第392話 大型ゴーレム戦
――今の今までバッシュは大型ゴーレムの存在を忘れていた事に気付き、自分自身の愚かさを呪う。そもそも討伐隊が火山へ赴いた理由はマホが発見したという大型ゴーレムの討伐のためであり、火竜が目的ではない。
大型ゴーレムを放置すれば火竜を目覚めさせる危険性があるからこそ討伐隊は派遣されたのだが、肝心の火竜は既に休眠状態から復活していた。だからこそバッシュは火竜の討伐に全力を注ぐしかなかった。
結果から言えば火竜は戦闘不能の状態にまで追い込む事は出来た。しかし、肝心の大型ゴーレムの存在を忘れて魔術兵や魔導士のマジクに無暗に魔法を発動させたのは失敗だった。
(もうマジクも魔術兵も魔法を撃つ魔力は残っていない……だが、あの巨体を相手に王国騎士だけで対抗できるのか!?)
仮に途中離脱したリン、ドリスがいればまだ対抗手段はあったが、現在の討伐隊の主力である魔術兵と魔導士のマジクが魔力を切れた以上、王国騎士だけで対応するしかない。
しかし、火竜との戦闘でナイは気絶してビャクも負傷している。リーナも先の戦闘で消耗が激しく、頼れるとしたらテンぐらいしかいない。
「――気を抜くな!!敵はまだ残っているぞ!!」
バッシュは声を張り上げると大型ゴーレムを見上げていた騎士達は彼の言葉で正気を取り戻し、戦闘態勢を整える。だが、殆どの兵士がここまでの道中と火竜との戦闘で疲弊している。
それでもこの状況下では逃げるわけにはいかず、そもそも逃げたとしても逃げ切れる相手とは思えない。大型ゴーレムは火口から抜け出すと、滑り落ちる様に斜面を降りていく。
――ゴアアアアアアッ!!
自分達に目掛けて滑り落ちてくる大型ゴーレムの姿に王国騎士達も恐怖を抱くが、バッシュは防魔の盾を構え、手にしていた魔槍を握りしめる。王子が逃げないのであれば他の者も逃げるはずがなく、彼等は戦う覚悟を決めた。
「行くぞぉっ!!王国騎士の誇りに賭けて戦えっ!!」
『うおおおおっ!!』
バッシュの言葉に黒狼騎士団に所属する騎士達は彼に続き、他の者達も遅れながらも後に続く。その一方でマジクも覚悟を決めた様に杖を握りしめ、テンも退魔刀を握りしめてリーナにナイの事を任せる。
「ヒイロ、ミイナ!!あんた達はまだ動けるんだから一緒に来な!!リーナ、あんたはナイを任せるよ!!」
「えっ!?ぼ、僕も一緒に……」
「その身体では無理です!!ナイさんをお願いします!!」
「ナイの事を頼んだ……また、口移しでもいいからナイを治して」
「ちょっ……!?」
ナイとビャクをリーナに任せてテン達も駆け出し、迫りくる大型ゴーレムに向かう。残されたリーナは戸惑いの表情を浮かべながらナイに視線を向け、彼女は懐に手を伸ばす。
「……ああ、もう!!や、やるよ!!やればいいんでしょっ!?」
「ウォンッ?」
リーナは回復薬を取り出し、自分の口に含むと昨夜のようにまたナイに口づけして飲ませようとした。だが、唇が触れる寸前にナイの腕が僅かに動く――
――その一方、大型ゴーレムの方は王国騎士達を相手に拳を振りかざし、容赦なく叩き潰そうとしてきた。
『ゴアアアアッ!!』
「ひいいっ!?」
「馬鹿、怯えるんじゃないよ!!戦いな!!」
テンは怯えている騎士の一人に怒鳴り付け、力ずくで引き寄せる。騎士が立っていた場所に大型ゴーレムの拳がめり込み、地面に亀裂が走る。
ここまでの体格差だと大型ゴーレムの全ての攻撃が一撃必殺の威力を誇り、攻撃が当たれば死は免れない。こんな相手に魔法も無しで挑むなど無謀だった。だが、今は泣き言など言っていられない。
「恐れるな、戦えっ!!」
「うおおおっ!!」
「やああっ!!」
「ていっ」
大型ゴーレムに対して王国騎士達は力を合わせて攻撃を仕掛け、ヒイロやミイナも刃を放つ。だが、大型ゴーレムを構成する肉体はここまでの道中で現れたレッドゴーレムよりも硬く、しかも火口から出てきたばかりの影響か本物の溶岩のような熱気を放つ。
「あ、熱い!?」
「け、剣が溶けた……」
「くそ、化物めっ!!」
魔法金属製以外の武器では大型ゴーレムに攻撃を当てるだけで武器の方が溶解してしまい、役に立たない。この熱を下げるには水属性の魔法攻撃が一番なのだが、生憎と水属性の魔法の使い手はこの場にはいない。
リーナとナイが居れば二人の水属性の魔法剣(槍)で熱を下げる事も出来たかもしれないが、その二人は火竜戦の怪我と疲労でまともに動けない。仮に動けたとしてもこれほどの巨体を凍り付かせるほどの力は二人は持っていない。
「この化物がっ!!」
「てりゃっ……わっ!?」
「危ない!!大丈夫ですか!?」
『ゴアアッ!!』
テンとミイナの攻撃すらも大型ゴーレムは弾いてしまい、攻撃が全く通用しない。このままでは大型ゴーレムに全滅させられるかと思われた時、ここでヒイロはある事に気付いた。
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