第339話 闇属性の魔法剣の威力
「今のうちに早く逃げて!!」
「あ、ああっ……」
「おい、何をしてるんだ!!」
「早く下がれ!!ほら、肩を貸してやるから……」
ナイが救った兵士は他の兵士に担がれて城門の内側まで運び込まれ、その一方で右腕を切り裂かれたホブゴブリンは血を流しながらもナイを睨みつける。
ホブゴブリンは切り裂かれた右腕を見て戸惑いの表情を浮かべ、まさかこんな小柄の人間の子供に自分の右腕が切り裂かれるとは思いもしなかった。その一方でナイはホブゴブリンに旋斧を向けた。
「お前の相手はこっちだ!!」
「グギギッ……!?」
『な、何という事でしょう!?あのゴブリンナイトの右腕を切り裂きました!!クロノ選手、見た目によらず凄い怪力です!!』
「嘘だろ、おい……」
「す、すげぇっ……あんな小さいのになんて力だ」
旋斧でホブゴブリンの右腕を切り飛ばしたナイを見て観衆は冷や汗を流し、実況の女性に至っては興奮した様子でナイの行動を観察する。
「グギギッ……ギィアッ!!」
「当たるか、そんなの」
ホブゴブリンは切り裂かれた右腕を抑えた状態で右足を突き出し、前蹴りを繰り出そうとした。だが、事前にナイは観察眼の技能でホブゴブリンの様子を先読みし、攻撃を避けるのと同時に「迎撃」を発動させ、反撃に移った。
(ここだ!!)
迎撃を発動させた状態でナイは旋斧を振りかざし、ホブゴブリンの懐に潜り込むと胴体の部分に全力の一撃を叩き込む。この際にナイは全身の筋力を生かして刃を叩き込む。
「だああっ!!」
「アギャアッ!?」
『ふ、吹っ飛んだ!?クロノ選手の一撃でゴブリンナイトが倒れました!!』
テン仕込みの全身の筋力を使用した一撃を受けたゴブリンナイトは吹き飛び、まるで巨人族に殴り込まれたかのように地面に派手に転がり込む。
ナイが旋斧を撃ち込んだ箇所は亀裂が走り、鎧が砕けてしまう。ゴブリンナイトが身に着けていた鎧はあくまでも鋼鉄製であり、魔法金属で構成されているナイの旋斧には硬度が劣っていたために呆気なく破壊されてしまう。
「グギィッ……!?」
「これで終わりだ……あっ、しまった」
『おっと!?何故かクロノ選手、攻撃を止めました!!疲れたのでしょうか?』
いつも通りの戦法でゴブリンナイトを倒そうとしたナイであったが、今回の試合はあくまでも魔法剣の実戦経験を積むためであり、ただ倒すのでは意味がない事を思い出す。
(そうだった、普通に倒したら駄目だと言われてたっけ……危なかった)
止めを刺す前にアルトに言われた事を思い出したナイは旋斧を改めて構え直し、意識を集中させる。この際にナイは身に着けている魔法腕輪に意識を集中させ、魔石の魔力を旋斧に送り込む。
(大型ゴーレムとの戦闘では水属性の魔法剣が要になると言われたけど、水属性の魔石に拘らずに必要に応じて魔法剣を使い分けてもいいとアルトが言ってたし……この際にあの魔石の魔法剣を試すか)
ナイは魔法腕輪に嵌め込まれている「闇属性の魔石」に視線を向け、この魔石から引き出した闇属性の魔法剣だけは実験でも試し切りしていない。実験を行った時はあまりにも不気味な魔力を感じ取り、下手に扱うとまずい気がしたからだった。
旋斧の刃に闇属性の魔力が送り込まれると、元々黒の塗料で塗りつぶしていたため、表面上の変化はあまりない。だが、刃から黒煙を想像させる魔力が滲み出し、それを見たナイは冷や汗を流す。
(やるしかない!!)
闇属性の魔力を滲ませたナイはゴブリンナイトに目掛けて突っ込み、刃を振りかざす。それを見たゴブリンナイトは咄嗟に身を防ごうと左腕を構えるが、ナイの怪力の前では腕で防いだところで攻撃は止められない。
「はぁあああっ!!」
「グギャアアアッ!?」
ナイの旋斧が左腕に衝突した瞬間、ゴブリンナイトの腕は切り裂かれ、刃は胴体にめり込んだ。その結果、ゴブリンナイトの肉体に闇属性の魔力が流れ込み、直後にゴブリンナイトは苦悶の表情を浮かべる。
刃がめり込んだ箇所からゴブリンナイトの身体が黒く染まり、まるで猛毒でも流し込まれたかのようにゴブリンナイトは苦痛の表情を浮かべ、身体を震わせながら倒れ込む。その様子を見たナイは慌てて刃を引き抜くと、そこには絶命したゴブリンナイトの死骸が残っていた。
『き、決まったぁっ!!勝者、クロノ選手です!!』
『うおおおおおっ!!』
ゴブリンナイトが動かなくなったのを確認して実況のバニーガールは勝利を宣言すると、観客は沸き上がる。まさかナイがここまで強いとは誰も想像せず、しかも他の選手を3人を倒したゴブリンナイトを圧倒的な強さで屠ったナイに割れんばかりの拍手を行う。
「…………」
だが、ナイ自身は気づいていた。ゴブリンナイトが死んだ本当の理由は怪我が原因ではなく、闇属性の魔力を帯びた攻撃を受けた瞬間、まるで生命力が奪われるかのようにゴブリンナイトが死んだ事を――
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