第217話 王国騎士の驚嘆
――時は少し前に遡り、街道を白馬に乗り込んだ騎士達が駆け抜け、バーリの屋敷へと向かっていた。騎士達を指揮するのは「銀狼騎士団」の副団長である「リン」という女性だった。
リンは銀狼騎士団の副団長にして国内では3本指に入ると言われるほどの剣の達人であり、彼女に従う騎士達も精鋭揃いである。リンは赤色の煙を確認しながら屋敷へと辿り着くと、そこには既に屋敷の前に待ち構える騎士団の姿が見えた。
「副団長、黒狼騎士団です!!」
「……先を越されたか」
屋敷の前に待機しているのは漆黒の兜に漆黒の鎧を装着した騎士達であり、その先頭に立っているのは一人だけ黄金の鎧と兜を身に付けた女性だった。その顔を見たリンは眉をしかめ、一方で相手の方もリンに気付いて笑みを浮かべる。
「あら、リンさんではないですか。貴女も来たのですね」
「これはこれは……黒狼騎士団の副団長殿、まさか先を越されるとはな」
「そう悲観される事はありませんわ。私達もここへ到着したばかりですもの」
黒狼騎士団の副団長を務めるのはドリスという名前の女騎士であり、リンと彼女は同期である。二人とも17歳で同い年であり、年齢よりも外見が大人びている。
どちらも絶世の美女といっても過言ではない容姿だが、その雰囲気だけで他の人間は圧倒され、声をかける事も出来ない。リンはドリスが先に辿り着いていた事に内心は悔しく思うが、今は私情を挟むわけにはいかない。
「状況は?」
「屋敷の中にいる人間の殆どは保護しましたわ」
「殆ど?全員ではないのか?それよりどうして屋敷に入り込まない?」
ドリスの言い回しにリンは気になったが、そんな彼女に対してドリスは屋敷の敷地内を指差す。その行為にリンは戸惑うが、屋敷の様子を見て彼女は目を見開く。
『シャアアアアッ!!』
「うおおおおっ!!」
一人の少年がガーゴイル亜種を相手に戦っており、斧と剣が合わさったような武器を手にして戦っていた。その光景にリンは動揺を隠せず、一方でドリスも興味深そうに彼の戦いぶりを観察する。
「先ほどからあの子供がガーゴイル亜種を相手に戦い続けていますわ」
「戦い続けている、だと……どうして助けに向かわない!?」
「よく考えてください、あんな子供が一歩も引かずにガーゴイル亜種に立ち向かっているんですのよ。明らかに只者ではありませんわ」
ドリスの言う通りにナイはガーゴイル亜種を相手にたった一人で挑み、傍から見ても優勢に立ち回っていた。その様子を見てリンも驚くが、だからといって子供一人にガーゴイル亜種を相手にさせるなど納得できるはずがない。
「あの少年を援護する、お前達も私に続け!!」
「お待ちください、リン副団長……ここは見守るべきです」
「見守る!?何を言っている、あんな化物をあの少年に任せて私達はここで傍観しろというのか!?」
「そうは言いませんわ、もしもあの少年が窮地に立たされたら……その時は私が奴を仕留めます」
リンの言葉にドリスは自分が持っている紅色の「ランス」を握りしめ、その様子を見たリンは彼女が本気で言っている事を察する。確かに彼女ならばこの距離からでもガーゴイル亜種を仕留める事が出来るだろう。
だが、ドリスはガーゴイル亜種を相手にたった一人で立ち向かうナイに強い興味を抱き、彼が何者なのか見極めたかった。だからこそ敢えて屋敷内には踏み込まず、様子を観察する。リンの方もナイの正体は気にかかるが、それでも心配そうに告げた。
「もしも少年が殺されそうになったら私は動くぞ……文句はないな?」
「ええ、構いませんわ」
ドリスもリンの言葉は否定せず、先ほどから彼女はランスを強く握りしめていた。この距離からでもドリスはガーゴイル亜種を一撃で仕留める自信があり、もしもナイが追いつめられたときはその時は彼女がガーゴイル亜種を仕留めるつもりだった――
――失敗した!!
ナイは心の中で刺剣を利用して盾から衝撃波を繰り出した事を後悔していた。確かに衝撃波を受けたガーゴイル亜種は怯み、全身に亀裂が広がる程の損傷を与える事に成功した。
しかし、その反面にナイの方は左腕が痺れてしまい、刺剣も衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。左腕がまともに動けなければ右腕に頼るしかなく、ナイはガーゴイル亜種の右足に食い込んだ旋斧を引き抜く。
「このぉっ!!」
『アガァッ!?』
旋斧を引き抜いたナイはガーゴイル亜種から距離を取り、左腕の様子を伺う。痺れているせいで力が入らず、しばらくの間は動かせない。魔操術で腕を回復させる事も考えたが、そんな時間をガーゴイル亜種が与えるはずがない。
『グゥウッ……!!』
「くっ……!!」
ナイとガーゴイル亜種は対峙し、次の攻撃で勝負が決まるとお互いに気付いていた。ガーゴイル亜種も損傷は激しいが、ナイの方もモモに回復して貰ったとはいえ、ここまでの戦闘でもう体力も魔力も限界に近い。
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