閑話 〈伝説の鍛冶師フクツ〉

――伝説の鍛冶師と謳われながら生涯で2本の魔剣しか打たなかった「フクツ」彼はどうして伝説と呼ばれるようになったのか、それは彼の出生が関わっている。


フクツの先祖はかつて存在した「和国」という名前の小国で暮らしており、代々鍛冶師の家系であった。しかし、この和国は彼が生まれる遥か前に「ダイダラボッチ」なる魔物によって滅ぼされていた。


国が滅びた後のフクツの先祖は王国に移り住み、鍛冶師として働く。彼の家系は人間であったが、彼等の作り出す品々は小髭族の作り上げる道具にも劣らなかった。


フクツも幼少の頃から鍛冶を学び、彼は他の誰よりも鍛冶師としての才能に恵まれ、僅か15才で家を継ぐ。その後、フクツは他の鍛冶師から一目置かれる存在となり、そしてある時に彼の元に王族が訪れた。



「お主がフクツか……実はお主に打ち直して貰いたい武器がある。遥か昔、火竜を打ち倒した勇者が使用していたという武器じゃ」

「まさか……聖剣の事ですか!?」



歴史上でただ一人だけ火竜を打ち倒したという勇者レノが所有していた聖剣「カラドボルグ」その存在はフクツも知っており、その実物を目の当たりにした。


レノの死後、カラドボルグは行方不明になったと聞いていたが、実際の所は王家が管理しており、彼は変わり果てた聖剣の修復を依頼される。聖剣カラドボルグは酷く錆びつき、しかも下手に触れようとすると聖剣に内蔵されている雷属性のが反応して電流を放つ。



「これまで誰もこの聖剣を直す事が出来なかった。しかし、もしもお主が直してくれるのであればどんな望みでも叶えてやろう」

「望みなどありませぬ……伝説の聖剣を我が手で直せるのならば私にとってはこれ以上のない誇りになりましょう!!」



フクツは当時の国王の依頼を引き受け、カラドボルグの修復を試みた。今までに何十人、何百人という人間が挑んだが聖剣を直す事は出来なかった。しかし、フクツはやり遂げる。


修復を開始してから三日が経過すると、フクツは国王の元に見事なまでに磨き上げられた聖剣を渡す。国王は完全に修復されたカラドボルグを見て驚き、どのような方法で聖剣を直したのかを問う。



「信じられぬ、あの錆びた剣をこれほどまでに鍛え直すとは……フクツよ、お主はどんな手段を用いて直したのじゃ」

「信じられぬかもしれませんが、私には武器の声が聞こえるのです。その声に従い、修理を施したお陰で私は電撃に一度も襲われる事もなく直す事が出来ました」

「な、何と……」



国王はフクツの言葉を聞いて信じられなかったが、実際に彼の身体は三日三晩の作業で薄汚れてはいたが、火傷や服が焦げたような跡は一切残っていなかった。伝説の聖剣を修復させた事により、フクツは人々から伝説の鍛冶師と呼ばれる――





――後にフクツは聖剣に触れた事で彼はある目標を抱く。それは何時の日か自分は聖剣を越える武器を作り出すと心に誓い、彼はその後は旅に出て世界中を回り、様々な鍛冶師と出会って知識や技術を吸収する。


やがて彼は王国に戻るとレイという名前の剣士に出会い、この剣士との出会いが彼の人生を一変させる。そしてフクツは初めて魔剣を作り出した。その魔剣は剣士は気に入り、家宝として扱う事を約束してくれた。


しかし、魔剣を作り出した後にフクツはもう1本だけ魔剣を作り出す。その理由は彼は誰にも語らなかったが、死ぬ前に一言だけ家族に言い残したという。



「儂は力がある剣を求めすぎた故に重大な失敗を犯した……どれほど強力な武器であろうと、それを扱う人間によって最悪の事態を引き起こす可能性を忘れていた。もしも、儂の魔剣が悪しき者に渡った時、もう片方の魔剣で破壊してくれ……」



フクツは子孫にそれだけを言い残すと、岩砕剣と名付けた剣を子孫に託して逝った。だが、残念ながら彼の子孫は後に戦争で死んでしまい、岩砕剣も他の人間の手に渡ってしまう――






――そしてフクツの死後、彼の手によって修復が果たされた聖剣カラドボルグは何者かの手によって盗み出された。聖剣は現在も行方知らずであり、その居場所を知る者はいない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る