閑話 〈第二王子リノ〉

――第二王子であるリノは半年前に国王からの命令を受け、ゴブリンキングの調査のために王都を去った。最近は魔物が急激の増加しており、特にゴブリン種による被害が多発していた。


国の学者はゴブリンキングの復活の予兆だと判断し、早急に調査を行い、ゴブリンキングの存在を確認する必要があると報告を行う。この報告に対して国王は第二王子のリノが率いる銀狼騎士団に調査を命じる。


銀狼騎士団の副団長であるリンは王都へ残り、団長であるリノとは別行動を取っているのは理由がある。それは王都にリンが残る事で彼女と連絡を取り合い、時には役目の交代を行う。


実際の所、銀狼騎士団の副団長であるリンの方が団長であるリノよりも実力は高く評価され、彼女は黒狼騎士団の副団長であるドリスと共に「王国の双璧」という異名を持っている。本人たちはこの異名はあまり気に行っていないが、国内においても実力者として名が通っている。


この国の大将軍を務めるのは「ロラン」という男性であり、国王の直属の騎士団の団長を兼任している。しかし、現在の彼は国境の警備を任され、王都から離れていた。そのために緊急事態に備えて王都にはリンとドリスが待機しなければならない。


半年前にリノはナイが世話になっていたイチノという街に辿り着き、ゴブリンキングの調査を行う。しかし、調査の結果はこの街を襲ったのはゴブリンキングではなく、ゴブリンメイジだと判明してここでの調査を打ち切って別の地方へ赴く。



「ふうっ……ここも外れであったか」

「リノ様、本日はもう休まれた方がよろしいです。ここ最近は碌に眠ってもいないではないですか」



とある街の宿屋の一室にてリノは疲れた様子で王国の地図を確認し、自分達がこれまでに訪れた地を確認していた。この半年の間にリノは王国が管理する領地の各地を渡り、ゴブリンキングの情報を集めようとした。だが、結果は芳しくはない。


確かに王国各地ではゴブリン種による被害は多発していたが、肝心のゴブリンキングは発見しておらず、それどころか情報さえも掴めていない。もう王国の領地は殆ど調査したが、この半年の間にゴブリンキングの情報は一つも得られていない。



「やはり、学者の言葉など当てになりません。ゴブリンキングが出現したなどとただの虚言ではないでしょうか?」

「いや……どうだろうな」



リノに同行していた配下の騎士達は半年の間に何も情報が掴めていない事からゴブリンキングなど存在せず、そもそもゴブリンキングなどただの学者の妄言ではないかと疑う者も多い。


しかし、何故かリノはこの半年の間に調査で何の成果も得られていないにも関わらず、ゴブリンキングが存在しないとは思えなかった。ここまで調査したのに何の情報も得られていない事に逆に彼は不審を抱く。



(一度、王都に引き返すべきか……いや、念のためにもう一度あの街を調べてみるか)



リノはかつてゴブリンメイジが魔物の大群を率いて襲い掛かったイチノの街の事を思い出し、彼は王都に引き返す前にもう一度だけあの街に赴く事を決めた。



「明日、イチノへ向けて発つ。それまでの間、ゆっくりと身体を休める様に」

「はっ!!」



騎士達はリノの言葉に従い、どんなに今回の調査に疑念を抱いていようと団長であるリノの命令ならば彼等は従うだけであった――






――だが、この後に彼等の身に恐るべき出来事が起きる事を彼等は知る由もなかった。

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