閑話 〈火山の主〉

――グマグ火山から撤退したマホはエルマと共に再調査の準備を整え、再び山頂へ向かおうとした。だが、マホ達が発見した横穴は崩れ去り、出入口が閉じてしまった。



「老師、穴が塞がっています。これでは内部に入る事は……」

「落ち着け、まずは火口を目指そう」

「火口、ですか?しかし、この熱量では……」



山頂に近付く程に熱が増しており、マホとエルマの装備ではこれ以上の熱量には耐え切れなかった。しかし、それを承知の上でマホは火口へ向かう事を告げる。



「あの怪物の正体を確かめなければならん……それに怪物が穴の中を掘り進んでいた理由、儂の勘が正しければ奴の狙いは火属性の魔石じゃ」

「魔石、ですか?」

「火山などの熱帯地帯では良質な火属性の魔石が採れる事はお主も知っておるな?そして先ほど穴を掘り進めていた謎のは地中に埋もれている魔石を喰らっておった」

「魔石を……?」



マホが風魔法で横穴の内部を探索した時、彼女は地中の中に埋もれている魔石を掘り起こし、それを巨人が貪る姿を確認した。実際に目で見たわけではないが、彼女の優れた探知能力によって巨人は確かに魔石を喰らっている様子を確認した。


巨人の目的が火属性の良質な魔石を得る事ならば熱量が蓄積される火口付近ならば更に上質な魔石を取りやすい。だからこそ火竜は火属性の魔石が生まれやすい火山を住処にしているのだが、もしも巨人が火竜のように火属性の魔石を餌とする存在ならば火口に向かうはずだった。



「マホよ、これから儂は飛行魔法を使用するぞ」

「飛行魔法を!?それはいけません、また倒れられますよ!!」

「一刻も争う事態かもしれん。お主も覚悟を決めろ!!」



マホの言葉にエルマは反対するが、普段のマホからは考えられない強い口調で怒鳴り付けて黙らせる。マホは無理を承知の上で飛行魔法を発動させようとした。




――飛行魔法とは風属性の魔法の中でも上級に位置する高難易度の魔法であり、少し前にマホが上空に浮き上がった「浮上レビテーション」の魔法も飛行魔法の一種である。


本来の飛行魔法はまずは「浮上」で上空に浮き上がった後、続けて風の魔力を発散させて移動を行う「風圧加速ジェット」で移動を行う。この風圧加速は大量の魔力を消費するため、熟練の魔術師でも力加減を誤れば大変な事態を引き起こす。




マホは後ろからエルマに抱きつかせると、彼女は意識を集中して自分とエルマの周りに風の魔力を纏う。この状態から浮上レビテーションの魔法を発動させ、一気に上空へ上昇した。



「よし、行くぞエルマよ……しっかりと儂に掴まっておれ」

「は、はい!!」

風圧加速ジェット!!」



エルマを自分に抱きつかせると、マホは一方向に風の魔力を集中させ、凄まじい速度で移動を行う。マホとエルマは風の膜のような物に覆われ、そのまま火山の上空へと向かう。


火口付近は中腹や麓と比べても圧倒的な熱量が籠っているが、風の膜によって熱は遮断され、二人が高熱に苦しむ事はない。そして火口の上空に辿り着いたマホとエルマは驚くべき光景を目にしていた。



「何じゃ、あれは……!?」

「ま、まさか……!?」





――オァアアアアッ!!





火口に存在したのは全長が30メートル近くは存在する巨大な岩石であり、その岩石は人型で目元の部分は赤く光らせていた。岩石の巨人は火口の岩壁を掘り起こし、赤色に光り輝く鉱石を口元に含んでいた。


岩石の巨人を確認したマホとエルマは汗を流し、この汗の正体は決して火口による熱の影響ではない。岩石の巨人は口元に火属性の魔石の原石を含み、しばらくすると吐き出す。


吐き出された鉱石は色を失い、砕けた水晶のようにマグマの中に落ちていく。どうやら岩石の巨人は魔石の魔力を吸い上げているらしく、魔力が消失した鉱石は吐き出していた。



(馬鹿な……あれは、ゴーレムか!?)



マホは岩石の巨人の正体が「ゴーレム」と呼ばれる魔物だと判断するが、少なくともマホが知る限りでは通常種のゴーレムは体長はせいぜいが3~4メートルであるのに対し、彼女が視界にとらえたゴーレムはその10倍近くの大きさを誇る。


通常種のゴーレムは山岳地帯に生息する魔物だが、火山のような場所には滅多に住み着かない。有り得ない大きさの巨大ゴーレムを発見したマホは嫌な予感を覚え、エルマに告げた。



「エルマ、このまま王都へ引き返すぞ」

「老師!?ですが、それでは老師の身体が……」

「儂が倒れてもお主の意識があれば十分じゃ……行くぞ!!」



エルマの返事も着かえずにマホは飛行魔法で移動を行い、王都へと向かう。飛行魔法は肉体の負担が大きいが、今は自分の身体の事よりも王都に存在する国王に彼女は巨大ゴーレムの存在を知らせる必要があった――

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