第184話 傭兵《疾風のダン》
「ふぁあっ……うるさいんですけど、どうかしました?」
「来たか、侵入者だ!!すぐに始末し……臭っ!?貴様、また儂の酒蔵から酒を盗み飲みしていたな!?」
「ひっくっ、別にいいじゃないですか。バーリさん、下戸なんだから酒なんて滅多に飲まないでしょ?」
「馬鹿者!!あの酒は来客用の酒だと言っているだろうが!!」
「な、何だ……?」
扉を開いて現れたのは皮鎧を身に付けた男性であり、年齢の方は20代後半程度だと思われ、その手には酒が握りしめられていた。会話の内容からどうや男はバーリの酒を盗んで飲んでいたようだが、バーリは説教を中断してナイを指差す。
「ちっ、仕方ない……こいつを捕えろ!!」
「んんっ?こいつは別嬪さんだな……でも、いいんですかい?俺がやるとちょっと手荒な捕まえ方になりますよ」
「ああ、構わん!!少しぐらいの怪我なら治癒魔導士に治させるわ!!」
「そういう事なら……悪いな、嬢ちゃん」
「くっ……」
バーリの命令を受けた男は酒を飲み干すと、空瓶を放り投げてナイと向き合う。格好から見る限り、どうやらバーリの私兵というわけでもなく、恐らくはモウタツが行っていたバーリが雇っている「傭兵」なのだろう。
ダンと呼ばれた傭兵は武器の類は短剣らしく、彼は鞘ごと引き抜いて構える。鞘に嵌め込んだまま自分と戦うつもりなのかと思ったナイは舐められているかと思ったが、冷静に考えれば今の自分は少女の格好をしている事を思い出す。
(多分、この人は俺をただの女の子だと思っているはず……それなら、その隙を突いて逆に仕掛ければ……)
ナイは相手が自分をただの少女と思い込んで油断している隙に仕掛けようと考え、ダンの動きに注意しながら身構える。ナイも服の内側に刺剣を隠し持っており、一瞬でもダンが隙を見せれば武器を抜く事が出来る。
(さあ、どう動く……いや、ここは相手が近付いたら迎撃を発動させて殴りつけるか?それとも机の上の紅茶を投げつけるか……)
頭の中でナイはダンに対して自分がどのように動くのかを考え、彼を倒せればバーリを捕まえる事が出来る。バーリを捕まえてミイナの居場所を吐かせ、彼女を救出すれば彼の悪事を暴いて捕まえる事だって出来るだろう。
ここでバーリを確実に捉えるためにナイはダンに負けるわけにはいかなかった。しかし、そんな彼の焦りを見抜いたかのようにダンはゆっくりと口を開く。
「――悪いな、嬢ちゃん」
「えっ……!?」
ナイはダンの姿が一瞬にして消えた様に見えたが、次の瞬間にみぞおちの部分に衝撃が走った。何が起きたのかとナイは目を見開くが、あまりの苦痛に悲鳴を上げる事も出来ず、呻き声を漏らす。
「がはぁっ……!?」
「これも仕事なんでな……悪く思わないでくれよ」
耳元でダンの声が響き、ナイは顔を向けようとしたが、その前に首の裏にも衝撃が走り、意識を失う――
――ナイは意識を取り戻すと、自分が薄暗い場所にいる事に気付き、慌てて身体を起き上げる。辺りが暗闇に覆われているので何が起きたのかとナイは混乱したが、すぐに手元と足元に違和感を感じ取った。
「くっ……!?」
「……やっと起きた?」
「え、その声は……!?」
「どうやら眠り姫のお目覚めの様ね……」
「う~……まだ頭がくらくらするよう」
何処からか聞こえてきた声にナイは振り返ると、そこには暗闇で覆われているので見えにくいが、手足を縛りつけられているミイナ、ヒナ、モモの姿があった。どうやらナイも含めて4人とも捕まってしまったらしく、現在は牢の中に閉じ込められていた。
ナイ達が閉じ込められた場所は地下なのか窓は存在せず、灯りも牢の外の燭台に火が灯されており、どうにかお互いの状況を確認できた。ナイとヒナとモモは手足を縄で縛りつけられているが、ミイナの方は金属製の枷を両手と両足に嵌め込まれ、更に足の枷には鉄球までも取り付けられている。
「ミイナさん!!良かった、生きてたんだ……」
「……生きてはいるけど、無事じゃない」
「ここに来る途中に派手に暴れたせいで魔獣用に用意されていた枷を取り付けられて動けないらしいわ。どうやらミスリル鉱石と鉄の合金みたいだからいくらミイナの力でも壊すのは無理そうね」
「むうっ……」
ミイナは捕まる前にかなり抵抗したらしく、彼女を拘束するには普通の縄や木造製の枷では駄目だと判断され、魔獣を取り扱う際に用意された特別製の枷で拘束されているという。
枷には鍵穴が存在し、この鍵を開けなければいくらミイナでもどうしようもならず、彼女は恨めしそうに枷と一緒に取り付けられた鉄球にも視線を向ける。この時にナイは捕まっているのは自分達だけだと知り、何が起きたのかを尋ねる。
「あの、どうして僕達はこんな場所に……?」
「ここは拷問室らしいの……バーリの元へ連れて来られた女はここで調教されてあいつに逆らえない言いなり人形に洗脳されるそうよ」
「調教って……!?」
「壁の方を見て見なさい……血で文字が書かれているでしょう?どうやら、前にここにいた娘が書き残したみたいね」
ナイはヒナの言葉に驚いて振り返ると、そこには壁一面に血文字で文字が書き込まれており、その内容は罵倒や謝罪、更にはこれから自分達がどんな目に遭わされるのか詳細に記されていた。
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