第209話 援軍

「み、皆さん!!無事だったんですね!?」

「無事と言えば無事というか……」

「この状況だと安心は出来ない」



ヒイロの言葉にナイは冷や汗を流しながら背中で泡を吹いているバーリに視線を向け、ヒイロが襲われているのを見てナイとミイナは居ても立っても居られずに飛び出してしまう。


3階から下りた時の衝撃はナイに背負われているバーリも味わっており、一瞬だけ目を覚ましたがまた意識を失ってしまう。これ以上に刺激を与えると本当に死ぬかもしれず、ナイは背中からバーリを下ろすと、馬車の中に隠れているモウタツに伝えた。



「この人の事、お願いします」

「えっ……バ、バーリ!?まさか、お前等本当に捕まえたのか!?」

「いいから頼みます!!」



半ば無理やりにナイはモウタツに気絶したバーリを渡すと、周囲の光景を確認して予想以上の事態に陥っている事を確認する。



『ギャギャギャッ!!』

「うがぁっ!?」

「た、助け……ぐへぇっ!?」

「嫌だ、来るな!!来るなぁあっ!!」



敷地内の兵士達は次々とガーゴイルによって八つ裂きにされ、その光景を見ていたナイは退魔刀を握りしめ、このまま彼等を見捨てる事は出来ない。だが、ノイによると屋敷内に存在するガーゴイルの数は10体、その内の3体はナイ達に倒されたが、まだ7体も残っている。


一刻も早くナイ達は屋敷から離れる必要があり、バーリを警備兵に突き出せば彼の悪事は暴かれる。しかし、この状況でガーゴイルたちを放置すれば屋敷内の全員の命が危ない。



「皆は先に戻ってて!!俺はガーゴイルの相手をする!!」

「正気ですか!?いくらナイさんでもこの数を一人で相手にするのは……」

「危険過ぎる、私達も残る」

「いや、皆は他の人の避難を手伝って!!ここは俺が何とかするから!!」



ナイは退魔刀を手にしてガーゴイルの元へ向かおうとしたが、この時に足元に違和感を感じ取り、視線を向けるとそこには先ほどヒイロが落とした魔道具が落ちていた。



「これは……?」

「あ、それは私が落とした……」

「……なるほど、この手があった」



魔道具を拾い上げたナイを見てヒイロは自分の物だと伝えようとした時、それを見たミイナは何かを思いついた様に魔道具を取り上げる。そして彼女は周囲を見渡してヒイロが持つ烈火に視線を向けると、彼女に魔道具を差し出す。



「ヒイロ、烈火でこれに火を点けて」

「ほ、本気ですか!?それを使えば……」

「ヒイロもあの人たちを呼び出すつもりでこれを出したんでしょう?」

「あの人たち?」



ミイナの言い回しにナイは気になったが、ヒイロは渡された魔道具に視線を向け、意を決したように彼女は烈火を構えた。



「分かりました。では、行きますよ……火炎剣!!」

「うわっ!?」

「な、何!?」

「ちょっと、何をしてるのよ!?」

「……呼び出している」



刃に炎が纏った瞬間、ミイナは手にしていた魔道具に火を灯す。その結果、筒型の魔道具の先端から赤色の煙が発生すると、凄い勢いで天空へと上昇する。


時刻は深夜を迎えているが、この赤色の煙は夜闇の中でも非常に目立ち、王都の何処からでも確認が出来た。ミイナとヒイロはそれを確認すると冷や汗を流し、二人の反応からナイは誰を呼び出すつもりなのかと戸惑う。



『ギャギャッ!?』

「まずい、こっちに気付いたわ!!その煙のせいよ!!」

「援軍が来るまで持ち堪えるしかない……ヒナ、モモ!!ノイを連れて馬車に乗って先に逃げて!!」

「ええっ!?でも皆は!?」

「私達はここへ残ります!!援軍が来るまで時間を稼いでみます!!」



ナイの隣にヒイロとミイナは移動すると、それを見たヒナは頷き、ノイを連れてモモの腕を掴んで馬車の中に乗り込む。彼女は馬車の中で怯えるモウタツに怒鳴りつけた。



「ちょっと、怯えている場合!?逃げるなら今よ、早くしなさい!!」

「ひいっ!?わ、分かったよ!!」

「皆、絶対無事に戻ってきてね!!宿屋で待ってるから!!」

「先に戻ってご飯の準備をしてて……私達はこいつらの相手をしたら戻る」

「来ますよ!!」



馬車が駆け出した瞬間、ガーゴイルの群れがナイ達の元へと迫り、それに対してナイ、ヒイロ、ミイナの三人は各々の武器を構えた。



『ギャアアアッ!!』

「円斧っ!!」

「火炎剣!!」

「回転撃!!」



ナイは剛力を発動させた一撃を、ヒイロは火炎の刃を、ミイナは回転を加えた戦斧を振りかざす――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る