第491話 クノとシノビの決意

「――兄者、信じられないでござる」

「ああ……俺もだ」



イチノの城壁にて草原の様子を眺めていたクノとシノビは信じられない光景を目の当たりにしていた。彼等はナイ達が巨人を打ち倒す姿を確認し、身体の震えが止まらない。



「あの巨人を……を討ち取ったでござる!!」

「……いや、違う」



クノは興奮した様子で巨人の正体を「ダイダラボッチ」だと告げるが、シノビは首を振る。二人が目撃した超大型のゴブリンは和国を滅ぼした伝承の「ダイダラボッチ」と瓜二つの容姿をしていた。


しかし、シノビの記憶の限りでは確かにナイ達が倒したゴブリンは通常種や上位種のホブゴブリンとは比べ物にならない巨躯を誇った。しかし、和国を滅ぼしたダイダラボッチは更に巨大な体躯の生物だと彼の家系に伝わっている。



「ダイダラボッチの大きさは100尺だと伝わっている。奴の場合はせいぜい半分程度……あれはダイダラボッチではない」

「えっ……!?」

「だが、ダイダラボッチに個体であるのは確かだ」



シノビの予想ではナイ達が倒したのは完全なダイダラボッチではなく、まだ成長途上の存在だったと語る。もう少し時間を掛ければ更に成長を遂げ、伝承通りに100尺(約30メートル)を越える巨大な生物へと成長を果たしていたとシノビは予想する。


あくまでもナイ達が倒した個体はダイダラボッチと呼ばれる存在ではない。だが、それでも驚異的な力を誇るのは間違いなく、シノビとクノは身体を震わせた。自分達の故郷をかつて滅ぼした憎き仇、その近しい存在をこの国の人間が倒したという事実に尊敬の感情さえも抱く。



「兄者、見えたでござるか?あの巨人に止めを刺したのは……」

「分かっている、あの時の子供だな……髪の色合いから見ても、恐らくは和国の人間の血を継いでいる」

「おおっ……まさか和国の人間の子孫があの巨人を倒すとは!!嬉しいでござるな、まるで先祖の仇を討ったような……」

「間違えるな、クノ……あれはダイダラボッチではない。ただの半端者だ」



クノはナイが自分達と同じく和国の人間の子孫だと悟り、その彼がダイダラボッチに近しい存在を倒した事に感動する。しかし、シノビの方は彼女の言葉を強く否定し、何処か嫉妬が混じった様子でナイを見つめる。


城壁からナイ達が存在する位置までかなりの距離があるのだが、二人の仲間に囲まれるナイの姿をはっきりと捉えていた。



「忘れるな、我々の目的は和国の再興……今更、仇討ちなどどうでもいい事だ」

「そ、そうでござるな……」

「だが、見た限りではどうやらあの少年は騎士ではないようだが、かなり他の人間から信頼されているらしい。もしかしたら利用できるかもしれない」

「兄者……?」

「クノ、新しい任務だ……あの少年の事を調べ上げろ」



シノビはクノにナイの調査を命じると、彼はナイが倒して灰と化した巨人の事を思い返す。彼は頑なにダイダラボッチとは認めようとはしないが、それでも普通のゴブリンなどとは比べ物にならない力を持っていた。



(あの大剣も調べる必要があるな……)



巨人に止めを刺したのはナイの旋斧であり、その旋斧は現在は地上に刺さっていた。あれほどの魔力を消耗したというのに大剣の色合いは変化しておらず、まだ内部に火竜の魔力が蓄積されている様子だった。


前回の火竜との戦闘では大剣が成長して形状が大きく変化したが、今回は巨人を倒しても特に変化はなく、夜明けの太陽の光を照らす。その光景を見たシノビは考え込み、ある事を思いつく。



(場合によってはあの大剣、役に立つかもしれんな……)



旋斧をシノビは意味深な表情を浮かべて見つめ、その様子を見ていたクノは忍びが良からぬ事を考えていると気付き、ため息を吐き出す――






――その後、ナイ達は一先ずは街に戻ると、リノ達が彼等を迎え入れる。ヨウはナイが生きて無事に戻ってきた事に心底驚いたが、涙を流しながら抱きしめてくれた。



「良かった……ナイ、本当に良かった」

「ヨウ先生……先生のお陰で助かりました」

「何を言っているのですが、私は何も役に立っていません……貴方は自分の力で運命に打ち勝ったのです」

「そんな事はありませんよ」



ヨウの予知夢ではナイは巨人に踏み潰されて死ぬ光景が見えたが、ナイは詳しく話を聞くと彼女はナイが踏み潰される光景は確認したが、はっきりとナイの死体を確認したわけではないという。


その話を聞いた時にナイは自分が踏み潰される未来を知り、巨人との戦闘は足を狙い、負傷させる事で自分を踏みつけさせない様にした。だが、最後の最後で巨人は片足だけの状態で踏みつこうとした時、ナイは咄嗟に身体が動いて反撃していた。


ヨウとの話を聞いていなかったらナイは反応できずに踏み潰されていたかもしれない。しかし、事前に自分が踏み潰される運命だと知っていた事でナイは混乱せず、冷静に対処できた。そして「迎撃」の技能がまたナイの命を救い、最後の岩砕剣と反魔の盾の防御は迎撃の技能が発動した事でナイは身を守る事が出来たのだ。

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