第291話 重力の刃

「凄い……凍り付いた」

「これは……中々に強力だね、触れただけで凍り付くなんて」

「こ、こんな物を直に受けたら人間なんてひとたまりもありませんね……」

「氷が欲しい時に便利そうだけど……あ、もう溶けた」



凍り付いた鎧人形は10秒ほどで溶けてしまい、同時にナイの旋斧も色が元に戻ると冷気も消えてしまう。魔法で作り出した炎や氷は長時間は維持できず、魔力が尽きてしまうと自然と消えてしまう。


これで5つの属性の確認を終え、残されたのは雷属性と地属性だった。アルトは新しい魔石を取り出すが、ここで彼は悩んだように地属性の魔石を渡す。



「雷属性の魔石を破壊すると被害が大きそうだからね、先に地属性の魔石で試してみよう」

「分かった……地属性か」

「何か気になるの?」

「いや、地属性自体があんまり聞いた事がなくて……」



地属性の魔法に関してはナイも殆ど聞いた事がなく、噂によると地属性の魔法を使用すれば大地を操る事が出来ると聞いていた。しかし、大地を操るというのがいまいちよく分からない。



「地属性の魔法で有名なのは土壁アースウォールだろうね。大地に魔力を送り込み、土砂を盛り上げて壁を作り出すんだ」

「へえっ……なら、僕も土を操れるのかな?」

「それは試してみないと分からない。それに僕の見解だが地属性の魔法の本質は……いや、これは後で説明するよ」

「え?うん、分かった……」



ナイはアルトの言葉に疑問を抱くが、とりあえずは地属性の魔石を魔道具に嵌め込み、破壊する準備を行う。但し、この時にアルトは注意する。



「ナイ君、地属性の魔石が壊れる場合は衝撃波のような物を生み出す。少し離れた場所でしっかりと剣を構えていた方が良いよ」

「衝撃波……?」



魔石が壊れると衝撃波を生み出すという事にナイは疑問を抱き、風属性の魔石ならばともかく、どうして地面を操る地属性の魔石が衝撃波を生み出すのかと思いながらも剣を構えた。


しばらくすると左右から圧力を加えられた地属性の魔石に亀裂が走り、通常なら罅割れから魔力が噴き出すはずである。だが、亀裂から発生したのはアルトの言う通りに衝撃波であり、ナイは危うく旋斧ごと吹き飛ばされそうになった。



「くっ!?」

「ナイ!?」

「ナイさん!?」

「大丈夫かい!?」



ナイは事前に衝撃波に供えて旋斧を構えていたが、予想以上に衝撃に身体が数歩ほど後退ってしまう。それでも耐え切る事に成功すると、旋斧に刃に変化が起きていた。



「くぅっ……何だ、これ!?」

「紅色の……刃?」

「凄い圧を感じる……!!」

「これは……!?」



旋斧に全員が視線を向けると、紅色の刃と化していた。火属性の魔力を吸い上げた時とは色合いが微妙に異なり、威圧感を感じさせる。


自分の武器の変化にナイは戸惑いながらも、試しに素振りを行う。特に変化が起きた様には見えないが、先ほど氷漬けにした鎧人形に視線を向けた。



「……とりあえず、試し切りしてみるね」

「あ、ああ……気を付けてくれ」

「何だかどきどきします……」

「離れていた方が良いかもしれない」



ナイは鎧人形に向けて近寄ると、他の者達は今まで以上に距離を取り、様子を伺う。ナイは旋斧を構えると、力を加減して旋斧を振り下ろす。



(ここは軽めに……)



何となくではあるがこの状態の旋斧を全力で振り回すのは危険だと判断したナイは手加減して刃を振り下ろす。だが、それほど力を加えていないにも関わらずに旋斧の刃が鎧人形に叩き込まれる瞬間、まるで刃の周囲に見えないもう一つの刃があるように鎧人形は



「何だ!?」

「これは……!?」



旋斧を振り下ろした瞬間にまるで見えない力に押し潰されたかのように鎧人形は砕け散り、叩き斬ったというよりはまるで超重量の物体に押し潰されたように跡形もなく砕け散る。その様子を見てナイは焦りを抱き、一方でアルトは即座に駆け出す。


彼は破壊された鎧人形を見て焦りを抱き、一方でナイの方も旋斧を見て戸惑いを隠せない。ナイ自身は鎧人形を斬るつもりだったのにまるで押し潰す様に鎧人形が壊れた事に動揺を隠せない。



「いったい何が……」

「なるほど、やはりそういう事だったのか……ナイ君、どうやらその剣は途轍もない力を宿したようだよ」

「途轍もない力?」

「それはどういう意味ですか!?」

「……こんな壊れ方、普通ならあり得ない」



全員が無残に破壊された鎧人形に視線を向け、まるで巨大な鉄槌に押し潰された様に破壊されていた。それを確認したアルトはナイの旋斧にどのような変化が起きたのかを推察する。



「恐らくだが、ナイ君が持っている剣は刃の周囲に重力を発しているんだ」

「じゅう、りょく……?」

「な、何ですかそれは?」



重力という単語にナイ達は首を傾げ、彼等は重力の存在を知らなかった。説明を行うアルトもどのように話すべきか悩み、彼自身も文献で見ただけで重力の存在は完璧には把握していない。

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