閑話 〈マホの目覚め〉

――討伐隊が出発した日の翌日、王城の医療室にて眠り続けていたマホは遂に目を覚ます。意識を取り戻したマホが最初に見たのは自分の傍で椅子に座った状態で眠るエルマと、少し離れた場所で座り込んだ状態で寝息を立てるゴンザレスの姿だった。



「ここは……そうか、儂は魔力を失って意識を失っておったのか」

「すぅっ……すぅっ……」

「ぐぅうっ……」



身体を起き上げたマホは自分の身体を確認し、ずっと眠り続けていたせいかまだ上手く動かせないが、どうにか上半身を起き上がらせる。



「エルマ、ゴンザレス……寝る時はちゃんと横にならんか」

「ううんっ……師匠」

「やれやれ、この調子では簡単に起きそうにないのう……ずっと儂の看病をしてくれていたのか」



座ったまま眠る弟子二人を見てマホは苦笑いを浮かべ、二人に心配を掛けさせたと思いながら彼女は最後の弟子を探す。だが、部屋の中にはどうやら二人しかいない様子だった。


ガロがここに居ない事にマホは不思議に思い、生意気な弟子ではあるが見舞いにも来ない程に薄情な人間ではない。彼はどうしているのか不思議に思いながらもマホは起き上がろうとした時、ここで部屋の扉が開かれる。



「うおっ!?起きていたのか……」

「おお、イシではないか。いや、イシ医師と呼ぶべきか」

「普通に呼べよ!!全く、しぶとい婆さんだぜ……たくっ、お前の弟子たちのせいでこっちはいい迷惑だ。目を覚ますまでここを出て行かないと言い張って困ったんだぞ」

「それは……迷惑をかけたのう」



イシに対してエルマとゴンザレスが頼み込む姿を想像し、マホは笑顔を浮かべる。だが、喜んでばかりではおられず、状況の確認を行う。



「状況はどうなっておる?儂はどれほど眠っておった?」

「4日……いや、5日か?相当に無茶をしたようだな。流石に今回は駄目かと思ったぞ」

「儂もじゃ……だが、あれほどの脅威を目にして簡単に死ぬわけにはいかん。ところで眠っている間に不思議な夢を見てのう、綺麗な花畑で儂の両親が呼びかけてくる夢で……」

「死にかけてんじゃねえか!!よく生きて戻れたな!!」

「ははは、冗談じゃよ……じゃが、笑ってはおられんな」



マホは自分が4日以上も意識を失っていた事を知り、ため息を吐き出す。火山で発見した大型ゴーレムの情報を一刻も早く伝えるためとはいえ、流石に無茶をし過ぎた。


飛行魔法は本来は魔力の消耗が激しく、それを長時間も発動すれば自殺行為に等しい。王都に引き返した時はマホは既に魔力が底をつきかけていた。もしも完全に魔力を使い切っていれば死んでいただろう。


回復までに時間が掛かったのは魔力は普通の回復薬の類では簡単には戻る事はなく、魔力回復薬などの薬を用意しないといけない。だが、マホのように膨大な魔力を持つ人間が魔力切れを起こすと回復するのに時間が掛かってしまう。



「昔ならばどんなに魔力を使っても1日もあれば回復したが……今回はちと時間が掛かり過ぎたのう」

「年を重ねれば肉体が衰えるように魔力を回復する機能も弱まる……いくら外見が若く見えてもあんたは婆さんである事に変わりはないんだよ」

「耳が痛いのう、儂はぴちぴちじゃぞ?」

「どの口が言うんだよ……あんた、本当の年齢は何才だ」

「乙女に年齢を尋ねるとは無礼な男じゃな……それよりもいい加減に事情を説明せんか」

「たくっ、仕方ねえな……」



イシは面倒くさそうにマホが気絶した後の出来事を話し、既にグマグ火山へ向けて大型ゴーレムの討伐隊が出発した事を話す。


この時にマホはナイが討伐隊に参加した事を知り、驚いた表情を浮かべる。マホは確かにナイの実力は買っていたが、いつの間にか国王にさえも認められる実力者にまで育っていたのかと驚く。



「あのナイが討伐隊に参加しているとは……しかも、二つの魔剣を扱えるようになった?いったい何が起きてるんじゃ……」

「さあな……それよりも婆さん、あんた大分前にグマグ火山に出発したそうだが、どうして報告が遅れたんだ。ここから火山まで馬で移動するにしてもせいぜい3日程度の距離だろう。なのに一か月も掛かるなんて……」

「ふむ、その事か……実は儂は表向きはグマグ火山の調査に向かう名目で王都を発ったが、その途中でどうしても会わなければならない者がおってな……」

「……誰と会ってたんだ?」



一か月も費やしてマホが会いに向かったという人物にイシは興味を抱くと、彼女は驚くべき人物の名前を告げた。



「王妃……ジャンヌの元へ儂は赴いていた」

「はっ……!?」



思いがけない言葉にイシは呆気に取られ、既に亡くなっているはずの王妃の元にマホは会いに向かった事を話す――

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