第480話 絶望の到来
――時は少し遡り、丘の上に着陸した飛行船の方では3人の黄金級冒険者と魔導士のマホが立っていた。本来の予定ではマホはゴンザレスとエルマを連れてアッシュの別動隊に加わる予定だったが、彼女は嫌な予感がして飛行船へと残る。
「……老師、どうして船に残ったのですか?今の所、敵の気配は感じませんが、何か気になる事でも」
「うむ……先ほどから嫌な予感がする」
「老師が嫌な予感を……!?」
魔導士であるマホは討伐部隊の中では最高の戦力を誇り、本来であればアッシュの補佐役として役目を果たさなければならない。だが、彼女の長年の勘がこの飛行船を離れるべきではないと知らせていた。
これまでにこの手の類の勘は外れた事はなく、ゴーレムキングを見つけた時以上の嫌な感覚を感じたマホは警戒心を緩めない。その一方で3人の黄金級冒険者も落ち着かない様子だった。
「爺さん……感じているか?」
「うむ……落ち着かんのう」
「なにこれ……変な感じがする」
3人とも日頃から魔物と戦い続けた人生を送っているせいか、普通の人間よりも直感が優れており、この場に留まるのは危険だと本能が伝える。それでも役目を放棄するわけにはいかず、討伐部隊が戻るまでの間は飛行船を守る必要がある。
エルマもゴンザレスも先ほどから妙に落ち着かず、忙しなく飛行船の周囲を見渡すが、敵の姿は見えない。少なくとも近くに敵がいる様子はないが、どうにも全員が落ち着かない。
(何だろう、この感じ……まるで、火竜を初めて見た時のような……)
この中の面子でグマグ火山にて火竜と遭遇したのはリーナだけであり、彼女は初めて火竜と遭遇した時と同じ感覚を味わっている事に気付く。敵の姿が見えないのにまるですぐ傍に恐ろしい存在が居る様な感覚であり、無意識に身体が震える。
(そういえば昔、お父さんから動物とかは災害が起きる前に危険を察知して逃げ出す事があると聞いた事があるけど……)
大地震などが起きる前に動物が逃げ出すという話を昔にアッシュから聞かされた事を思い出し、リーナはこの自分の不安がそれに近いのではないかと思う。そして彼女の予感は的中した。
討伐部隊が飛行船を離れてからしばらく経過すると、突如として地面に振動が走る。最初は地震の類かと思われたが、様子がおかしかった。
「な、何じゃっ!?」
「地震か!?いや、これは……」
「み、見て!!あそこの地面が……盛り上がってる!?」
「何だと!?」
リーナが指差した方向に全員が視線を向けると、そこには確かに彼女の言う通りに地面が盛り上がる光景が映し出された。しかも普通の盛り上がり方ではなく、土砂は人の形の如く盛り上がる。
何が起きているのかは不明だが、地面が盛り上がった瞬間に全員の背筋が凍り付き、ハマーンは自分が連れてきた弟子たちに声を掛けた。
「お前等!!飛行船を浮上させる準備を整えろ!!」
「えっ!?で、ですが……」
「魔石の取り換えはまだ終わっていませんぜ!?」
「いいから早くせんかっ!!」
「爺さん!?何を考えてるんだ!?」
勝手に飛行船を起動させようとするハマーンにガオウは驚くが、その一方でマホは船首へと移動を行い、杖を構える。彼女はこれまでにないほどに深刻な表情を浮かべ、身体を震わせていた。
「老師、いったい何が!?」
「分からぬ!!分からぬが……このままではまずい!!」
「ちょ、何事ですか!?」
「イリア魔導士!?」
船内にいたイリアも異変を感じ取ったのか外へ出ると、彼女は地面が盛り上がる光景を確認し、それを見た彼女は目を見開く。
「あれは……!?」
「イリア魔導士、何が起きているんだ!?」
「私に聞かないでくださいよ……でも、あれに近付いてはいけません!!すぐに船を動かしてください!!ここを早く離れますよ!!」
「おい、あんたまで何を……!?」
「来るぞっ!!」
ハマーンだけではなく、イリアまでもが船を動かす事を宣言した事にガオウは唖然とするが、話している間にも地面の盛り上がりが大きくなると、巨大な生物が地中から出現した――
――グオオオオオオッ……!!
その生物の咆哮を耳にした瞬間、甲板に立っていた者達はあまりにおぞましい声と迫力で床にへたり込んでしまい、歴戦の強者であるマホもハマーンでさえも立っていられなかった。
地中から出現した生物は身の丈が10メートルを超える緑色の皮膚に覆われた巨人であり、最初にその姿を見た者は「トロール」を想像するだろう。しかし、通常のトロールの倍かそれ以上の体躯を誇り、しかも肥え太った個体が多いトロールとは違い、その緑の巨人は全身が引き締まった筋肉で構成されていた。
先日にグマグ火山にて出現したゴーレムキングにも匹敵する巨躯だが、その威圧感はゴーレムキングをも上回るかもしれず、その巨人の姿を見ただけでリーナは悟る。これは人の手に負える存在ではない事を――
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