第243話 フックショット

「ひいいっ!?逃げろぉっ!!」

「け、警備兵は何をしてるんだ!?」

「助けてくれぇっ!!」

「ブフゥウウッ……!!」



冒険者がミノタウロスに倒されると、街の人々は大混乱に陥り、我先にと逃げ出す。その様子を見てミノタウロスは増々興奮したように鼻を鳴らし、騒がしい人間達を始末しようとした。


しかし、そんなミノタウロスの元に駆けつける人物が存在した。それはナイであり、彼は左腕に装着していた反魔の盾を構えると、内側に仕込まれたボーガンを作動させる。



「こっちだ!!」

「ブモォッ!?」



ナイはボーガンからミスリルの刃を放つと、鋼線に巻き付けられた刃が弾丸のように放たれ、ミノタウロスの頭部の角に的中した。突き刺さるまでには至らなかったが、衝撃を受けたミノタウロスは怯む。



「フガァッ!?」

「お前の相手は俺だ!!」



念のために外に出向く時は武装していた事が功を奏し、背中の旋斧をナイは構えるとミノタウロスは自分を攻撃してきたナイに対して血走った目を向けてくる。



「ブモォオオッ!!」

「うっ……!?」



ミノタウロスはナイに対して威嚇のつもりなのか両腕を広げると、その気迫でナイはミノタウロスの肉体が実際の体型よりも大きく見えた。しかし、子供の頃から魔物と戦い続けたナイはこの程度では怯まない。


先ほど射出したミスリルの刃を風属性の魔石を操作して回収を行うと、改めてナイは旋斧を構えてミノタウロスと向かい合う。初めて戦う相手ではあるが、ここで逃げるわけにはいかない。耐え凌げばきっと援軍が来る事を期待してナイは戦う準備を整える。



「来い、デカブツ!!」

「ブモォッ!!」



ナイに対してミノタウロスは拳を振りかざすと、咄嗟にナイは旋斧を盾代わりにして受け止めようとした。だが、刃にミノタウロスの拳が衝突した瞬間、強烈な衝撃がナイに襲い掛かった。



「ぐあっ!?」

「ブフゥッ!!」



ミノタウロスは拳を振り切るとナイの肉体が後方へと吹き飛ばされ、そのままナイは近くの建物へと背中から衝突する。想像以上の攻撃力にナイは呻き声を上げ、膝を崩す。



(なんて威力だ……!?)



子供の頃に赤毛熊に吹き飛ばされた時を思い出し、純粋な腕力ならばナイが戦ってきた相手の中でも最強の相手かもしれない。しかもミノタウロスは容赦なくナイに向けて追撃を仕掛けようとしてきた。



「ブモォオッ!!」

「うわっ!?」



壁に背中を預けた状態のナイに対してミノタウロスは前蹴りを繰り出し、その攻撃を見たナイは咄嗟に避けると、ミノタウロスの足が壁を破壊した。煉瓦製の壁をやすやすと破壊するミノタウロスの蹴りにナイは顔を青ざめ、距離を取ろうとした。


しかし、先ほどの攻撃の影響でナイは思うように身体が動かず、ミノタウロスは彼に目掛けて手を伸ばす。もしも捕まれば命はないと思ったナイは咄嗟に左腕のボーガンを建物の屋根に向けて放つ。



「くっ!!」

「ブモォッ……!?」



咄嗟に「フックショット」を建物の屋根に放ち、ミスリルの刃が屋根に突き刺さった瞬間にナイは風属性の魔石を巻き込み、鋼線が巻き込まれるのと同時に身体を浮かせる。ミノタウロスはナイを捕まえようとした腕が空を切り、驚いた様に上に逃げたナイを見上げる。



(助かった……けど、こいつ想像以上に強い)



フックショットを利用してどうにかナイはミノタウロスから逃れる事に成功したが、予想以上の腕力に冷や汗が止まらない。先日に戦ったガーゴイル亜種も強敵だったが、このミノタウロスはガーゴイル亜種に匹敵するかそれ以上の強敵だと判断した。



(ここから反撃だ!!)



自分を見上げるミノタウロスに対してナイは覚悟を決め、まずは屋根に突き刺さったフックショットを引き抜くと、空中から落下した状態で旋斧を振りかざす。それに対してミノタウロスは慌てて避けようとした。



「うおおおっ!!」

「ブモォッ……!?」



ナイが上空から振り下ろした旋斧の刃がミノタウロスの腕を掠め、血飛沫が舞う。ミノタウロスは傷を負うと動揺したように後退り、その一方で地上に着地したナイは笑みを浮かべた。


自分の攻撃で傷を負ったミノタウロスを見てナイは旋斧が通じる相手だと判断し、安堵する。先ほどはミスリルの槍を持った冒険者の攻撃を受け付けなったので赤毛熊のように頑丈な肉体を持っているのかと思われたが、先ほど攻撃が通じなかったのは単純に攻撃を仕掛けた冒険者の力不足だったらしい。



「このぉっ!!」

「ブモォオッ!?」



ナイは続けて円を描くように旋斧を放つと、その攻撃に対してミノタウロスは明らかに警戒したように後ろに跳び移って攻撃を回避する。どうやら腕力だけは赤毛熊やガーゴイル亜種を上回る力を持つが、上半身の防御力の方は2匹を下回るらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る