どうやらあちらの方から来たようだ」
会話の際中にシノビは窓により、身を隠しながらも外の様子を伺う。その行動にナイ達は慌てて窓から離れると、シノビは目つきを鋭くさせて外の様子を伺う。
「どうやら盗賊の連中が戻って来たようだな……恐らく、俺達がここへ来たせいでお前を襲った盗賊はお前が死んだ事を確認していない。だから仲間を引き連れて戻って来たようだ」
「えっ!?あ、あの野郎……!!」
「落ち着け、敵の数は3人ほどだ……かなり離れた距離から様子を伺っている。恐らく、警備兵がいないのか警戒しているんだろう」
「拙者達が訪れたせいで盗賊は逃げたから、店の中が今はどんな状況か分からないのでござるな?」
「ああ、だが時間の問題だ……すぐに一般客を装ってここへ入って様子を伺うだろう」
「なら、そいつらを捕まえれば……よし、ニエルさんも協力して下さい」
「えっ!?」
ナイの発言にニエルは驚いた表情を浮かべるが、敵を確実に捕縛するには彼の力が必要不可欠だった――
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