第225話 反魔の盾

――魔物が村を襲う前、まだゴマンが生きていた頃にナイは彼の家に伝わる盾の話を聞かされた事がある。ゴマンの話によると彼の先祖の一人が元々は有名な騎士だったらしく、ゴマンの家系に伝わる盾も騎士が大きな功績を上げた時に国から授かったという。


だが、理由は不明だがその騎士は王都を離れ、辺境の地にて村を作ったという。つまり、ナイ達が暮らしている村は元々はゴマンの先祖が作り上げた村という事になる。だからこそゴマンの家系の人間は村長として村を治めてきた。


元鍛冶師であるアルによればゴマンの盾は旋斧と同様に魔法金属で構成され、外部からの衝撃を跳ね返す性質を持っている。しかも受けた衝撃をそのまま返すだけではなく、場合によっては何倍にも増幅して跳ね返す事も出来た。他にも魔法攻撃を跳ね返す事も可能でこの盾のお陰でナイは何度も命を救われている。


元々の所有者であるゴマンは既に死亡し、現在は彼の形見という事でナイが手放せなかったが、王国騎士によるリンが調べたところ、これは途轍もない代物だと判明した。




「この盾の正式名称は「反魔の盾」伝説の盾騎士として称えられたゴルドという名前の王国騎士が所有していた盾だ」

「え、ゴルド……?」



ナイはゴルドという名前には聞き覚えがあり、確かゴマンの先祖の名前にもゴルドという男性がいたという話を聞いていた。リンによるとゴルドはかつてこの国で英雄として歴史に名を刻んだ偉大な王国騎士だという。



「ゴルドは騎士でありながら盾の類しか装備せず、鉄壁の騎士の異名を名付けられた。彼は敵を攻める戦は不得手としたが、守りを主軸とした戦では生涯に一度も敗北した事はない。かつて獣人国が1万人の兵を率いて攻め寄せた時、ゴルドはたった数百人の兵士と共に砦に立て籠もり、10日間も守り抜き、遂には援軍が到着して獣人国の軍隊を撃退した記録もある」

「へえっ……1万の敵軍相手に10倍以上の兵力だけで耐え切ったのかい」

「記録によれば彼は盾を扱う理由は攻撃こそが最大の防御と言われるのならば、最高の防御力こそ最強の攻撃力になり得る、という考えの元で戦場でも武器の類は使わず、盾のみで戦い抜いたと言われていますわ」

「そ、それはどういう理屈ですか……?」



ゴルドは生涯で武器を一度も装備して戦った事はなく、実際に彼は盾のみで戦い続け、功績を残した。そして彼の功績を称えて当時の国王はゴルドに「反魔の盾」を送ったという。



「反魔の盾は元々は王国が所有していた宝具の一つだが、当時の国王はゴルドを気に入り、彼に正式に譲り渡したと伝わっている。それ以来、反魔の盾はゴルドの家系の人間が管理しているはずだが……これをどうして君が持っている」

「まさか、ナイさんがゴルドの子孫……!?」

「伝説の騎士の血を継いでいた……だからあんなに強い?」



リンはナイが「反魔の盾」をナイが所有していた事を問い質し、他の者達も驚く。しかし、ナイは自分がゴルドの子孫ではない事をはっきりと伝えた。



「その盾は……親友の形見なんです。名前はゴマンといって……その、ゴルドという人の家系の人間なんですけど」

「何?ではこの盾は君の物ではないんだな?」

「はい……借りているだけです」

「借りている……ですけど、これは仮にも伝説の騎士の盾ですのよ。そんな盾をゴマンという御方は貸してくれたのですか?」



ナイの言葉を聞いてリンは訝しみ、ドリスは不思議そうな表情を浮かべる。そんな二人に対してナイは正直に自分が盾を手にした経緯を話した。



「ゴマンはもう……亡くなりました。この盾を貸してくれた後、魔物に襲われて殺されたんです。多分、ゴマンの家族も一緒に……」

「そんな……では、ゴルドの家系の人たちはもう生きておられないんですの!?」

「伝説の騎士の家系が潰えたというわけかい……悲しいね」

「ナイ……」



ゴルドの家系の人間が既に死亡したという話にドリスは衝撃を受け、リンやテンも伝説の騎士として伝えられたゴルドの子孫がいない事に何とも言えない気持ちを味わう。二人とも王国騎士としてゴルドの存在は知っており、それだけに彼の家系が潰えた事は残念でならない。


ナイとしてもまさかゴマンの盾が「反魔の盾」と呼ばれる大層な代物だとは思いもよらず、彼の先祖がどれだけ偉大な人物だったのかを思い知らされる。それだけにナイはゴマンがその事実を知らずに亡くなった事を悲しく思う。



(ゴマンの先祖、本当に凄い人だったんだね……)



円卓の上に置かれた盾にナイは視線を向け、ゴマンが生きていればリンの話を聞けばどんな反応をするのだろうと気になる。驚くのか、喜ぶのか、あるいは自慢するのか、どちらにしろ彼が生きていなければ確かめようがない。


ゴマンの盾の秘密が明かされた事でナイは彼の先祖がどれほど偉大な騎士だったのか思い知るが、ここで不意にどうしてそんな騎士が国を離れ、辺境の地で村を作ったのか気になった。

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