第338話 特別試合 《ゴブリンナイト》
『クロノ選手の入場です!!おや、見た限りでは随分と若そうですね。体型も小柄ですし、身に着けている武器は……何でしょうかあれは?斧?剣?』
ナイは試合場に出場すると女性の戸惑った声が響き、この時にナイは観客席を見渡すと最前列の席に座る兎耳を生やした女性を発見した。年齢は10代後半だと思われ、バニーガールのような格好をしていた。
兎型の獣人族らしく、中々に可愛らしい見た目をしている。しかし、ナイが気になったのは女性の容姿よりも彼女が身に着けている筒状の魔道具であり、どうやら女性の声は試合場の周囲に立っている柱から聞こえている事に気付く。
(あの筒みたいな魔道具に話しかけると、柱の上に嵌め込まれている水晶玉から声が響くのかな?)
試合場の周囲に建てられている柱はどうやら女性の声を試合場に流すために建てられた魔道具らしく、この魔道具も工場区の鍛冶師が作り出した物だと考えられた。魔道具も色々な種類がある事にナイは感心していると、ここで観客席が騒ぎ出す。
「おい、まだガキじゃねえか!!」
「本当に戦えるのか?」
「坊主、逃げるなら今の内だぞ!!」
ナイを見た観客の大半は彼の姿を見てまだ成人年齢にも達しているかどうか怪しい若者だと判断し、落胆したような声を上げる。野次を飛ばす観客も多いが、ナイは緊張を解すために旋斧を握りしめて素振りを行う。
(落ち着くんだ、いつも通りに戦えばいい)
旋斧で素振りを行う事にナイは心が落ち着かせ、対戦相手が訪れるのを待つ。アルトの話によればナイが戦うのは大型の魔物のはずだが、まだ姿は見えない。
『それではクロノ選手の対戦相手の入場です!!皆様、心の準備は良いですね?それでは……開門!!』
「よし、開け!!」
「油断するなよ!!」
「ほら、早く運び出せ!!」
実況のバニーガールの女性の声に反応して試合場の城門が開け放たれ、最初に出てきたのは大勢の兵士達だった。彼等は全員が鎖を握りしめており、引っ張り出す。
十数名の兵士が鎖で引き寄せてきたのは全身に鎧を見に纏ったナイもよく見覚えがある魔物であり、全身を鎖で拘束された「ホブゴブリン」が出現した。
「グギィイイイッ!!」
「うわっ!?くそ、何て力だ!!」
「馬鹿野郎、気を抜くな!!少しでも力を緩めれば殺されるぞ!!」
『おおっと!?あれは3人の選手を現役冒険者を重傷に追い込んだゴブリンナイトです!!まさかまだ始末されていなかったなんて驚きです!!』
「ゴブリン……ナイト?」
実況を聞いたナイは鎧を身に付けたホブゴブリンに視線を向け、以前に遭遇したホブゴブリンも冒険者から奪った装備を身に着けている個体もいたが、試合場に現れたホブゴブリンの装備は明らかに違った。
通常種のゴブリンと比べてもホブゴブリンは体型が大きく、人間の成人男性と比べても大きい個体が多い。だからこそ人間用の装備だと身に着けてたとしてもサイズが小さくて窮屈に感じるが、ナイの前に現れたホブゴブリンは体長は2メートル近くは存在するのに身に着けている鎧はまるでホブゴブリンの体型に合わせたかの様に違和感はない。
恐らくはこのホブゴブリンの装備は最初からホブゴブリンが身に着けることを前提に作り出された物だと思われ、しかも新品同然のように磨かれた状態だった。それを見たナイはこの闘技場では魔物を飼育している事を思い出し、このホブゴブリンは試合の選手と戦うために育てられた魔物だと知る。
「グギィッ、グギィイイッ!!」
「うわっ!?くそ、やばい……もうこれ以上は押されきれないぞ!?」
「三日も餌を与えてないのに何て力だ……うわぁっ!?」
ホブゴブリンは全身を拘束する鎖を今にも引きちぎらない勢いであり、腕力の方も野生のホブゴブリンとは比べ物にならない。やがて兵士達の力ではホブゴブリンは抑えきる事が出来ず、ホブゴブリンは遂に鎖を引きちぎって雄叫びを放つ。
――グギィイイイッ!!
ホブゴブリンの咆哮が闘技場内に響くと、その声を聴いただけで観客は震え上がり、兵士達さえも動けなかった。鎖の拘束を振り払ったホブゴブリンは血走った目を向けると、真っ先に兵士に襲い掛かろうとした。
「グギャアッ!!」
「ひいいっ!?た、助けっ……!?」
迫りくるホブゴブリンに対して兵士達は逃げようとするが、腰を抜かしたのか一人の兵士が転んでしまう。その兵士に対してホブゴブリンは腕を伸ばした瞬間、黒い影がホブゴブリンに接近する。
「だああっ!!」
「グギャアアアッ!?」
「えっ……!?」
兵士を救ったのは旋斧を抱えたナイであり、彼は魔法剣も発動させず、兵士を捕まえようとしたホブゴブリンの右腕を切り裂く。腕手甲を身に付けた状態にも関わらず、ナイはホブゴブリンの右腕を旋斧で叩き斬った。
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