第343話 雷の斧

(凄い威力だ……旋斧でも傷つけられなかったのに)



刺剣がトロールの腹を貫いた光景を見てナイは驚き、改めて強化された刺剣の威力を思い知る。この威力ならば下手をしたら赤毛熊やミノタウロスのような魔物であろうと急所を貫けば倒せるかもしれない。


だが、今は呆けている場合ではなく、腹を負傷して苦しんでいるトロールに追撃を仕掛ける絶好の好機だった。ナイは血を流している箇所に視線を向け、まだ刺剣が突き刺さっている事を見越し、旋斧を握りしめて動き出す。



「うおおおおっ!!」

「フガァッ!?」



ナイはトロールに接近すると、この際に魔法腕輪に装着した雷属性の魔石から魔力を引き出し、旋斧に電流を流し込む。その光景を確認したトロールは危機を察し、咄嗟にナイを近づけさせまいと右足を繰り出す。



「フゴォオオッ!!」

「……そこだっ!!」



しかし、自分に対して右足を繰り出してきたトロールに対してナイは最後に残された刺剣を取り出すと、先ほど旋斧で攻撃したトロールの左足の脛に向けて放つ。


今回は刺剣に取り付けた風属性の魔石を使用せず、通常の状態で投擲を行う。普通ならばこの程度の攻撃などトロールには通じないだろうが、先ほど旋斧に叩き込まれた際にトロールの左足の脛には僅かに痕が残っている。



(あそこを狙えばっ……!!)



ナイは繰り出された右足を躱しながら「迎撃」の技能を発動させ、刺剣を放つ。片手は旋斧を握りしめているので反対の腕を利用して投げ込み、放たれた刺剣は左足に的中した瞬間、トロールは眉をしかめる。



「フギャッ!?」

「ここだぁあああっ!!」



痣が残った箇所に刺剣が的中し、最初に損傷を受けていた箇所に更に攻撃を加えられた事でトロールは軽く悲鳴を上げ、体勢を崩してしまう。もしも怪我をしていない箇所に刺剣を突き刺しても何の効果もなかっただろうが、右足を突き出した状態で痛めた左足に痛みが走れば当然だがバランスを保てずに身体が倒れる。


トロールが体勢を崩した瞬間、ナイは旋斧を両手で構えて全力で振り切る。この際にナイが狙った箇所は二本目の刺剣が腹部に突き刺さった箇所であり、そこに目掛けて旋斧を放つ。



「やあああっ!!」

「アギャアアアアッ!?」

『うわぁっ!?』



トロールの奇怪な悲鳴が響き渡り、傷口越しに刃が突き刺さった瞬間に体内に高圧電流が流し込まれ、全身が黒焦げと化す。


しばらくの間は電流がトロールを襲ったが、やがてナイが旋斧を引き抜くと、トロールは全身から黒煙を舞い上げながら倒れ込み、身体を痙攣させる。その様子を見てナイはため息を吐き出し、その様子を見ていた観衆は唖然とした。



『えっ……ト、トロールが黒焦げになっています!!い、今のはまさか……魔法剣!?クロノ選手は魔法剣の使い手だった!?』

「う、嘘だろ!?魔法剣だと……」

「や、やった!!勝った、クロノの勝ちだ!!大儲けだぜ!!」

「クロノ!!クロノ!!ク・ロ・ノ!!」



トロールが倒された光景を見てやっと理解が追いついた観衆はナイ(クロノ)に対して声援を送り、野次を飛ばしていた観客までも一緒になってナイを褒め称える。


しかし、当のナイ本人はトロールに突き刺さっている刺剣を回収する際、ここで自分が間違いを犯した事に気付く。それは刺剣の刃が黒焦げの状態であり、先ほどの旋斧の攻撃のせいで影響を受けていた。



(……ごめんね、爺ちゃん)



刺剣もアルが残してくれた立派な形見であり、黒焦げと化した二つの刺剣を見てナイは悲し気な表情を浮かべる。だが、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかず、ナイは武器を回収すると自分に声援を送る観衆を見て不思議と高揚感を抱く。



(皆が僕を祝福してくれている……何だろう、この気持ち)



今までこれほどの大人数に祝福された事がないナイは戸惑うが、決して嫌な気分ではなかった。何となくだがナイは腕を上げると、観衆は更に歓声を上げた。



「良い試合だった!!」

「魔法剣なんて初めて見たぜ!!」

「俺、お前の事を応援するからな!!また試合に出てくれよ!!」

『大勝利!!クロノ選手の大勝利です!!』



大勢の人間に褒め称えられながらナイは苦笑いを浮かべ、少し名残惜しいが試合場を後にした。





※短めですが、切りがいいのでここまでにしておきます。

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