第200話 石像の正体
「モモ、外を見張ってて」
「え?あ、うん!!」
ナイに初めて呼び捨てにされたモモは嬉しそうな表情を浮かべ、通路の方を見張る。これでダンの時の様に他の人間が来たとしても彼女が気づいて教えてくれる。そもそもミイナが足止めを行っているはずなので誰かがここへ来ることはないはずだが、用心に越した事はない。
ヒナは気絶しているノイを壁際に降ろし、彼女は鉄扇を構えてバーリの様子を伺う。それを確認したナイは改めてバーリの元へ近づき、彼に退魔刀を構えた。
「さあ、一緒に来てもらおうか」
「ま、待て!!止めろ、落ち着け……そ、そうだ!!お前を儂の妻にしてやろう!!そうすれば一生楽をさせてやるぞ!!」
「ぶふっ!!」
「ええっ!?ナイ君をお嫁さんに!?」
バーリの発言にヒナは噴き出し、見張りを行っていたモモは衝撃を受けた表情を浮かべるが、ここでナイは自分が未だに女装している事を思い出す。今のナイは女性用の給仕服を着こんでおり、未だにバーリは彼の事を女性だと思い込んでいた。
ここで正体を晒すべきか迷ったナイだが、男性の服がないので着替える事も出来ず、このまま話を進める事にしてまずはバーリのふざけた口に退魔刀を突きつける。
「真面目に答えないと今度は舌を斬るぞ……」
「あがぁっ!?」
「ナ、ナイ君怖いよ……」
「ちょっと切れてるわね……」
今までにない気迫で凄むナイにヒナとモモも若干震えるが、口元に刃先を押し込まれたバーリは涙目を浮かべ、必死に腕を動かす。それを見たナイは大剣を引き抜くと、バーリは怯えた表情を浮かべて座り込む。
「ま、待ってくれ……金か?金が目的なのか?いくら欲しい!?それとも宝石か、魔道具か、女か!?何が目的だ!!」
「そんな物はいらない、強いて言うならあんたの悪事を暴露させる」
「な、何だと!?貴様、まさか王国騎士の手の物か!?」
「強ち間違ってはないけど……」
ミイナは王国騎士見習いではあるが、ナイの場合はただの旅人である。しかし、それを知らないバーリはナイの正体が王国騎士だと勘繰り、彼は悔し気な表情を浮かべる。
「だ、誰だ!!誰がお前を送り込んだ!?第一王子か、第二王子か!?それとも奴等に従う王国騎士の独断か!?」
「どれも違う、だいたい僕は王国騎士じゃないし……」
「く、くそっ!!騙されるものか、王国騎士如きに儂が捕まると思うな!!」
ここでバーリは自分の胸元を開き、何のつもりかとナイは思ったが、彼の胸元には紫色のペンダントが隠されていた。そして彼は部屋の中に置かれている石像に視線を向けた。
――この屋敷のあちこちに魔物の形をした石像が設置されている事はナイ達も確認しており、バーリの私室や現在居る寝室にも石像が置かれていた。バーリはペンダントを掲げると、窓から射す月の光に照らされ、紫色の宝石が光り輝く。
「目覚めよ、ガーゴイルよ!!」
「ガーゴイル……!?」
「まさかっ!?」
「な、何!?」
バーリが叫んだ瞬間、ペンダントから発せられた光が石像に届き、その瞬間に石像の目元が怪しく光り輝く。ガーゴイルという言葉を聞いたヒナは血相を変え、すぐにナイにバーリが手にしたペンダントを取り上げる様に指示を出す。
「ナイ君!!その男のペンダントを!!」
「えっ!?」
「もう遅いわ!!さあ、ガーゴイルよ!!儂を守れ!!」
『アッ……ガァッ……!!』
「せ、石像さんが……喋った!?」
石像はバーリの言葉に反応したかのようにゆっくりと動き出し、やがて台座から下りると翼を広げ、手首や足首を動かす。外見はどう見ても魔物の姿をした石の塊にしか見えないが、本物の生物のように動き出す。
少し前にナイが石像を見かけた時は気配感知を発動させても気配は感じられず、ただの石像だと思い込んでいた。しかし、バーリが取り出した紫色の宝石の光を浴びた途端、命が宿ったかのように動き出し、そしてバーリとナイに視線を向ける。
「さあ、やれ!!ガーゴイルよ、お前の力を見せろ!!」
『ギャギャギャッ!!』
「くっ!?」
ナイ達は身構えると、ガーゴイルは真っ先にバーリの傍に立つナイの元へ襲い掛かろうとした。それに対してナイは咄嗟に退魔刀で迎え撃とうとした時、ガーゴイルは翼を伸ばして跳躍を行う。
「このっ!!」
『グギャッ!!』
「よ、避けた!?」
「嘘っ!?」
迫りくる大剣に対してガーゴイルは跳躍して回避すると、信じがたい事に翼を伸ばして空中に浮かぶ。石像みたいな外見でありながら身軽な動作でしかも空を飛ぶ能力まである事にナイは驚くが、さらにガーゴイルは上空から両足を繰り出してナイに襲い掛かる。
『グギャギャッ!!』
「くぅっ!?」
金属音が鳴り響き、ガーゴイルの両足の爪が退魔刀の刃を抑え込み、ナイはガーゴイルに退魔刀の上に乗っかかれる形となった。重量に関しては見た目通りに重いらしく、刃が床に食い込む。
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