閑話 〈インの謝罪〉

――陽光教会には怪我人が集められ、他の街から派遣された教会の人間や医者が集まり、怪我の治療を行う。幸いにも人材だけではなく、薬品の類も送り込まれたため、生き残った人間の治療が再開された。



「これでもう大丈夫です、後はゆっくり休めば明日には動けるようになります」

「へへっ……信じられねえな、俺達なんかが生き残るなんて」

「何を言っているのですが……貴方達はこの街を救ってくれた英雄です」



怪我人の大半は民兵であり、リノと共に最後まで命を懸けて街を守ろうとした人々だった。ナイ達が辿り着くまで街を守り切れたのは彼等の力が大きく、少なくとも騎士と兵士だけではこの街を守り通す事は出来なかった。


昨日までは碌に薬品も回復魔法の使い手もいなかったので満足な治療は出来なかったが、今は他の街から物資が送り届けられた事により、十分な治療が可能だった。ヨウも疲れてはいるが、それでも今はやる気に満ち溢れる。


自分の予知夢の運命をナイが打ち破った事で今までにないほどヨウは心が満たされ、疲れが吹き飛んだ気分だった。だが、そんな彼女の前に思いもよらぬ人物が訪れた。



「ヨウ司教……」

「貴女は……イン?」



ヨウは振り返ると、そこには憔悴しきった表情のインの姿が存在し、自分の元を離れて街から逃げたはずの彼女が戻ってきた事にヨウは驚く。だが、すぐにヨウは冷静な態度で問い質す。



「……いったい何をしに戻って来たのです。貴方はもう修道女ではありません、それなのにどうして戻って来たのですか?」

「申し訳ありませんでした……」



インはヨウの言葉を聞いた途端に謝罪を行い、その言葉は修道女を辞めて逃げ出した事への謝罪かとヨウは思ったが、インの雰囲気が変わっている事に気付く。



「私は……修道女として、いや人として過ちを犯しました」

「…………」

「教会に仕える身でありながら私は苦しむ人を見捨て、逃げ出してしまった……もう私が修道女に戻る資格はありません。それでも……謝らせてください」

「その謝罪に何の意味があるのですか?」



今更インが謝罪した所で彼女が修道女に戻る事は出来ず、怪我人を見捨てて逃げ出そうとした事に変わりはない。それでもインはけじめをつけるためにここへ訪れた。



「ナイがここへ戻っていると聞いています。彼に会わせてください」

「……ナイに会ってどうするつもりですか?」

「謝りたいのです……彼の事を、私は差別してしまった。彼の気持ちも理解しようともせず、忌み子だからなどという理由で私は彼に辛く当たってしまった」



涙を流しながらインは謝罪を行い、そんな彼女に対してヨウは色々と思う所は会ったが、はっきりと告げる。



「今の貴方にナイを会わせる事は出来ません」

「どうしても……ですか?」

「ええ、ですが……貴女が本当に反省し、彼に謝りたいというのであれば行動で示しなさい」

「えっ……」

「貴女はもう修道女ではありません。しかし、この教会で学んだ知識は生かせるはずです。さあ、怪我人の治療を手伝いなさい……ここには修道女でなくても怪我人を治せる人間はいます」

「あっ……はい!!」



インはヨウの言葉に頷き、涙を拭って彼女は怪我人の治療を手伝う。その姿を見てヨウは苦笑いを浮かべ、心の底からインはこれまでの自分の行動を後悔している事は察した。


今すぐにヨウはインの事をナイに会わせるつもりはない。直接的にはインはナイを苦しめていたわけではないが、それでも心に深い傷を負っていたナイを蔑ろにした事は事実である。そんなインがいきなりナイに謝罪しても彼が納得するかは分からない。


それでも優しいナイならば表面上は平静を装ってインを許してしまうかもしれない。しかし、それでは意味はなく、彼が許しの言葉を与えればインは気が楽になるかもしれないが、本当の意味でナイと和解は出来ない。


今はヨウはインとナイを会わせる事は出来ないが、何時の日かインが本当に改心した時、ナイと会わせる事を決める――




※インの閑話はこれで最後になるかもしれません。彼女がナイと再会する日が訪れるかどうか……もしかしたら本編で二人が出会う日があるかもしれません

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