第393話 ゴーレムキング

「み、見てください!!奴の胸元を!!」

「ああっ!?何だい、こんな時に……あれはっ!?」

「……まさか、あの時の!?」



ヒイロの言葉に全員が大型ゴーレムの胸元に視線を向けると、そこには赤く光り輝く宝石が埋め込まれていた。否、埋め込まれていたのではなく露出していたという表現が正しい。


昨夜に現れたレッドゴーレムと同じように胸元に経験石を露出させた大型ゴーレムを見て察しの良い者は気づいた。この大型ゴーレムの正体は昨日に倒したと思われたゴーレムが復活を果たした事を。




――時刻は昨夜まで遡り、ナイ達との戦闘でレッドゴーレムは肉体が崩壊したが、実を言えば破壊される寸前に本体である経験石だけは地中の中に埋まっていた。




ゴーレムは肉体を砕けようと経験石が無事ならば何度でも復活できる。土中に埋まった経験石は土砂を練り集めて新たな肉体を作り上げ、そしてグマグ火山へと帰還を果たす。


火山へ帰還後は噴火の際に膨大な火属性の魔力を含んだ溶岩の中に飛び込み、そして十分な量の魔力を吸い上げる。事前にいくつもの魔力を吸い上げた魔石を溶岩の中に浸していたお陰で大量の魔力を吸い上げる事が出来た。


復活を果たしたレッドゴーレムは以前よりも更に巨大化を果たし、遂には火竜を倒した時と同じ状態にまで戻る。




実を言えば火竜を倒した際の大型ゴーレムは火口に落ちた時、身体が粉々に砕けてしまう。その結果、砕けた肉体の一部は火属性の魔力を含んだ溶岩の影響を受け、新たなレッドゴーレムとして生まれ変わってしまう。


火山が噴火した時に大型ゴーレムの破片の一つ一つがレッドゴーレムに変化を果たし、火山の外にまで飛び散った破片もレッドゴーレムと化す。しかし、大型ゴーレムの本体に関しては他の分身とは異なり、最も大きな力を宿していた。



『ゴガァアアアアッ!!』

「こ、こいつ……ここまで大きくなったのかい」

「思い出したぞ……胸元に宝石があるゴーレムは王の証であるという話を」

「こいつの正体はゴーレムの亜種ではない……ゴーレムの最上位種ゴーレムキングか!!」



ゴーレム種の中には胸元に経験石を露出させた存在がおり、その存在は王となる証を持つと言われている。その名前はゴーレムキングと呼ばれ、ゴーレム種の最上位種にして最強のゴーレムだと伝わっていた。


絵本の中に出てくるような伝説上の魔物を見て誰もが戦慄し、バッシュやマジクですらもゴーレムキングと相対してどのように行動すればいいのか分からない。だが、そんな彼等に対してゴーレムキングは容赦なく襲い掛かる。



『ゴガァッ!!』

「王子様、危ない!?」

「ぐぅっ!?」



ゴーレムキングはバッシュに目を付けて彼に向けて拳を振りかざし、上空から放つ。バッシュの防魔の盾は外部の衝撃を大地に流す機能を持つが、それはあくまでも正面からの攻撃に対してのみであり、頭上から攻撃された場合は衝撃を受け流す事は出来ない。


大盾で防いだところで圧倒的な力の差で押し潰される事は目に見えており、バッシュは逃げようとしたが間に合わず、マジクが杖を突き出す。



「ボルト!!」

『オアッ!?』



咄嗟にマジクの杖の先端から電撃が放たれ、ゴーレムキングの振り下ろした拳に的中する。並の魔物ならば感電して動けないだろうが、生憎とゴーレムキングの肉体は生身の肉体ではなく、感電はしない。


しかし、電撃を受けた衝撃によって攻撃の軌道が僅かに変わり、結果的にはバッシュの回避は成功した。だが、拳が地面に衝突した瞬間に強烈な衝撃が走り、周囲に振動が走る。



「うわぁっ!?」

「きゃあっ!?」

「何て威力だい……こんなの喰らったら、ひとたまりもないよ!!」

『ゴオオオッ!!』



ゴーレムキングの腕力は下手をしたら火竜をも上回り、直撃すれば人間などひとたまりもない。しかもゴーレムキングは容赦なく襲い掛かり、今度は踏みつぶそうと右足を振りかざす。



『ゴアアッ!!』

「うぎゃあっ!?」

「ひぎぃっ!?」

「た、助け……ぐああっ!?」



ゴーレムキングが右足を踏みつけた瞬間に数名の王国騎士が巻き込まれ、一撃で絶命してしまう。攻撃を逃れた者も踏みつけられた際に吹っ飛んだ岩石の破片に巻き込まれ、倒れ込む。



「こ、この化物が……」

「テンさん、近づいたら危険です!!」

「でも、近づかないと攻撃が当てられない……!!」



攻撃に巻き込まれた王国騎士を見てテンは怒りを抱くが、迂闊に近づけば彼女が攻撃に巻き込まれてしまう。しかし、遠距離からの攻撃手段を持たない者達ではゴーレムキングに近付かなければどうしようもない。


唯一の希望のマジクでさえもバッシュを助ける際に残されたわずかな魔力を使ってしまい、もう砲撃魔法をあと一度使えるかどうかだった。彼は顔色を青くさせ、膝を突き、もう杖を握りしめる力も弱まっていた。

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