第264話 回復魔法の向上
「ぎゃあああっ!?お、俺の足がぁっ……!!」
「全く……試合開始の合図も待たずに仕掛けるからうちのメイドも手加減する暇がなかったのです。誰か、治療をお願いしますわ」
「分かりました」
右足首を抑えて情けなく悲鳴を上げるボウの元にメイドたちが駆け寄り、彼の怪我した箇所の治療を行う。この際にボウは暴れようとしたが、それを見かねた他の傭兵が彼を抑えつける。
「馬鹿、何をしてんだ!!」
「油断しやがって……」
「おい、暴れるな!!誰か抑えつけろ!!」
「ひいいっ……!?」
ボウはあまりの痛みに泣きわめき、その姿を見て招待客の中には彼を失笑する者もいた。その一方でナイはボウに視線を向け、とても彼が赤毛熊を倒せる程の強者には見えない。
最初にボウが赤毛熊の毛皮を着こんでいた時は驚いたが、リンダの攻撃で足首を壊された途端に悲鳴を漏らし、情けなく泣く姿は先ほどまでの威厳は微塵も感じられなかった。
「何だい、ありゃ……あれが有名な傭兵なのかい?」
「……噂はただの噂か」
ボウの噂を耳にしていただけにテンとバッシュも期待していたが、今の彼を見て二人とも落胆を隠せない。ナイの方も自分が戦った「疾風のダン」と同じぐらいに有名な存在だと知ってどれほどの実力者かと思ったが、まさか一撃で敗れるなど思いもしなかった。
恐らくは傭兵仲間と思われる男達がボウを抑えつけようとするが、それに対してボウは右足首の痛みでもがき苦しみ、彼等を振り払う。
「いでぇええっ!?」
「うわっ!?この、暴れるな……!!」
「馬鹿力め……おい、誰か手を貸してくれ」
「たくっ、仕方ないね!!ナイ、ミイナ、手を貸しな!!」
「は、はい!!」
「ええっ……面倒くさい」
暴れて治療も碌にできないボウを見かねて仕方なくテンがナイとミイナを連れて動き出し、彼を抑えつけるのを手伝う。3人とも力があるのでテンはボウの右腕を抑え込み、ミイナは左腕を抑えると、ナイは怪我をしている右足首に近付く。
「動かないでください、今から回復魔法を施しますから」
「おおっ、兄ちゃん回復魔法が使えるのか!?頼む、治してくれ!!」
「申し訳ありません、どうかお願いします」
治療を行おうとしたメイドたちもボウが暴れるので手伝えず、ナイは仕方がないので回復魔法でボウの治療を行おうとした時、ここでボウは抑え付けられていない左足を動かし、ナイに向けて放ってしまう。
「があああっ!?」
「ば、馬鹿!?止めろっ!!」
「逃げろ、坊主!!」
「えっ……」
ナイが治療を行う寸前、左足が彼の元へ向かい、それを見た傭兵達は止める暇もなかった。そしてナイの身体に左足が叩きつけられる寸前、反射的にナイは左腕を伸ばして剛力を発動させる。
「くっ!?」
「うぎゃっ!?」
『っ……!?』
反射的にナイは左手を伸ばしてボウが繰り出した左足を抑えつけると、そのまま驚異的な握力で左足を掴み、抑え込む。その光景を見ていた者達は信じられない表情を浮かべ、一方でボウは左足を抑えつけられて呻き声を上げるが、その間にテンが拳を握りしめてボウの顔面に叩き込む。
「くそ、あんたいい加減にしな!!」
「はぐぅっ!?」
「ちょっ……テンさん、止めを刺してどうするんですか!?」
「馬鹿、気絶させただけだよ!!」
テンは暴れまわるボウを大人しくさせるために彼に向けて拳を叩き込み、その結果は白目を剥いてボウは意識を失う。それを見たヒイロが焦った声を上げるが、気絶しているだけで命は失っていない。
その隙にナイはボウの左足を手放すと回復魔法を発動させ、治療を行う。ナイが扱えるのは回復魔法でも初歩的な物だが、魔操術を習得してからナイは魔力を操る技術は向上し、回復魔法の精度も上がっていた。
(魔力を送り込む量を調整して……これでよし)
回復魔法は他者に聖属性の魔力を送り込み、怪我をした箇所の再生機能を強める事はナイも把握している。特にナイのように聖属性の適正が高い人間の魔法だと効果は極めて高く、しかも巨人族は人間よりも頑強な肉体と再生力を持っている。
回復魔法によって腫れていた左足は急速的に治り、最初から怪我などしていなかったように元に戻る。その光景を確認した他の人間達は驚き、ナイの回復魔法の回復速度は普通ではなかった。
「き、君……これだけの回復魔法、どうやって覚えたんだい?」
「それに回復魔法は陽光教会で儀式を受けないと使えないはずだよな……」
「惜しい……冒険者だったら勧誘できたのに」
回復魔法の使い手は滅多にいないため、ナイが回復魔法を使う場面を見て冒険者達は非常に惜しむ。もしもこれだけの回復魔法を扱える冒険者がいれば絶対に放ってはおかなかった。
その一方で闘技台の上でボウを倒した張本人のリンダは、先ほどナイが巨人族の攻撃を素手で受け止めた事が信じられなかった。しかもナイが止めたのは手よりも力が強い足であり、巨人族の蹴りをまともに受けてそれを食い止めた。それだけで彼がどれほど異常な腕力を持っているのかが伺えた。
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