第316話 岩石剣

「ああ、構わない。壊しても僕が責任を取ろう」

「分かった、なら全力で行く」

「ちょっ……!?」



ミイナはアルトの言葉を聞いて頷くと、如意斧を横向きに構える。その様子を見ていた他の者達は慌てて引き下がると、彼女は斧を振り回し始める。


回転する事に遠心力が発生して速度と威力が上昇し、十分に加速したと思われるとミイナはナイが構えている岩石剣に向けて刃を放つ。それに対してナイは岩石剣を地面に突き刺した状態で受けた。



「にゃあっ」

「くうっ!?」

「た、耐えた!?あの一撃を……!?」



遠心力も加わって放たれたミイナの一撃をナイは岩石剣で受け止めるが、結果からいえば如意斧を以てしても岩石剣を破壊するには至らず、それどころか掠り傷すら付けられなかった。


ミイナの腕力ならば本物の岩石であろうと破壊する事は出来るが、岩石剣を構成している岩石は普通の岩石ではないらしく、それを見たアルトは納得したように頷く。



「ミイナの力でも壊れるどころか掠り傷一つもないなんて……もしかしたらこれは魔剣の一種かもしれない」

「ええっ!?これ、魔剣なんですか?」

「そう考えなければミイナの一撃を受けて壊れないはずがない。だが、今の所は異常に硬い武器という感じにしか思えないな……」

「テン指導官に直接聞かれた方が良いのではないですか?」



リンの言葉を聞いてアルトは頷き、確かに訓練の際にこの大剣を使用するテンならば何か知っている可能性はある。後で彼女に話を聞く事を決め、ナイはリーナとの試合の前に大剣に慣れるために練習を行う必要があった。



「よし、誰か相手をしてくれない?この剣の重さに慣れておきたいし……」

「そういう事なら私が……」

「いや、ここは我々が相手をしよう」

「えっ!?」



ナイの言葉を聞いてミイナが名乗り上げようとしたが、ここでリンが口を挟む。彼女は同じ王国騎士とはいえ、リノ王子の配下である。そんな彼女がどうしてナイの協力を申し込むのかと驚かれるが、リンは部下達に振り返った。



「丁度こちらも練習相手を探していたんだ。お前達、相手をしてやれ」

「えっ!?我々が、ですか?」

「ああ、それで構わないですか?アルト王子?」

「ナイ君が問題ないなら僕は文句はないよ」

「はあっ……じゃあ、お願いしてもいいですか?」



リンの言葉を聞いてアルトはナイに確認すると、ナイとしてはヒイロとミイナ以外の王国騎士と戦う機会は今までなかったため、この際に他の騎士団の王国騎士がどれほどの実力を確かめたいと思っていた。


銀狼騎士団の団員達はナイを見て冷や汗を流し、彼の実力は既に知れ渡っている。あのガーゴイル亜種やミノタウロスを打ち倒し、更には腕相撲とはいえアッシュ公爵に勝利する程の男だと噂は広がっており、決して油断できぬ相手である。



「で、では私から参りましょう」

「よろしくお願いします」

「よし、では試合はあそこで行おう。あっちの方が見やすいだろうしね」



訓練場に存在する闘技台をアルトは指差すと、全員が闘技台へ向かい、そしてナイと銀狼騎士団の団員が闘技台の上へあがり込む。ちなみに銀狼騎士団の団員は女性の騎士だけで構成されている。


どうして女性の騎士のみで構成されているのかは不明だが、巷の噂では彼女達の何人かは銀狼騎士団の団長であるリノと深い関係だと言われている。最もあくまでも噂にしか過ぎず、真相は不明だった。



「試合形式はどうした方が良い?相手に有効打を与えた方の勝利でいいかい?」

「分かりました。二人とも、聞いていたな?言っておくが訓練とはいえ、互いに本気で戦うのだぞ」

「は、はい!!」

「了解しました!!」



ナイと女性の騎士は向かい合うと、ここでナイは様子を観察し、どのように仕掛けるのかを考える。相手は仮にも王国騎士であり、油断はできない。



(ヒイロやミイナでも王国騎士見習いという事はこの人はもっと強いかも……武器は魔道具じゃないみたいけど、気を付けないと)



ヒイロとミイナの実力を知っているだけにナイは慎重に動き、相手の出方を伺う。だが、何故か女性の騎士は緊張した様子で自分からは仕掛けようとしない。



(あれ?この人……いや、油断したら駄目だ)



自分を見て警戒する女性の騎士を見てナイは疑問を抱くが、余計な考えを捨ててナイは先に仕掛ける事にした。



「はああっ!!」

「くぅっ!?」



一気に踏み込むとナイは岩石剣を振りかざし、この際にテンに教わった全身の筋力を生かした一撃を放つ。腕だけの力で振るのではなく、全身の筋力を稼働して岩石剣を振り抜く。


ナイの全力で放たれた岩石剣に対して女性の騎士は咄嗟に剣と盾を重ねて受け止めようとしたが、ナイの全力の一撃を受けた瞬間に吹っ飛び、闘技台から落ちてしまう。



「きゃああああっ!?」

「えっ……!?」

「しまった、ナイ君やり過ぎだぞ!?」

「大丈夫か!?」



吹き飛んだ女性の騎士を見てナイは唖然とするが、慌てて闘技台の下に存在した者達が女性の騎士の介抱を行う。彼女は吹き飛ばされた拍子で気絶したらしく、その様子を見ていたリンは驚愕した。

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