第370話 爆槍
「油断するな、まだ動くぞ!!」
「分かっとるわい!!」
バッシュの言葉を聞いてハマーンは鉄槌を構え直すと、胴体だけとなったレッドゴーレムは震え出し、やがて胸元の部分に人面が出現した。失った頭部の代わりに今度は胸に新しい顔を作り出したレッドゴーレムはハマーンに手を伸ばす。
「ゴオオッ!!」
「ちぃっ……!!」
「ハマーンさん、下がって!!」
しかし、ここでハマーンの後ろからリーナが駆けつけると、彼女は槍を構えてレッドゴーレムの顔面に向けて突き刺す。
並の武器ならばレッドゴーレムに触れただけで溶解するだろうが、ハマーンの鉄槌と同様にリーナの武器も魔法金属で構成されているので溶ける事はない。
「ゴアアッ……!?」
「やああっ!!」
リーナは胴体から槍を引き抜くと、目にも止まらぬ速度で突きを繰り出し、急所を貫く。攻撃を受けたレッドゴーレムは粉々に砕け散り、地面に倒れ込んだ。
「た、倒したのか!?」
「流石はアッシュ公爵の……」
「待て、様子がおかしいぞ!!」
粉々にされたレッドゴーレムを確認して倒したかと思われたが、ここで破片の一部が震え出し、徐々に形を変形させていく。やがて大きさは縮小したが、元の形にレッドゴーレムは変化を果たす。
「ゴオオッ!!」
「さ、再生した!?」
「いや……再生というよりは形が戻ったように見えた。大きさは縮んでおる、どうやらこいつが本体のようじゃな」
「おいおい、粉々に砕いても死なないのかよ……」
リーナの攻撃を受けて砕け散ったレッドゴーレムが復活する光景を見てガオウは呆れた声を上げるが、ここでバッシュはレッドゴーレムを倒す方法を思い出す。
レッドゴーレムのようなゴーレム種は体内に存在する経験石を破壊しなければ完全に倒す事は出来ず、経験石の位置は人間の心臓とだいたい同じ位置にあるはずである。つまり、胸元の何処かに経験石が存在するはずだった。
「経験石を破壊しろ!!そうしなければ確実に倒せないぞ!!」
「そういう事でしたら私の出番ですわね」
「ドリス……!?まさか、魔槍を使うつもりか?」
他の者を押し退けて現れたのは黒狼騎士団のドリスであり、彼女の手元には真紅のランスが握りしめられていた。彼女の家に伝わる魔槍であり、名前の方も色合いと同じく「真紅」と呼ばれている。
ドリスが戦おうとする姿を見てナイは思い返せば彼女が戦う姿を初めて見る。銀狼騎士団の副団長のリンと黒狼騎士団の団長であるバッシュの戦いぶりは見た事があるが、ドリスが本格的に戦う姿は初めて見る。
「お嬢様、お気を付けください」
「ええ、大丈夫ですわ」
ここでナイはドリスの傍に騎士の格好をしたリンダが存在する事に気付き、よくよく観察すると騎士の中にはドリスが「親衛隊」と呼ぶ彼女の護衛も含まれていた。騎士団の中にはドリスの護衛のために団員に所属している物もいたらしい。
ドリスは真紅に輝くランスを構えると、レッドゴーレムと向き合う。色合いから察するに彼女の魔槍はヒイロの烈火と同じように火属性の魔法剣(槍)を得意とすると思われるが、通常は火属性の魔法はレッドゴーレムには通用しない。むしろ、魔力を吸収される危険性もある。
「ドリス、大丈夫か?なんなら私が代わってやろうか?」
「余計なお世話ですわ!!巻き込まれたくなかったら下がっていなさい!!」
「やれやれ……」
リンの軽口にドリスは怒鳴り返すと、彼女はランスを構えてレッドゴーレムと向き合う。1メートル程度まで縮小化したレッドゴーレムはドリスを見て彼女に襲い掛かろうと両腕を伸ばす。
「ゴオオオッ!!」
迫りくるレッドゴーレムに対してドリスはランスを構えると、彼女はこの時に両手でしっかりとランスを握りしめ、そして自分が得意とする火属性の魔力を送り込む。すると、ランスが光り輝き、高熱が走る。
ランスに火属性の魔力が送り込まれた瞬間、柄の部分に嵌め込まれた火属性の魔石が輝き、柄から火属性の魔力が解放して火炎を生み出す。まるでロケット噴射の如く炎が放たれると、ドリスは駆け出してレッドゴーレムに向けてランスを繰り出す。
「爆槍!!」
「ゴガァアアアッ!?」
『うわぁっ!?』
火炎を後方に放ちながら加速したドリスはレッドゴーレムにランスを激突させると、あまりの威力にレッドは木っ端みじんに砕け散り、この際に体内に埋め込まれていた経験石も破壊される。
経験石を失ったレッドゴーレムは今度こそ再生も出来ず、完全にくたばったのか動かなくなった。その様子を確認したドリスはランスを振り払い、勝利の笑みを浮かべた。
「火属性の魔力を吸収できるといっても……私の攻撃を防ぐ事はできないようですわね」
「何という魔槍じゃ……まさか、武器に魔力を宿すのではなく、柄から魔力を放つとは」
ハマーンもドリスの魔槍を見て驚きを隠せず、大抵の魔剣や魔槍は武器に魔力を帯びるのが普通だが、ドリスの真紅は火属性の魔力を外部に放出する事で突きの威力を上昇させる魔槍だと知って動揺を隠せない。
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