第256話 買い物
「――ほらほら、ナイ君。今度はあっちの店よ」
「ええっ……まだ買うの?」
「何言ってるの、男の子なんだから弱音を吐かないの。それに次はナイ君の服を選ぶのよ」
「別に服なんて……」
「駄目よ、いつも同じ服だとつまらないでしょ?さあ、行きましょう」
翌日、ナイはヒナに連れられるままに商業区へ訪れたが、最初は彼女の買い物に付き合う事を条件にされたため、荷物持ち役として大量の服を持たせられる。
ヒナは様々な服屋に訪れると色々な服を購入し、それをナイに持たせて次の店へと向かう。途中で何度かナイにも服の着せ替えを行わせ、彼女のセンスで選んだ服をナイは購入させられる。
「ふうっ……満足したわ。ちょっと早いけど、昼食にしましょうか」
「そ、そうだね……」
ナイは両手いっぱいに荷物を抱えながらもヒナの提案に賛成し、朝からずっと彼女の買い物に付き合わされていたのでくたくただった。これならばモモに買い物を頼んだ方がマシだったかもしれないと思いながらも噴水広場へ赴く。
「ここで食べましょうか。テンさんが作ってくれたお弁当もあるし……あ、そういえば昨日はここで襲われたと言ってたわよね」
「うん、ここで急にミノタウロスが目を覚まして暴れ出したんだよ」
噴水広場は昨日もナイが訪れた場所であり、商業区と一般区の中間の地点に存在する。この時にナイは初めて気づいたが、この場所では二人組の男女が多い事に気付く。
「……そういえばナイ君、どうしてここを待ち合わせ場所に選んだの?」
「え?いや、モモがここで待ち合わせをしたいって言うから……」
「成程、そういう事だったのね……あの子も意外とやるわね、ここは定番のでぇとすぽっとなのよ」
「でぇと……?」
前にもモモが言っていた「でぇと」という単語にナイは首を傾げるが、この場所は恋人同士がよく待ち合わせ場所に利用する場所で有名であり、ヒナはモモがこの場所を指定した理由を悟る。
(モモったら……意外と恋愛では押しが強いのね。あの子、本当にナイ君の事を……)
ヒナはモモとは長い付き合いであり、彼女が本気でナイに好意を抱いている事を知り、少し寂しく思う。だが、親友の恋路を邪魔するつもりはない。
親友としてヒナはナイがモモにどんな思いを抱いているのかを確かめるため、この際に直接本人に問い質すより、それとなく会話の流れで聞いてみる事にした。
「ねえ、ナイ君……モモの事、可愛いと思う?」
「え?それは……普通に可愛いと思うよ」
「普通ね……なら、モモが実は恋人がいると知ったらどう思う?」
「ええっ!?恋人がいるの!?」
「もしもの話よ」
「ああ、何だ……でも、あんなに可愛いなら恋人もいてもおかしくはないと思うけど」
冗談交じりにヒナはモモに恋人がいると伝えるとナイは非常に驚いた様子だが、特にがっかりした様子はない。この事から残念ながらナイはモモの事を異性として意識しておらず、その事にヒナは少し可哀想に思う。
(今の所はナイ君はモモの事を女友達ぐらいにしか思ってない様ね……そういえばナイ君は旅人だとか言っていたけど、どれくらいは王都に滞在するつもりかしら)
ここでヒナは重要な問題がある事に気付き、ナイは旅人なのでもしかしたら王都を発つ日が来るかもしれない。そうなった場合はモモがどれだけ衝撃を受けるのかと思うと、慌ててナイに確かめる。
「そういえばナイ君は旅をしてここへ来たのよね。じゃあ、いつかは王都を離れるの?」
「いや……元々、ここへ辿り着くために旅をしてきたわけだし、しばらくはここに残って仕事でも探そうと思う。だから当分の間はここにいるよ」
「あ、そうなんだ……うん、それなら安心したわ」
当分の間はこの王都に残るというナイの言葉にヒナは安堵するが、次のナイの言葉に更に驚かされた。
「でも、ここで当分の間は暮らすならちゃんと住む場所を探した方が良いと言われてるから、何処か空き家を借りようかと思ってるんだけど……」
「えっ!?言われたって、誰から!?」
「テンさんから……」
ナイは王都で暮らすのならば宿屋に毎日泊まり続けて宿泊料を払うより、空き家を借りて自炊した方がいいとテンから勧められていた。宿屋としてはナイが泊まり続ける方が儲けるが、将来的に考えればお金の節約のために家を借りる方が良いというのはテンなりの老婆心からの忠告であった。
テンはモモの事情を知らないために純粋な善意でそう告げたのだろうが、事情を知っているヒナからすれば余計な事を言ってくれたと思う。しかし、ナイのためを考えると確かに延々と宿に泊まり続けるとなると金銭面にも負担をかけてしまう。
(うちの宿屋は他の宿屋と比べても相場は安い方だけど……空き家を借りれたらそっちの方が安いわね)
宿からナイが出て行くとモモとの接点が無くなる可能性もあるため、ヒナは何としてもナイを引き留めなければならない。しかし、良案が思いつかずに悩んでいると、ここでナイがある事に気付く。
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