第218話 全身全霊の一撃
(次の攻撃で仕留めないとまずい……けど、左腕は当てに出来ない)
ナイはガーゴイル亜種と向かい合い、次の一撃で仕留める方法を必死に考える。その一方でガーゴイル亜種の方も背中に突き刺さった退魔刀に手を伸ばし、肉体から引き抜く。
『ガアアッ……!?』
「くそっ……しぶといな」
背中に刺さった退魔刀をガーゴイル亜種は引き抜くと、右手で握りしめてナイと向き合う。退魔刀を手にしたガーゴイル亜種に対してナイは増々追い詰められるが、不思議と心は落ち着いていた。
赤毛熊を越える脅威を前にしてもナイは焦らず、どのように動けば相手を倒せるのかを考える。何度も窮地を乗り越えてきた事でナイは精神面も強くなり、冷静に考える事が出来た。
(左腕は当てにならない、なら右腕だけで戦うしかない……けど、剛力を使ってもこいつを一撃で倒せるとは思えない。攻撃力を増加させる方法があるとすれば……)
左腕が使えなければナイが頼れるのは右腕のみであり、ここで右腕に装着したゴマンの盾に気付き、ある事を思いつく。失敗すればナイに勝ち目はないが、それでも他に考えがなければ試すしかない。
(ゴマン、力を貸して!!)
意を決したナイは跳躍を発動させてガーゴイル亜種に向けて突っ込む。その様子を見たガーゴイル亜種は両手で退魔刀を握りしめ、ナイに振り下ろそうとした。
『シャアアッ!!』
「ここっ!!」
ガーゴイル亜種は上段から退魔刀を振り下ろそうとしたが、それに対してナイはガーゴイル亜種の右側に向けて跳び込み、それを見たガーゴイル亜種は咄嗟に退魔刀の軌道を変更させる。
上から叩きつけるのではなく、横薙ぎに振り払う形になった退魔刀に対してナイは盾を構え、右足の親指に力を込めて待ち構える。そして振り払われた退魔刀がゴマンの盾に衝突した瞬間、衝撃波を生み出す。
『アガァッ――!?』
「喰らえっ!!」
衝撃波によって退魔刀は弾かれ、ガーゴイル亜種は体勢を崩す。それと同時にナイの方は盾が受けた衝撃を利用し、その勢いを利用して身体を回転させ、旋斧をガーゴイル亜種の右足に繰り出す。
「うおおおおっ!!」
『シャギャァアアアッ!?』
旋斧の一撃が事前に損傷を蓄積させていたガーゴイル亜種の右足に叩き込まれ、完全に右足は砕け散り、体勢を崩したガーゴイル亜種は倒れ込もうとした。だが、反射的にガーゴイル亜種は左腕を地面に突き出して倒れるのを逃れる。
その一方でナイの方は旋斧を握りしめ、まだ左腕は痺れているがどうにか両手で旋斧を構えると、体勢を崩したガーゴイル亜種と向かい合う。ここがガーゴイル亜種を倒せる最後の好機であり、ナイは旋斧を振りかざす。
――この時にナイは先ほどモモに魔力を分けてもらい、一時的に強化薬を飲み込んだ時のように肉体が強化されて3体のガーゴイルを倒した事を思い出す。あの時は全身に魔力が溢れて肉体の機能が強化され、そのせいで一時的にナイは強化薬を飲み込んだ時と同じ状態になっていた。
強化薬は体内の魔力を活性化させ、身体機能を最大限に強化する薬ではないかとナイは気づく。それならば仮に強化薬を飲み込まずとも、自分自身で魔力を操作して全身を強化させれば強化薬を使用した時と同じ状態になれるのではないかと考える。
要するにナイは剛力を発動させる要領で今回は全身の強化を行い、身体機能を魔力で上昇させる。今までのナイは剛力を発動させるときは腕や脚の筋力だけして強化していなかったが、今回は全身の筋肉を強化させて攻撃を繰り出す。
(この一撃で……決める!!)
腕力任せに剣を振るのではなく、全身の筋力を利用してナイは旋斧を振りかざし、この時のナイは強化薬を飲み込んだ時と同様の力を引き出す。そして彼が繰り出された旋斧の刃はガーゴイル亜種の胸元に叩き込まれ、強烈な衝撃を受けたガーゴイル亜種の肉体が後ろに倒れ込む。
ッ――――!?
声にもならない悲鳴を上げてガーゴイル亜種は倒れ込むと、同時にナイの方も地面に倒れ込み、強化薬の効果が切れた時と同様に魔力と体力を消耗し、筋肉痛に襲われる。
「ぐぅうっ……!?」
それでもナイは意識を失わず、筋肉痛の方もそれほど痛みは感じない。どうやら強化薬を使った時と違い、ナイの意志で肉体を一瞬だけ強化した事で肉体の負担が軽減されたらしい。
「倒した、のか……?」
ナイは倒れ込んだガーゴイル亜種に視線を向け、今の自分の繰り出せる最大の攻撃を叩きつけたつもりだった。これで起き上がるようならばもうナイは対抗手段はない。
ガーゴイル亜種が動き出さない事を祈りながらナイは見つめると、ここでガーゴイル亜種の肉体に異変が起きた。唐突に身体が小刻み震え始め、やがて目元から紫色の光が灯る。
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