閑話 〈ビャクの過去〉 ※追加〈アルの過去〉

――魔獣種の中でも希少種である「白狼種」その生態系は謎に満ちており、一説では黒狼種と呼ばれる魔獣種の亜種が白狼種だと言われている。


白狼種は通常の魔獣種と違って知能が非常に優れており、なんと人間の言葉さえも理解できる。また、成長速度も速く、しかも寿命も長くて100年は生きられるという。


但し、白狼種はその美しい毛皮のせいで希少価値が高く、彼等を狙う人間は多い。人間に乱獲されて数を減らし、現在では希少種になったと唱える歴史家も多い。


ナイが子供の頃に出会い、共に育ってきたビャクは元々は別の地方で暮らしていた。生まれた時は森の中で家族と共に生きてきたが、ある時にビャクの家族は別の魔物に殺されてしまう。


ビャクの家族を殺したのは全身が緑色に覆われた巨人であり、子供のビャクは逃げるのが背一杯だった。ビャクを守るために父親も母親も死んでしまい、残されたビャクは故郷を離れ、ナイ達の暮らしていた村に辿り着いた。



「ウォンッ……」



屋敷の裏庭にて目を覚ましたビャクは欠伸しながらも夜空を見上げ、子供の頃の夢を見た。まだ生まれて間もなかったころ、ビャクは両親と共に幸せに暮らしていた。だが、その幸せな生活は長くは続かなかった。



「グルルルッ……!!」



過去を思い出したビャクは自分の両親の仇を思い返し、今すぐにでも仇を討ちたいと思う。普通の魔獣であれば昔の事などすぐに忘れてしまうだろうが、ビャクはなまじ知能が発達しているだけに過去の記憶を忘れない。


しかし、ビャクがこれまでに家族の仇を討たなかったのはナイの存在があるからであり、ビャクからすればナイは家族同然の存在だった。彼が幼い頃から共に育ち、一緒に過ごした日々はナイが両親と暮らしてきたと同じぐらいに幸福な日々だった。



「クゥ〜ンッ……」



両親の仇の事を忘れたわけではないが、ビャクはもう家族を失いたくはない。だからこそナイが陽光教会に戻った後も彼の故郷を守り続け、ナイと共に生きていく事を決意する。


最近は一緒に居られる時間も減ったが、それでもビャクにとってナイが家族のような存在である事に変わりはなく、大人しく過ごす。しかし、この時のビャクは思いもしなかった。まさか遠くない未来に彼は自分の両親の仇と巡り合う事を――





※久々の閑話です。今回のメインはビャクです。ここから先は追加です。




――まだアルがナイを拾う前、彼は親元を離れてドルトンと共に冒険者として活動していた時期があった。若かりし頃のアルは旋斧を巧みに使いこなし、ドルトンと共に旅をして様々な出来事を体験していた。



「馬鹿野郎!!あんな分かりやすい罠に引っかかるんじゃねえよ!!」

「うるせえよ!!宝箱を見つけたら確認せずにいられるか!!」

「お陰でこの様だろうがっ!!」



とある遺跡にてアルと相棒のドルトンと共に魔物に囲まれていた。彼等を囲んだのは只の魔物ではなく、全身が煉瓦で構成された巨人だった。



「ゴォオオオッ!!」

「うおおっ!?死ぬぅっ!?」

「よりにもよってゴーレムかよ!!しかもこいつ、どう見ても普通のゴーレムじゃねえぞ!?」



通常種のゴーレムは岩石と土砂で構成されているのに対し、二人が見つかった相手は煉瓦で構成されたゴーレムだった。恐らくは普通の魔物ではなく、ゴーレムの亜種と思われる。


二人が遺跡の中に入って見つけた宝箱を開いた瞬間、唐突に壁の煉瓦が動き出してゴーレムと化す。あからさまな罠に引っかかったアルとドルトンだが、こうなった以上は二人のやる事は一つだった。



「ちっ……仕方ねえ!!おい、ドルトン!!」

「ああ、分かっている……あの手だな?」

「ゴオッ……!?」



二人が目配せを行い、何かするつもりなのかと煉瓦製のゴーレムは身構えると、ドルトンは手袋をした状態で鞄の中に手を伸ばし、ある物を取り出す。それは見た目は白いが、よくよく観察すると毛玉のような物である事が判明する。



「喰らいやがれ!!マダラオオグモの糸玉だ!!」

「ゴアッ!?」



ドルトンはとある昆虫種が作り出す糸の塊を投げ放つと、ゴーレムは糸に絡まれて動けなくなり、その様子を見ていたアルは旋斧を抱えて駆け出す。



「うおりゃあああっ!!」

「ゴガァッ……!?」

「やったか!?」



旋斧を構えたアルはゴーレムの頭部に向けて渾身の一撃を放ち、ゴーレムの巨体が傾く。それを見たドルトンは声を上げるが、アルはゆっくりと振り返ると苦笑いを浮かべた。



「か、か、硬い……腕が、痺れた」

「何やってんだお前は!?」

「ゴォオオオッ!!」



アルの繰り出した旋斧はゴーレムの頭部に罅を与える程度の損傷しか与えられず、腕が痺れたアルはしばらくは戦えそうになかった。その間にもゴーレムは身体に張り付いた糸を引きちぎり、今にも二人に襲い掛かろうとしていた――





――それから数分後、どうにかゴーレムから逃げ出して遺跡の外にまで逃げ延びたアルとドルトンは倒れ込み、空を見上げる。もう既に時刻は夜を迎え、彼らはお互いに疲れ果てながらも笑い声を上げる。



「は、ははっ……今日もどうにか、生き延びられたな……」

「そ、そうだな……ははっ、はははははっ!!」

「ぶはははっ!!」



二人は狂ったように笑い声をあげ、自分達が生き延びた事を実感する。結局は目的の宝は得られなかったが、この日を境に二人は宝箱を見つけても無暗に開けない様に心掛ける様になったという。




※ドルトンとアルの過去編はまた何処かでやるかもしれません(^ω^)

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