第245話 守れ

――ミノタウロスは背後に聞こえた声に振り返ると、そこには人間の少女が立っていた。殆どの人間が自分の姿を見た途端に逃げ惑う中、この少女モモとミノタウロスが対峙している少年ナイだけは逃げようとしない事にミノタウロスは戸惑う。


だが、すぐにミノタウロスは少女が現れた瞬間、自分と戦っていた少年が少女の方に意識を集中させた事に気付き、ここである考えを抱く。少年が少女に意識を向けたこの瞬間を逃さず、ミノタウロスは動き出した。


ミノタウロスが狙う相手は今まで戦っていた少年、ではなくて少女の方へ向けて駆け出す。この少女と少年の関係は知らないが、明らかに少年は少女を見た瞬間に動揺した。それを理解した瞬間にミノタウロスは直感で少年の弱点がこの少女だと直感で理解した。



「ブモォオオオッ!?」

「えっ……!?」

「止めろぉおおっ!!」



ミノタウロスが急に振り返って自分の元に駆けつけてくる姿にモモは戸惑い、咄嗟に動く事が出来なかった。即座にナイはミノタウロスを止めようと駆け出すが、距離が離れ過ぎていた。


モモの元にミノタウロスが迫る光景を見てナイは必死に追いつこうとするが、到底間に合わない。だが、ここでモモがミノタウロスに捕まれば命はない。



(助けなきゃっ……!!)



幼い頃に赤毛熊に襲われた時、ナイは養父であるアルを助ける事が出来なかった。赤毛熊に襲われるアルの姿がモモに重なり、彼女を救うためにナイは何としてもミノタウロスに追いつこうとした。



(絶対に……守るんだ!!)



移動の際中もナイは必死に頭を巡らせ、そして左腕に装着しているフックショットに気付き、反射的に左腕を伸ばす。ミノタウロスの腕がモモに迫る寸前、ナイはフックショットを作動させた。


ボーガンから放たれたミスリルの刃がミノタウロスの後頭部に放たれ、狙いがすこしずれてしまったが、首筋の部分に的中した。ミノタウロスは首の裏を刃で貫かれて目を見開き、更にナイは糸を引き寄せるために風の魔石を作動させる。



「うおおおおっ!!」

「フガァッ……!?」

「わあっ!?」



鋼線を手繰り寄せるとミノタウロスの身体が引き寄せられ、その隙にナイは右腕の旋斧を構えると、右腕に力を集中させる。そしてミノタウロスを手繰り寄せた瞬間、旋斧を放つ。



「だああっ!!」

「ブフゥッ――!?」



ミノタウロスの首筋からミスリルの刃が外れた瞬間、ナイは右腕を振りかざして旋斧を放ち、ミノタウロスの首に放つ。その結果、ミノタウロスの首元に旋斧の刃がめり込み、次の瞬間には頭部を切り裂く。


旋斧の刃によってミノタウロスの首は吹き飛び、地面に転がり込む。残された胴体も地面にゆっくりと倒れ込むと、その様子を確認したナイは旋斧を手放し、地面に倒れ込む。



「うっ……」

「ナ、ナイ君!?」



慌ててモモはナイの元に駆けつけると、肉体を魔力で強化させた反動でナイは身体が動かず、モモに抱き起される。この際にモモはナイの顔を自分の胸元に押し付け、涙目を浮かべる。



「ナイ君、しっかりして!!死んじゃ駄目だよぅっ……」

「うっ……く、苦しい……」



ナイはモモの胸元に顔を埋める形となり、正直に言えば気持ちはよかったが今の状態だと苦しさが勝る。しかし、モモはナイを手放す様子はなく、しばらくの間はナイは彼女の胸の感触と息苦しさを味わう事になった――






――その後、駆けつけた警備兵によってナイ達は保護され、ミノタウロスに敗れた冒険者達も運び込まれる。ナイの方は軽い事情聴取を受けた後、すぐに騒動を聞きつけたヒイロとミイナが駆けつけてくれた。



「ナイさん、無事ですか!?」

「大丈夫?生きてる?」

「……どうにか生きてるよ」

「よしよし、すぐに治してあげるからね~」



ヒイロとミイナが駆けつけた時はナイはベンチの上でモモに膝枕され、彼女に身体を摩られていた。はた目から見れば二人がいちゃついている様にしか見えないため、心配して駆けつけてきたヒイロとミイナはジト目を浮かべる。



「……随分と仲が良さそうですね」

「心配して損した……」

「いや、こう見えても本当にきついんだよ……」

「ごめんね、私のせいでこんな事になって……」



モモはナイの身体を摩りながらも少しずつ自分の魔力を送り込み、ナイの治療を行う。モモは回復魔法は扱えないが、他者に魔力を送り込む事で生物の持つ再生機能を活性化させる術を身に付けている。


ナイも魔操術を駆使すれば自分の魔力を消費して肉体の再生機能を強化して身体を直す事は出来るが、直前まで魔力を利用して身体強化した影響で大分魔力を失ってしまった。だからこそモモに魔力を分けて貰って回復を行うが、人目があるので彼女も派手に治療を行う事が出来ず、こうして二人で一緒に過ごしながらも他の人間に気付かれない様に魔力を分けてもらうしかなかった。

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