第448話 「付与魔術師」イリアの実力
――王国内には三人しか存在しない魔導士の一人であるイリアは「付与魔術師」であり、彼女は他の人間に魔力を分け与える事でその人間を強化させる魔法を扱える。
魔操術を扱える人間ならば他人に魔力を分け与える技術を身に着けることはできるが、イリアの場合は特別で彼女は自分の魔力を与えるだけではなく、その人間の適正が高い魔力を活性化させる能力を持つ。
例えば聖属性の適正が高い人間の場合は身体能力が一時的に強化されるが、これが他の属性の場合だと勝手が違う。ドリスのように火属性の魔法を得意とする人間は付与魔法を受けると、炎や熱を操る力が強化される。
エルマも付与魔法を扱えるが、彼女の場合はイリアのように人間を対象に魔力を送り込むという技術は行えず、あくまでも彼女は無機物に魔法の力を付与させる事しか出来ない。逆にイリアの場合は生物にしか付与魔法を発動出来ず、同じ付与魔術師といっても得意不得意が存在した。
「皆さん、頼みましたよ!!
「うわっ!?」
「くぅっ……!?」
「この感覚……久しぶりですわ!!」
「うおっ……!?」
イリアが魔法を唱えた瞬間に全員の身体が光り輝き、ナイとゴンザレスは身体に白炎を纏うと、ドリスの手にした真紅は輝きを増し、リンが所有する暴風も風の魔力が溢れ出す。
「な、何だこいつら……兄貴、やばいんじゃないですか!?」
「ば、馬鹿野郎!!怯むな、空の上なら俺達に敵う奴はいない!!」
「よ、よし!!ぶっ殺せっ!!」
「クエエエッ!!」
ナイ達の様子の変化を見て空賊たちは少しだけ怖気づくが、すぐにここが自分達の有利な空だと思い直し、攻撃を仕掛ける。しかし、そんな彼等に対してビャクは咆哮を放つ。
「ウォオオオンッ!!」
「クエエッ!?」
「グエッ……!!」
「ば、馬鹿!!落ち着け!!」
「くそっ、怯えるな!!」
ビャクが咆哮を放つとヒッポグリフの群れは彼の存在を嫌でも意識させられ、取り乱してしまう。その隙を逃さずにナイは駆け出し、旋斧を振りかざす。
「ビャク、援護ありがとう!!」
「やばい、こっちに来るぞ!?」
「ばか、ガキなんか恐れるな……うおおおっ!?」
「クエエッ!?」
旋斧を構えたナイは凄まじい速度でヒッポグリフに接近すると、盗賊達の目にはまるでナイが瞬間移動でもしたかのように一瞬で近付いたようにしか見えなかった。
ヒッポグリフと戦うのはナイは初めてだったが、旋斧を握りしめたナイは全身の筋力を使い、今の状態ならば剛力を発動せずとも敵を倒せると確信する。
「だああっ!!」
「グエエッ!?」
「うぎゃああっ!?」
ヒッポグリフの身体を旋斧が切り裂いた瞬間、首元と胴体が切断された事でヒッポグリフに乗り込んでいた男も床に倒れ込む。その光景を見てナイはある確信を抱く。
(こいつら、そんなに硬くない!!これなら勝てる!!)
どうやらヒッポグリフの強さはそれほどではなく、少なくとも赤毛熊やミノタウロスといった魔獣よりも弱い。無論、空を飛べるので厄介な相手ではあるが、要するに空に逃げる暇も与えずに攻撃すればいいだけの話である。
「ふんっ!!」
「グエエッ!?」
「うわぁっ!?」
ナイから少し離れた場所ではゴンザレスがヒッポグリフの首を締め付け、巨人族の腕力を生かして床に倒れ込ませる。この際に背中に乗っていた者も巻き込まれ、ヒッポグリフに押し潰される形となる。
現在のゴンザレスはナイと同様にイリアの付与魔法によって聖属性の魔力が活性化し、強化された状態だった。元々体格と筋力が恵まれているゴンザレスならば油断しなければヒッポグリフに後れを取る事はない。
「リンさん、ここは貴女の出番ですわよ!!」
「分かっている、邪魔にならない様に下がっていろ……お前達、頭を伏せろ!!」
「えっ?」
「むっ!?」
ここでリンが遂に動き出し、彼女は日本刀を想像させる「暴風」という魔剣を腰に差すと、剣術の「居合」の体勢を取る。但し、彼女の武器の間合いには敵は存在せず、距離が離れ過ぎていた。
「何だ?一体何の真似だ?そこから俺達に攻撃でもするつもりか?」
「おい、待て……こいつ、確か銀狼騎士団の副団長じゃないのか!?」
「やばい、お前等早く空へ……!!」
「――遅いっ!!」
リンの構えを見て空賊の何人かは馬鹿にしたが、すぐに察しの良い者は銀狼騎士団のリンの噂を思い出し、慌てて空へ逃げようとした。
しかし、彼等が行動をう移す前にリンは刀を鞘から引き抜いた瞬間、強烈な風圧が発生すると、甲板に居りていたヒッポグリフとその背中に乗り込んだ者達に向けて「風の斬撃」を放つ。
風属性の魔力で構成された斬撃がヒッポグリフの肉体を切り裂き、更に背中に乗り込んでいた者達の両足を巻き込む。この結果、数体のヒッポグリフと空賊の男達の両足が切り裂かれ、悲鳴が響き渡る。
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