第455話 奇策

(また上から来る!!どうする!?)



迎撃の技能を発動させて反撃を行うか、あるいはまた先ほどのように反魔の盾で防ぐか、そう考えたナイはここで左腕に装着している腕鉄鋼を思い出す。



(これだ!!)



ナイは旋斧を地面に突き刺すと、この時に懐にしまっていた風属性の魔石を取り出し、それを腕鉄鋼に装着させた。その様子を空中で見ていたガオウは訝しむが、次の瞬間にナイは思わぬ行動をとる。


アルトによって改造を施された腕鉄鋼は手首を曲げるとフックショットを放つ機能が追加され、空中を飛ぶガオウに向けてフックショットが放たれた。



「行けえっ!!」

「なぁっ!?」

「隠し武器!?」



フックショットが放たれるとガオウは驚愕の表情を浮かべ、リンも初めて見るので驚く。ミスリル製の刃が発射され、咄嗟にガオウは鉤爪で弾こうとしたが、刃には鋼線も巻き付いている。


鉤爪の刃とフックショットの刃が衝突した瞬間、鋼線が鍵爪に巻き付き、その瞬間を逃さずにナイは自前の怪力を生かしてガオウを地面に叩きつけようとした。



「落ちろぉっ!!」

「うおおおっ!?」

『えええっ!?』



瞬間的に剛力を発動させたナイは圧倒的な腕力でガオウを地面に叩きつける。まさかフックショットを隠し持っていたとはガオウも予想できず、彼は背中から地面に叩き込まれた。


あまりの衝撃にガオウは苦悶の表情を浮かべ、昔に巨人族に喧嘩を売った時、投げ飛ばされた時の事を思い出してしまう。だが、ガオウもこのまま引き下がれず、彼は起き上がる。



「ちっ……舐めるなよ!!」

「うわっ!?」



右腕の鍵爪に絡まった鋼線をガオウは左腕の鉤爪で切り裂き、鋼線は簡単に切れてしまう。魔法金属製で構成されているガオウの鉤爪は切れ味も鋭く、鋼線程度ならば簡単に切り裂く。


フックショットを壊されたナイは仕方なく風属性の魔石を取り外し、改めてガオウと向き合う。ガオウは背中を抑えながらもナイと向き合い、苦笑いを浮かべた。



「中々やるじゃないか……だが、勝負はここからだ!!」

「くっ……」

「そこまでじゃっ!!」



しかし、二人の間にハマーンが割って入り、その彼の行動に他の者も戸惑うが、ハマーンはリンと向き合う。



「リン殿、これ以上に勝負を続けたら二人とも大怪我では済まんぞ。ここらで止めるべきではないか?」

「……確かにその通りだな」

「な、何だと!?俺はまだ戦えるぞ!!」

「阿呆、明日にはイチノへ辿り着くのだぞ!!ここで怪我をして明日の戦に支障をきたしたらどうする!!勝負は引き分け、文句は言わせんぞ!!」



ガオウは納得できなかったが、これ以上にナイと彼が戦えば無事では済まない可能性が高い。二人ともイチノを奪還するためには必要な戦力であり、これ以上にお互いが傷つけあうのは許されない。


勝負の内容はナイが押していた様に見えるが、彼も大事なフックショットを壊されてしまい、ガオウ自身も地面に叩きつけられた時は受身を取って最小限の損傷に抑えていた。そのため、一概にもナイが優位に立っていたとは言えない。



「……ちっ、仕方ない。だが、決着はいずれつけるぞ。必ずだ!!」

「……分かりました」



ガオウはナイに対して落ちていたミスリル製の刃を放り投げ、それをナイは腕鉄鋼を装着している方の腕で受け止める。壊れてしまったフックショットに関してはハマーンに修理を頼む。



「ハマーンさん、これ直して貰えますか?」

「うむ、すぐに直してやろう。それとガオウよ、お主も怪我を早く治した方が良いぞ。ナイに回復魔法を……」

「うるせえっ!!これぐらいの傷、どうって事は無いんだよ!!」



ハマーンがガオウの怪我をナイに治してもらうように勧めるが、ガオウはそれを無視して先に船がある方向へ向かう。そんな彼を見てハマーンは頭を掻き、しばらくの間は放っておくことにした。



「ナイ君!!怪我してない!?」

「まさかガオウさん相手にあそこまで戦うなんて……やっぱり、ナイ君は凄いよ」

「いや、あはは……」

「……でも、あの人も本気を出しきれていなかった」

「ああ、ミイナの言う通りだ……最初の攻撃も様子見だったようだな」



モモはナイの身を心配し、リーナは彼がガオウと互角に戦えた事を褒めるが、ミイナとリンはガオウが最初から本気を出していない事は見抜いていた。


一番初めの攻防の際、ガオウはナイの反魔の盾に攻撃を仕掛けたが、彼もナイが反魔の盾を装着している事は把握していた。しかし、実際に反魔の盾の事は知っていても、具体的にはどれほどの効能を持つのかは知らない。


ガオウは最初から本気で戦うと見せかけてナイの反魔の盾の効果を見極めるためにわざと攻撃を仕掛け、反魔の盾の性能を見抜く。腕鉄鋼のフックショットに関しては事前に情報がなかったので彼も意表を突かれたが、ガオウが最初からナイの隠し武器の存在を把握していたとしたら、ナイは負けていたかもしれない。



(いずれ決着はつける……か)



リーナに続いてとんでもない人にナイは目を付けられたと思ったが、そんな彼が明日は味方として戦う事に心強く思う――

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