第226話 反魔の盾の所有権

「あの……ゴルド、さんがどうして騎士を辞めたんですか?」

「いや、それは……記録によると騎士ゴルドは表向きは戦場で負った怪我で復帰は難しくなり、騎士の位を返納して王都を去ったとだけ残っている」

「表向き?」

「……実際の所は辺境の地方に訪れた時、とある娘に惚れて結婚を申し込んだら、その娘はいつ死ぬかも分からない様な人間と結婚できないと言われ、軍人を辞めなければ結婚しないと言われたゴルドは騎士の位を返納して辺境の地に残ったと伝わっている」

「つまり、女のために騎士の位も英雄の称号も捨てて結婚したわけかい」

「ええっ!?」



リンの言葉にテンは若干呆れた表情を浮かべるが、その話を聞かされたナイの方がもっと驚く。だが、ある意味ではゴマンの先祖らしいと思え、一度決めた事は何が何でも諦めずに実行する辺りはゴマンと共通点がある。


ゴマンも父親から反対されても子供の頃から冒険者になる事を志し、何時の日か冒険者になるためにナイと訓練していた。結局はその願いは叶わなかったが、もしも今も彼が生きていたら冒険者になる事は諦めなかっただろう。



「ゴルドの子孫が辺境の地で村を築いたという話は聞いていたが、その子孫はもういなくなったのは残念だが……ここで問題なのがこの盾の事だ」

「えっ……」

「この盾は元々は王国の所有物だが、騎士ゴルドに譲渡した物。ならばその所有権はゴルドの子孫にあるが……君はゴルドの子孫ではなく、そしてゴルドの子孫はもういない」

「それは……」



リンの言葉にナイは否定できず、確かにこの盾の本来の所有者はゴマンであり、ナイは彼から生前に借り受けた代物に過ぎない。だからこそナイがこの盾の所有者ではない事は否定できなかった。



「君がゴルドの子孫であればこの盾は返すべきだと思っていたが、君がゴルドの子孫ではなく、単純にこの盾を借り受けていたとしたら……この盾は君に渡す事は出来ない」

「えっ、どうしてですか!?その盾はナイさんの親友の……」

「この盾は計り知れない価値がある。そして盾の所有者がいなくなった以上、元々はこの盾を管理していた王国が引き取るのが筋だろう」

「おいおい、ならあんたはこいつから親友の形見を引き取るつもりかい?」



反魔の盾をナイに引き渡す事は出来ないと告げるリンに対して流石にヒイロもテンも口を挟むが、リンはあくまでも盾の所有者がいなくなった以上、この盾の所有権があるのは盾を元々管理していた王国の物である事を伝える。



「テン指導官、この盾は王国が所有していた物。そして盾を譲り受けたゴルドはもう亡くなり、彼の子孫もいないとすれば王国に返却するのが道理です」

「それは……」



リンの言葉にテンも咄嗟に言い返す事は出来ず、反魔の盾の所有権を持つゴルドの子孫はもういない。それならば盾を元々管理していた王国が引き取るのが道理だとリンは説くが、流石にナイも納得するわけにはいかない。



「待ってください、確かにその盾は俺の物じゃないかもしれません。けど、所有者がいなくなったからといって王国の物になるのはおかしいと思います」

「何!?貴様、王国の民の癖に国に異議を申し立てるか!!」

「お辞めなさい、オウソウ!!」



ナイの言葉にオウソウは腰の長剣に手を伸ばすが、それをドリスが抑える。だが、今のナイの発言は確かに国に対して不満を告げた事に変わりはない。


仮にも王国の民であるナイが王国に異議を申し立てる事は問題があり、国の秩序を守る立場の騎士達からすれば聞き捨てならない。しかし、ナイの方もこのまま黙って親友の形見を引き取られるわけにはいかなかった。



「いくら国が盾を元々管理していたといっても、その盾は騎士ゴルドに譲渡された時点で所有権は破棄したんですよね?他の人に渡した物を、管理する人間がいなくなったからといって所有権が戻るなんて理屈があるんですか?」

「むっ……だが、それを言ったら君にこの盾を所有する権利もないだろう」

「確かにその通りかもしれません。ですけど、その盾の所有権が王国の物じゃありません。例え死んでもそれはゴルドの一族の物です……なら、その盾は村にあるゴマンの墓に供えるべきだと思います」



自分が反魔の盾を持つ事が許されないのであればナイはせめてゴマンの元に返してやりたいと思い、このまま国に彼の盾が引き取られるのを黙ってみているわけにはいかなかった。そのナイの言葉にリンも意表を突かれ、他の者達も呆気に取られる。



「……つまり、君はこの盾は死んだ友人の物として墓に供えたいというのか?」

「その通りです」

「馬鹿な……そんな事をして何の意味がある!?この盾にどれほどの価値があると思っている」

「価値?価値ってどういう意味ですか?この盾はゴマンの物なんですよ。なら、彼の墓に供えるのが当たり前じゃないですか?」

「いや、それは……」



オウソウの言葉にナイは堂々と言い返すと、彼の方も言い返す事が出来ず、結局はナイはリンたちが反魔の盾に拘るのは伝説の騎士の所有物であるからに過ぎないと思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る