第194話 疾風のダンと鋼拳のゴウ
「疾風のダン……!!」
「おっ……そこにいるのは誰かと思えば王国騎士見習いの嬢ちゃんか。なるほど、やっぱり脱走してやがったのか」
「何?こいつがお前が倒したという王国騎士見習いか……思っていたよりも小さいな」
「失礼な、私は大きい方……ヒナの方が小さい」
「胸の話なんかしてないでしょ!?」
この状況下で現れたダンともう一人の男に対してナイ達は身構えるが、ダンは先ほど遭遇した時と違って今度は酒臭くはなく、ナイの方を見て笑みを浮かべる。
「そっちの嬢ちゃんも顔に見覚えがあるな……いや、お坊ちゃんと言った方がいいかな?」
「えっ!?」
「最初に会った時から違和感はあったが、身体に触れた時に確信を抱いたぜ。あんた、男だろう?」
「男!?こいつ、男なのか!?はっ、それにしては随分と可愛らしい格好だな!!」
「くっ……」
「ナイ君、挑発よ!!気にしては駄目よ!!」
自分が男なのに女物の格好をしている事を指摘され、ナイは恥ずかしく思うがヒナがすぐに注意する。冷静に対処しなければこの二人に勝てず、ミイナも一度は敗れた相手なので警戒を行う。
ダンはともかく、もう一人の男の方は初めて会うのでナイは何者か疑問を抱くが、この屋敷を守る私兵には見えず、恐らくはダンと同様に傭兵だと思われた。そしてミイナの方は男が身に付けている武器に視線を向け、ある傭兵の噂を思い出す。
「まさか……鋼拳使いのゴウ?」
「鋼拳……?」
「言葉の通りに鋼の拳で戦う傭兵がいると聞いた事がある」
「ほう、俺の事を知っているか……なら分かっただろう、お前等に勝ち目がない事をな」
男の名前はゴウという名前らしく、彼は拳に装着した「鋼拳」なる武器を構えると、雰囲気が一変した。ダンと同様にこの男も油断ならず、侮れない相手だとナイの本能が告げる。
(ダンだけならともかく、もう一人現れるなんて……けど、やるしかない)
通路を塞ぐように立ちふさがる二人に対してナイは退魔刀を構えると、ミイナも如意斧を構え、ヒナも鉄扇を握り締める。一方でモモの方はノイを持ち上げ、彼女を守るために場所を移動した。
「皆、ノイちゃんは私に任せて!!遠慮しないで戦ってね!!」
「頼むわよ、モモ……さあ、行くわよ二人とも!!」
「んっ!!」
「この格好だと恥ずかしいけど……行くぞ!!」
3人が戦闘態勢に入るとゴウは拳同士を重ね合わせ、その一方でダンの方は短剣を逆手に持ち帰る。今度は捕まえるのではなく、最初から殺す気だった。
「今回はバーリの旦那の邪魔も入らねえ……流石にダンナも脱走者には容赦しないからな。特に女だと思っていた奴が男だとしたら、あの人の性格からして絶対に生かすはずがないからな……ゴウ、あの坊主は俺が頂くぞ」
「ちっ、仕方ないな……なら、こっちの二人は俺がやるぞ」
「好きにしろ、但し殺すなよ。女は生かして捕まえた方がバーリの旦那も喜ぶだろうからな」
「ふん、あんな男の機嫌なんざどうでもいいわ!!」
最初に動き出したのはゴウであり、彼は真っ先にこの中では一番弱そうなヒナへと向かい、拳を振りかざす。そのゴウの行動に慌ててヒナは避けるが、ゴウの拳は彼女の背後に存在した木箱に叩き込まれる。
「おらぁっ!!」
「きゃあっ!?」
木箱に拳が叩き込まれた瞬間に中身が飛び散り、どうやら彼が破壊した箱の中身はマンドラゴラだったらしく、空中に大量のマンドラゴラが浮き上がる。その光景を見てヒナは慌てて壁際へと移動するが、ゴウは構わずに拳を放つ。
「ふんっ!!」
「くぅっ……嘘でしょっ!?」
「壁に亀裂が……!?」
ヒナがまた避けると、ゴウの拳は倉庫の壁に激突し、亀裂が走る。倉庫内に振動が走り、あまりの威力にヒナは顔色を青くさせ、もしも直撃していたら彼女の命はない。
相手が女であろうとゴウは容赦なく全力で拳を放ち、その怪力は巨人族にも劣らない。恐らくはこの男もナイと同様に「怪力」などの技能を習得しており、男は獣人族の身軽さも生かしてヒナと距離を詰める。
「これで終わりだ!!」
「きゃっ!?」
「させないっ!!」
攻撃を繰り出そうとしたゴウに対して咄嗟にミイナは駆け寄ると、彼女は如意斧を盾にしてヒナを守る。だが、この際にゴウの拳が如意斧に衝突した瞬間、彼女の身体に衝撃が走り、数歩分後退った。もしも生身に直撃していたら骨は折れていたかもしれない。
「……大丈夫?」
「あ、ありがとう。でも、ミイナ……あんたこそ平気なの?」
「今日はずっと動き続けて碌に身体を休めていない……体調は万全ならあんな奴、敵じゃないのに」
「ははっ!!威勢のいいガキだ!!だが、そんな姿じゃ説得力はないぞ?」
ゴウの一撃を受けたミイナの両腕は震えており、先ほどの一撃で腕が痺れてしまった。思っていたよりもゴウの拳は重く、早い。ヒナを守りながら戦うのは無理があり、出来れば誰か援護して欲しいが残されたナイの方もダンと対峙していた。
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