貧弱でも英雄になれますか？

第203話 バーリの過去

「ふうっ……何だ、子供の頃の川辺にあった岩の方が硬かったよ」

「なっ、なっ、なっ……ば、馬鹿な！！有り得ん！！ガーゴイルが、儂のガーゴイルがぁっ……！？」

「す、凄～い……」

「……信じられないわ」

ガーゴイルを一撃で破壊したナイの姿にバーリは頭を抑えて泣き叫び、ヒナとモモは唖然とする。一方でナイの方はガーゴイルに視線を向けて胸の部分に埋め込まれていた魔石の破片を拾い上げた。

どうやらこの魔石がガーゴイルの経験石だったらしく、破壊した際にナイはレベルが上昇する感覚に陥る。かなりの数の技能を覚えたので最近のナイは魔物を倒しても滅多にレベルが上がる事はないが、流石にガーゴイル程となると経験値も大量に手に入るらしい。

(久しぶりだな、この感覚……いや、今はどうでもいいか)

これで邪魔者はいなくなったナイはバーリに視線を向けると、彼は自分が見られている事に気付き、今度こそ命乞いを行う。

「ひいいっ！？ゆ、許してくれ！！頼む、許してくれぇっ……降参する！！」

「よく言うよ、さっきは騙した癖に……」

「も、もう嘘は言わない！！頼む、どうか命だけは……」

「ふざけた事を言わないで頂戴！！あんたのせいでどれだけの人が苦しめられたと思ってるのよ！？」

「そうだそうだ！！」

ナイ達は壁際に追い込まれたバーリの元へ向かい、武器を構える。バーリはそんな３人に対して必死に涙目で命乞いを行うが、この時に予想外の出来事が発生する。それは気絶していたと思われたノイが立ち上がり、バーリの元へ向かう。

「死ねっ！！」

「ぐふぅっ！？」

「えっ！？」

「そんなっ！？」

「ノイさん！？」

ノイは何処に隠し持っていたのか、短剣を取り出すとバーリの胸元へ向けて突き刺す。ナイ達はノイを止めるのが間に合わず、そのままバーリは胸元に刃が食い込み、ノイは涙を流しながら答える。

「あんたのせいで……あんたのせいで私は、私達はっ……！！」

「き、貴様ぁっ……！？」

「ノイさん、駄目よ！！そいつを殺したら自白させる事が出来ない！！」

「いや、離してっ！！殺してやる、絶対に殺してやる！！」

「お、落ち着いてよ～！！」

慌ててナイ達はノイを引き剥がし、胸元に短剣を刺されたバーリは壁に背中を預けて座り込む。この際に彼は意識が朦朧としており、そんな彼にナイはすぐに怪我を確認する。

幸いというべきか、短剣はどうやら心臓までは届いておらず、どうやらバーリが肥え太っていたお陰で厚い脂肪が刃を遮っていたらしい。ゆっくりとナイは短剣を掴み、一気に引き抜くとバーリは吐血した。

「がはぁっ……！？」

「動くな、治療するから……」

「治療！？なんでそんな奴を！？」

「ノイさん、気持ちは分かるけどこいつをここで殺しても仕方がないの！！」

「そうだよ、捕まえないと他の人たちを助ける事が出来ないんだよ！？」

「くっ……」

ここでバーリが死ねばノイが殺人犯にされ、バーリの悪事を暴いたとしても彼女が犯罪者として捕まってしまう。そうならないようにナイはバーリを治療するため、回復魔法を施す。

しかし、意識が朦朧としているバーリは先ほどノイに突き刺された際、首に掛けていたペンダントが床に落ちている事に気付き、それに手を伸ばす。彼は意識が薄らぐ中、過去の出来事を思い出す――

『――ガーゴイルだと？本当にこんな物でガーゴイルを操る事が出来るのか？』

『ええ、その通りでございます。この魔道具を使用すればこちらのガーゴイルたちを呼び起こし、従えさせることが出来ます』

ある時にバーリは外国から訪れた商人と商談した際、ガーゴイルの石像と紫色の魔石のペンダントを見せつけられる。このペンダントは貴重な魔道具らしく、これを使えば普通の人間でもガーゴイルを操る事が出来るという。

最初にその話を聞いた時はバーリは胡散臭く思ったが、この取引の相手はバーリにとっては有益な情報を度々持ち込む上客であり、話を無視する事も出来なかった。

『なんでもバーリ様は商売敵が多いと聞いております。その商売敵から命を狙われる事も多いでしょう？』

『ふん、そんな奴等は儂が雇っている傭兵にかかれば敵ではない』

『しかし、ただの傭兵に自分の命を預けるのは安心できないでしょう。彼等は金を払えばどんな事でもしてくれます。もしもバーリ様が彼等に支払っている金よりも他の人間が大金を渡せば彼等は簡単に裏切るのでは？』

『それは……確かに有り得るな』

バーリは外国の商人の言葉を否定できず、彼の元にはダンを筆頭に優秀な傭兵はいるが、彼等がバーリに従うのは忠誠心ではなく、大金を得るためにしか過ぎない。そんな者達に命を預けるのは確かに得策ではない様な気がしてきた。