第302話 剛力の剣士VS剛腕の剣士
「まあ、それはともかく丁度良かったよ。そろそろあんたに稽古を付けてやろうと思っていたからね」
「え?稽古?」
「あんたも一人で鍛錬するよりは誰か練習相手がいた方が良いと思ってた所じゃないかい?あたしも身体が鈍っていたからね、お互いに丁度いい練習相手じゃないか」
「ええっ……」
「クゥ〜ンッ(自分が戦いたいだけじゃない?)」
ナイの練習相手を名乗り上げたテンにビャクは呆れた表情を浮かべるが、彼女の言葉にも一理あり、新しく身に付けた戦法をナイも試したいと思った。
テンは今は宿屋の主人ではあるが、元々はこの国の最強の女騎士団の副団長を務めていた人物でもある。彼女ならばナイも本気で戦えると判断し、お互いに向かい合う。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「ああ、遠慮はいらないよ。全力で掛かってきな!!」
「ウォンッ……」
ビャクは二人から少し離れた場所で様子を観察すると、最初にナイはテンに向けて旋斧を構えると、身体を回転させながら強烈な一撃を叩き込む。
「円斧!!」
「くぅと!?」
剛力を発動させた状態でナイは旋斧を振り払うと、その攻撃に対してテンは退魔刀で受け止め、彼女の身体が後退る。まるで巨人族の攻撃を受けたかのようにテンの身体に衝撃が走るが、彼女は笑みを浮かべた。
「中々やるじゃないかい、ここまでの力を持つ相手は久しぶりだね……なら、今度はこっちの番だ!!」
「くっ……うわぁっ!?」
ナイに向けてテンは踏み込むと退魔刀を振り下ろし、その攻撃をナイは咄嗟に受け止めようとしたが、激しい金属音が屋敷に響き渡る。
想像以上のテンの攻撃の重さにナイは受け止めるのが精いっぱいであり、彼の足元の地面に罅割れが発生した。信じられない事にテンの攻撃は赤毛熊級の破壊力を誇り、更に彼女は足を繰り出す。
「うおらぁっ!!」
「ぐふっ!?」
「ウォンッ!?」
蹴り飛ばされたナイは派手に吹き飛び、その様子を見てビャクが心配そうに声を上げるが、テンは吹き飛んだナイに対して堂々と言い放つ。
「剣士だからって剣だけを扱うわけじゃないんだよ!!こういう状況では体術を組み合わせる方が有効的なんだ!!あんたもそこいら辺はしっかりと覚えておきな!!」
「くっ……なら、こっちも遠慮しませんよ!!
「うあっ!?」
「キャインッ!?」
テンに対してナイは掌から光球を生み出し、閃光の如く強烈な光を放つ。聖属性の魔力で作り出した光球を利用してナイはテンの視界を奪うと、今度は全力の一撃を叩き込む。
「だああっ!!」
「ぐうっ……!?」
閃光によってテンとビャクは視界を一時的に奪われ、その隙にナイは旋斧を振りかざしてテンに叩き込む。視界を封じられながらも足音だけでナイが接近している事に気付いたテンは退魔刀を振りかざして受け止める。
鍔迫り合いの状態に陥ったナイとテンはお互いに力を込め、押し込む。信じがたい事にナイは剛力を発動させて腕力を強化しているのにテンも負けずに押し返し、二人は膠着状態へと陥った。
「はっ、今のは驚かされたよ……そういえばあんた、魔法も使えたんだね」
「ぐぐっ……!?」
お互いに刃を押し込みながらもテンの方は話す余裕があり、一方でナイの方は全力で押し込んでいるのにテンをあとずらせる事も出来ない事に戸惑う。ここまでの力を持つ人間と対峙した事は一度もなく、冷や汗を流す。
(なんて力だ……これがテンさんの実力!?待てよ、そういえば……テンさんも魔操術が使えるんだ!!)
ナイはここでテンが昔は王国騎士で合った事を思い出し、彼女も魔操術を習得しているという話を思い出す。王国騎士の殆どはナイと同様に魔操術を身に付けており、彼女も魔力を利用して肉体を強化する術を身に付けている。
魔装術を利用すれば剛力のように筋力を強化する事が出来るため、テンは魔操術を使用して肉体に無理が掛からない程度に強化しているのだ。だからこそ剛力を発動させたナイと渡り合い、彼女は渾身の力を込めて押し返す。
「そらぁっ!!」
「うわっ!?」
「ウォンッ!?」
ナイは遂にテンの力によって押し返され、再び後ろに吹き飛ぶ。その様子を見てビャクは驚いた声を上げるが、今度はテンの方が退魔刀を繰り出してナイに叩き込む。
「これでお終いだよ!!」
「くっ……がはぁっ!?」
体勢を崩している状態でナイはテンが振り下ろした刃を受け止めようとしたが、踏ん張り切れずに地面に叩きつけられる。テンが振り下ろした退魔刀を旋斧で受け止める形でナイは地面に背中を預ける形になった。
「降参するかい!?」
「まだまだ……!!」
「その根性は買うけどね、この状態で逆転なんて出来ると思ってるのかい!?」
「ぐううっ……!?」
「ウォオンッ!!」
ナイは地面に押し付けられる状態で必死に力を込めるが、膂力はテンの方が僅かに勝り、しかもこの体勢では力が入らない。ビャクが彼を鼓舞するように鳴き声を上げるが、その声を聞きつけたのか建物の方から他の人間達がやってきた。
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