第479話 乱戦

「副団長に続け!!」

「王国騎士団の力を見せつけろ!!」

「突撃ぃいいっ!!」

『グギィッ――!?』



唐突に出現した数十名の騎士達に対してホブゴブリンの軍勢は慌てて対抗しようとするが、王国騎士達の強さは並の兵士とは比べ物にならず、彼等こそが王都の精鋭と言っても過言ではない。


リノが率いる銀狼騎士団も王国騎士である事は間違いないが、彼等の場合は慣れない籠城戦で疲弊し、本来の実力を発揮できなかった。だが、地上で戦えるのならば王国騎士は一騎当千の強者ばかりであり、数百を超えるホブゴブリンの軍勢に対して優勢に立つ。



「よし、私達も続くぞ!!」

「ナイ、一人で無理をしたら駄目……私達を頼って」

「そうですよ!!私達の事も忘れないでください!!」

「皆……ありがとう」

「ウォンッ!!」



ナイはここで自分が一人ではなく、頼りになる仲間がいる事を思い出す。彼女達と共にナイはホブゴブリンの大群に向けて駆け出し、次々と敵を屠る。



「グギィイイッ!!」

「うわっ!?くそ、こいつら……強いぞ!?」

「怯むな!!この間の火山のレッドゴーレムと比べたら大したことはないだろう!!」

「そうだな、おらぁっ!!」

「ギャウッ!?」



イチノを攻めてきたホブゴブリンは通常種のゴブリンよりも知能も高く、武装する知性を持ち合わせ、力も強い。しかし、この場に集まった王国騎士達はグマグ火山の激戦を生き延びた猛者ばかりであり、決して怯まない。


数百は存在したホブゴブリンも圧倒的な力を持つナイ達によって蹴散らされ、魔法を扱えるゴブリンメイジも全滅し、ファングもゴブリンも残っていない。更にここで陽光教会の中から生き残った者達が現れる。



「兄者!!援軍でござる!!」

「遂に来たか……行くぞ!!」

「お前達……本当に来てくれたのか!?」



陽光教会の扉が開け開かれると、冒険者であるシノビとクノ、そして頭に包帯を巻いたリノも一緒だった。彼女の傍には数名の騎士が同行し、遂に現れた援軍の姿を見て歓喜した。



「リノ王子!?ご無事でしたか!!」

「少しお待ちください、こいつらを蹴散らしたらお迎えに上がりますわ!!」

「いや……私達も戦うぞ!!お前達、ここが正念場だ!!」

『うおおおっ!!』



陽光教会に避難していた者達も戦える者は立ち上がり、教会を抜け出して戦闘に参加する。その結果、ゴブリンの軍勢は更に劣勢に立たされる。



「グギィッ……!?」

「グギィイッ……」

「こいつら、怯えています!!」

「あと少し……」

「うおおおっ!!」



なまじ知性があるだけにホブゴブリンも自分達の状況がどれほど不利であるのか理解してしまい、もう戦闘を続けても勝ち目がない事を理解してしまった。いくら数で勝ろうと心が折れてしまえば碌に戦う事が出来ず、遂に逃走を開始する個体も出現した。



「グギッ……グギィイイッ!!」

「グギィイイッ!?」

「逃げたぞ、追えっ!!」

「一人も逃がすなっ!!」



1匹が逃げ出すと他のホブゴブリンも逃走を開始し、それを王国騎士達が追跡する。さらにこの状況下で馬の足音が鳴り響き、イチノの周囲を捜索していたアッシュの別動隊が合流する。



「1匹も逃すな!!殲滅せよ!!」

『うおおおおっ!!』

『グギィイッ……!?』



ホブゴブリン達にとっては圧倒的な不利な状況で更に敵の援軍が加わり、もう逃げ場すらなくなったホブゴブリン達は戦う事も逃げる事も出来ず、為す術もなく討ち取られていく。


戦闘を開始してから数分でホブゴブリンの死体の山が出来上がり、遂に最後の1体に対してナイは旋斧を振りかざし、止めの一撃を放つ。



「はあああっ!!」

「グギャアアッ!?」



街中にホブゴブリンの悲鳴が響き渡ると、数百は存在したホブゴブリンが全ていなくなり、静寂が訪れる。そしてナイは全身に返り血を浴びながらも旋斧を振り払い、改めて教会へと視線を向けた。



(やった……のか?)



教会から大勢の人間が姿を現し、その大半が怪我人だった。その中にナイは見知った人間がいないのかを確かめていると、一人だけ彼の元へ近寄る人物が存在した。



「ナイ!!」

「ヨウ……先生!!」



建物から出てきたのはナイが陽光教会に世話になっていた時に一番に面倒を見てくれたヨウであり、彼女はナイの姿を見て目を見開き、身体を震わせながらもナイの元へ近寄る。


ナイはヨウが無事であった事に喜び、彼女の元へ向かおうとした。しかし、この時にヨウは頭を抑え、その場にうずくまる。



「うっ……」

「ヨウ先生!?どうしたんですか!?」

「に、逃げなさい……ナイ!!」

「えっ……?」



思いもよらぬヨウの言葉にナイは唖然とすると、彼女は顔色を真っ青にさせながらナイにの時が近付いている事を伝えた。



「ナイ、早く逃げて……でないと、貴方は!!」

「殺されるって……!?」

「早く、早く逃げなさい……奴は、もう近くにいるはずです!!」

「せ、先生!?」



ここまで取り乱したヨウの姿はナイは見た事がなく、彼女は必死にナイに逃げる様に促す。そんな彼女を見て他の者達は慌てて落ち着かせようとするが、この直後に地面に振動が走った――

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