第222話 王国騎士との対面

――テン達に連れられるままにナイは王城内を移動し、その途中で城内の様子を見て驚く。まさか自分がこの国の王城に入る日が来るなど思いもしなかったナイだが、彼の想像以上に人の数が多い。


移動の際中にナイは中庭を通り抜ける事になったが、そこには噴水と花壇が広がっており、美しい花々が咲いていた。しかし、植物に詳しいナイはすぐに中庭の花壇に生えている花々の正体に気付く。



「これって……全部、薬草ですよね」

「えっ!?凄い、よく分かりましたね!!」

「ここに生えているのは全て薬用の植物……緊急時のために薬草の栽培を行っている」

「元々は亡くなった王妃様の花壇だったんだけどね……あの人が無くなってからここで薬用植物を育てられるようになったんだよ。いざという時に薬の素材を確保できるようにね」



中庭に植えられている植物は全て薬草である事にナイは気づき、複数の種類の薬草が植えられて育てられていた。これでは管理に難しいだろうが、ナイと同様に「栽培」の技能を持つ人間が管理を行っているのだろう。


王妃が亡くなった際に国王は緊急時に様々な薬を作れるように花壇に植えるのは薬用効果のある植物だけにした。王妃を亡くした事を悲しんでいる事は理解できるが、花壇に生えている植物の中には萎れかけている花がある事もナイは気付いた。



「この花……」

「おいおい、勝手に触るんじゃないよ。そいつを勝手に取った奴は例え将軍であろうと厳罰だからね」

「前に薬草を盗み出そうとした兵士が実際に処刑された件もある。だから気を付けた方が良い」

「えっ……」



萎れかけている花にナイは回復魔法で元気にさせてやろうとしたが、それをテンが止める。この花壇に立ち寄る事が許されているのは管理を行う人間のみであり、仮に将軍の立場にある人間であろうと花壇の植物に手を出す事は許されない。


大人しくナイは花壇から離れるが、どうしても萎れかけた植物を見ると放っておけない。後で誰も見ていない間になんとか近づけないのかと思いながら歩いてると、遂に王国騎士達が待ち構えているという部屋の前に辿り着く。



「この部屋にあんたを待ちわびている奴等がいるよ」

「ここに……」

「テン指導官、お疲れ様です!!」

「リン副団長とドリス副団長は既に中でお待ちです!!」



扉の前に立っていた兵士はテンに対して敬礼を行い、どうやら彼女は現役を引退した後も城内の人間には顔が利くらしく、彼女は頷いて扉に手を伸ばす。



「緊張する必要はないよ、あたしがいるからね」

「あ、そっか……テンさんも王国騎士だったんですよね」

「……昔の話さ」



ナイの言葉にテンは頭を掻き、彼女は自分が王国騎士であった事はあまり触れられたくはないらしく、ナイの了承も得ずに扉を開く。


部屋の中には円卓が存在し、席には既に二人の人物が座り込んでいた。どちらも絶世の美女と言っても過言ではない程に容姿が整っており、その一方で近寄りがたい雰囲気を放っていた。



「邪魔するよ、あんたら喧嘩せずに仲良くしてたかい?」

「……テンさん、私達も子供ではない。昔と違って理由もなく喧嘩はしませんよ」

「ええ、その通りですわ」



テンがナイ達を連れて部屋の中に入り込むと、銀狼騎士団の副団長である「リン」そして黒狼騎士団の副団長である「ドリス」が迎え入れる。二人ともテンの言葉を聞いてリンは無表情で返し、ドリスの方は愛想笑いを浮かべながら否定する。



「ははは、そりゃ悪かったね。でも、見習いの頃はあんた達は毎日喧嘩してたじゃないか」

「昔の話です。今はお互いの立場は弁えています」

「その通りですわ。私達も大人になったのをいい加減に認めてほしいですわ」

「あたしを相手にいうようになったじゃないか、小娘共」



二人の言葉にテンは笑みを浮かべると、リンとドリスは苦笑いを浮かべる。現役を引退したとはいえ、テンは彼女達からすれば先輩の立場であり、しかも最強の王国騎士の団長を務めていた相手で未だに頭が上がらない人物だった。


だが、部屋の中には彼女達以外にも数名の騎士が待機しており、その内の一人の男性騎士が咳ばらいを行う。身に付けている甲冑の色合いから黒狼騎士団に所属する騎士らしく、暗に注意を行う。



「指導官殿、いくら何でも言葉が過ぎますぞ……仮にも副団長殿を小娘呼ばわりなど失礼なのでは?」

「ん?何だい、あんた?」

「オウソウ、私の事を思っての発言でも口が過ぎますわ。テン様、申し訳ありません。このオウソウは最近に騎士団に入ったばかりでテン様の事をよくご存じではありませんの」



ドリスはオウソウと呼んだ男性は最近に騎士になったばかりらしく、彼女達の関係を知らない様子だった。だが、オウソウは注意されてもしかめっ面を貫き、謝る様子はない。


テンの方はオウソウの態度に特に気にした風もなく、頭を掻きながら本題へと入る。彼女はナイの背中を押して紹介を行う。

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