閑話 〈勲章の約束 ガオウの思惑〉
――時は少し前に遡り、イチノの救援のために黄金級冒険者が招集され、その中には当然だがリーナの姿も存在した。彼女は先の火竜とゴーレムキング戦でも活躍しており、何よりも今回の到達部隊の指揮を執るアッシュの娘である。
アッシュは公爵ではあるが、将軍職にも就いており、この国では二番目に偉い将軍である。ちなみに一番上の立場の大将軍は猛虎騎士団の団長が兼任しており、現在は北の国境に滞在しているので王都には不在のため、アッシュが討伐部隊の指揮を執る事になった。
「忙しい中、わざわざ集まって貰ってすまない。特にハマーン殿は整備も忙しい時にご迷惑をおかけした」
「なに、船の整備はもう殆ど終わっておる。後は燃料になる魔石を運び込めば大丈夫じゃろう」
「無理するなよ爺さん、俺と違ってあんたは年老いてんだから怪我の影響も残ってるんじゃないのか?」
「ふんっ!!小髭族の回復力を舐めるな、あの程度の火傷などもう何ともないわ!!」
レッドゴーレムの爆発に巻き込まれて酷い火傷を負っていたガロウもハマーンも回復魔法と回復薬の処置によって完全に回復し、万全の状態だった。特にガオウの方は前回の討伐隊の時は自分が対して役に立てずに引き返した事に負い目を感じていた。
(油断していたとはいえ、あんな爆発に巻き込まれて途中離脱とは……これ以上にへまをしたら王国の信用を失う。もう失敗は許されないな……)
ガオウは焦りを抱いており、今回の仕事に関しては何としても成果を上げなければならないと意気込んでいた。そんなガオウの心を読み取ったかのようにアッシュは3人を呼び出し、説明を行う。
「今回の遠征はハマーン殿は船の整備を頼みたい。イチノへ到着した場合、船が襲われる可能性もある。王都へ帰還するためにもこの船は必要不可欠、何としても守らねばならんのだ」
「うむ、船の事は儂に任せろ」
「ガオウ殿、それとリーナ……御二人には船が降りている間は船の守護を任せたい」
「はっ!?ちょっと待って……下さい、船の警護という事は俺達は戦わないんですか!?」
「船の警護も重要な役目だ。この飛行船を失えば我々は帰る手段を失う……まさか陸路で一か月も費やして戻るわけにはいかんからな」
飛行船の守護を頼まれたガオウは戸惑いの表情を浮かべるが、アッシュとしてはふざけているわけではない。飛行船がなければ王都への帰還の際に問題となり、飛行船が魔物に襲われない様に誰かが守らなければならない。
討伐部隊を率いるアッシュは前線で指揮を執る必要があり、他の者に守護を任せられるとしたらドリスかリン、あるいは黄金級冒険者の3人だけである。
「この船が我々の生命線といっても過言ではない。もしも到着時にイチノが陥落していた場合、我々は撤退手段を確保しなければならん。だからこの船の守護をする人間が必要不可欠なのだ」
「そうじゃろうな。儂は異論はないぞ、この船が壊れた時に対処できるのも儂だけだからのう」
「それはそうかもしれませんけど……ドリス副団長やリン副団長に任せればいいじゃないですか!?」
「あの二人は前回の任務の失態の件を引きずっている。だからこそ、二人には活躍の場を与えておきたい。勿論、この船を守り切る事が出来れば君達の功績として私は国王様に上層し、勲章を渡す様に頼もう」
「く、勲章を……」
「ええっ!?」
「ほほうっ……それはいいのう」
勲章という言葉にガオウもリーナも驚愕し、ハマーンは顎髭を撫でながら笑みを浮かべる。国王から直々に勲章を授与されればそれは信頼の証であり、冒険者としては国の信頼を得た事を意味する。
もしも勲章を手に入れれば国からの信頼の厚い冒険者として名が広がり、冒険者の立場も向上される。船を守り切るだけで勲章を貰えるかもしれないという話にガオウは内心喜ぶ。
(そういえばこの爺さんは前に技師として勲章を貰っていたな……だからこんなに冷静なのか。ちっ、だけど勘違いするなよ。あんたの場合は冒険者としてではなく、あくまでも鍛冶師として認められたからこその勲章だ)
ガオウはハマーンの余裕の態度が過去に既に彼は技師としての腕を認められ、勲章を授かっている事を思い出す。しかし、ガオウからすればハマーンが勲章を貰えたのは冒険者として優秀だからと認められたわけではなく、あくまでも技師としての腕を買われたに過ぎないと内心で笑う。
(嬢ちゃんも勲章は貰っていなかったはずだが、この嬢ちゃんの場合はアッシュ公爵の娘だ。公爵家の娘なら勲章なんかどうでもいいんだろ……だが、俺の場合は違う。俺は冒険者としての実力だけでこの勲章を勝ち取ってやる)
冒険者としてガオウは地道に功績を重ね、遂には黄金級冒険者に到達できた。ここで勲章を手に入ればガオウは冒険者としての頂点に近付くと判断し、何としても活躍して功績を上げる事を誓う――
※不穏な気配を感じますね……
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