第182話 成金趣味

バーリの屋敷の中はドルトンの屋敷と比べても内装は派手であり、大量の芸術品が置かれていた。壁には所狭しと絵画が立てかけられており、ナイ達は美術館にでも迷い込んだのかと錯覚するほどである。


玄関ホールの中央には黄金に輝く石像が存在し、恐らくは女神像だと思われた。こちらの像だけでもどれほどの価値があるのか分からないが、何故か女神像の傍には恐ろしい形相をした魔物の石像も存在した。



「何よ、ここ……」

「わあっ……す、凄いね」

「見るからに成金趣味ですね……私、何度か仕事で貴族の屋敷に入った事がありますが、ここまでの屋敷は初めてです」

「何か、趣味が悪いな……」

「お前等……頼むから他の兵士の前では絶対に喋るなよ」



屋敷の内装を見てナイ達は呆れてしまい、そんな彼等にモウタツは注意すると、ここで屋敷の使用人と思われる女性が現れた。



「……ご用件は何でしょうか?」

「あ、ああ……バーリさんに貢物、いや……贈り物を届けにきた。どうか主人に会わせてくれ」

「申し訳ありませんが、バーリ様は男性の方とは会いません。ここから先は私が案内しますが、よろしいですか?」

「お、おいおい……それは困るな。俺は頭からバーリさんに直々に贈り物を渡すように命じられているんだ」

「そうは申されましても……男性の方を連れて行ったら私が怒られてしまいます。下手をしたら……」



モウタツは女性の使用人に抗議するが、使用人の方は身体を震わせ、顔色を青くさせる。どうやらバーリの「お仕置き」とやらを恐れているらしく、少し可哀想に思えた。


だが、ここでモウタツと離れるのは得策ではなく、もしも彼が離れている間に裏切ってしまえば計画は台無しになってしまう。そこでナイはヒイロに視線を向け、彼女にモウタツの見張りを任せる。



「ヒイロさん、モウタツの傍から離れないで……」

「えっ!?ですが……」

「大丈夫、二人は僕が守ります」

「……わ、分かりました。信じていますよ」



ナイの言葉にヒイロは仕方なく従い、この状況で文句を言えば逆に怪しまれてしまう。モウタツの事はヒイロに任せ、ナイはヒナとモモと一緒に使用人の後に付いていく。



「二人とも……いざという時は俺の後ろに隠れてください。何が起きようと二人は守りますから」

「男の子ね……頼りになるじゃない」

「う、うん……格好いいよ。でも、その恰好で言われるとちょっと変な感じだね」

「…………」



ヒナとモモはナイの今の格好で男らしい事を言われても違和感を拭えず、その一方でナイも早く着替えたいと思った。バーリと出会うまでは我慢するしかない。



「ちっ、分かったよ。なら、俺達はここで待たせてもらう。そいつらはあんたに任せる……それでいいんだろ?」

「はい、申し訳ございません……では、参りましょうか」

「3人とも、気を付けて……」



使用人はモウタツの返事を聞いて安堵すると、ナイ達を連れてバーリの私室へと向かう。この途中でナイは何度か通路に置かれている魔物の姿をした石像を見かけ、疑問を抱く。



(何だろう、この石像……何か変な感じがする)



異様なまでに巧妙に作り出された魔物の石像を見てナイは違和感を拭えず、どうにもバーリの趣味が分からない。あまりに上手く出来ているので本当に生きているのではないかと思う程であり、見ていて気分が落ち着かない。


美術品にしては異様な雰囲気を放つ石像は屋敷の至るところに存在し、それに対してナイはどうにも落ち着かず、早くバーリを捕まえてミイナを見つけ出したいと思った。そして考えている間にも使用人は目的地へと辿り着く。



「こちらにバーリ様がおられます。ここから先は貴方達だけが入って下さい」

「え?でも……」

「バーリ様、あの御方からの贈り物が届きました」

『んんっ!?贈り物だと……昨日も来たばかりなのに随分と羽振りがいいな』



使用人がノックを行うと、扉の内側から声が聞こえ、すぐに扉が開かれる。すると、中から現れたのは小太りの中年男性だった。その姿を見てナイ達は表情を引きつらせる。



「ほうほう、これはこれは……随分と若いのを送り込んできたな!!見た所、3人とも未成年ではないか!?アッシュの奴め、中々気の利いたの贈り物をしてくれたな!!」

「あ、あの……」

「おおっ、すまんすまん。怯える事はないぞ!!儂は優しいからな……ささっ、中に入ってくれ」



バーリという男は身長は150センチ程度しか存在せず、かなり太った男性だった。最初に見た時はナイはオークかと思ったが、すぐに彼がバーリだと知る。


先ほどヒナは屋敷の内装を見て成金趣味が作った屋敷なのかと言ったが、その言葉通りにバーリの外見もかなりひどく、全ての指には様々な宝石の付いた指輪を嵌め込み、耳にはピアスまで取り付けている。首には紫色の宝石のペンダントも掲げていた。

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